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　仰向けにされたシャルロットを蹴り落として、さらに高度を上げる。優先して狙うべきなのは、後方にいるエクセレン。

　「おや、あの子より私？　いけないわよ～」
　真っ直ぐに突っ込んでくるクリスに、エクセレンはパルチザン・ランチャーの銃口を向けて迷わずトリガーを引いた。

　「悪いけど、乱暴っぽく行くぞ！」
　飛んでくる特殊徹甲弾を横へ移動して避けて、クリスはをファング・スラッシャーを投げ飛ばした。

　「当らないって言ったでしょ？　見え見えなのよね～！！」
　曲線的な動きで迫ってくるファング・スラッシャーを容易くかわした後、エクセレンはポニーテールを揺らして自分の後ろに迫った巨影に左腕の三連ビームキャノンを突きつけた。
　「これでチェックメイト……ってえぇ？！」
　クリスのエクスバインボクサーだと思ってた影に注意を向けると、そこにはAMボクサーしかなく、エクスバイン本体とクリスがいない。

　「こっちだ！！」
　「チッ、マジシャンだったのね！！」
　後ろからクリスの声を聞こえて急いで振り返ると、AMボクサーと分離したエクスバイン本体とクリスが迫ってきた。慌てて距離を取ろうとすると、後ろから自分の両手を拘束する力を感じた。
　分離されてるAMボクサーの両手によって、エクセレンは上腕が掴まれて逃げられないように拘束された。
　「なっ！！　これ、自分だけでも動けるの？！」

　「種明かしは後！！」
　拘束されてる相手にも容赦はしない。次の瞬間にクリスはグラビトンライフルとフォトンライフルSを同時に呼び出して、ゲシュペンストMK-IVに照準を合わせた。
　「まずは全弾ぶち込むぞ！！」
　交互して引き金を引いて、弾切れになるまで撃ち続ける。AMボクサーがエクセレンを押さえてくれているため、吹き飛ばされることない。

　「拘束されている女にタマをぶち込むなんて、とんだ外道だわ！！」
　「余裕だなお前は！！」
　これでエクセレンのエネルギーシールドが一気にレッドゾーンまで削られた。再びAMボクサーの中枢位置に背を預けて再ドッキングした後、クリスはエクセレンを拘束したまま下方へ突き出す。
　そこから飛んできたのは、ゲシュペンストMK-IIIの5連チェーンガンの銃弾だった。

　「……あっ！！」
　パートナーが自分の銃弾を浴びたのを見て慌てて銃撃を止めて、シャルロットはリボルビング・ブレイカーを振り上げる。

　「ちょ、用済みになったら盾代りに使う訳？！　鬼畜！！　人でなし！！　お巡りさんこっちです！！」
　「うっさい！　こっちは一発でアウトだから余裕がないんだよ！！」
　既に目の前まで迫ったシャルロットに向けて、クリスはエクセレンを思いっきり蹴り飛ばす。

　「うわっ！！」
　「ちょっとシャルルちゃん！　受け止めてくれないの！！」
　飛んでくる既に撃墜判定されたエクセレンに対して、シャルロットは避けることを選んだ。しかしこの回避行動によって、突進中だったゲシュペンストMK-IIIは一瞬減速した。
　この一瞬の機を作り出すのが、クリスの狙いだった。空中バック転して、クリスはエクスバインボクサーの右足にパワーを集中させ、背部スラスターを一斉に噴かした。

　「これで仕上げだ！！　カタバルト・キック！！！」
　シャルロットに向って、最後の必殺キックを放った。視線を戻した瞬間既に目の前に迫ってきたキックを回避する術もなく、シャルロットは地面へ叩き落されていく。
　「うわあああ！！」
　青い閃光となって地面に衝突して、ゲシュペンストMK-IIIの装甲がグラウンドに長い溝を掘った。

　「これで、逆転だな」
　「あっ……！！」
　まだ衝撃が完全抜けてない頭を揺らしながら上半身を起こして目を開けると、目の前にはグラビトンライフルの銃口があった。

　「本当に逆転できたなんて……！！」
　撃墜寸前だったエクスバインボクサーに一分も経たないうちに、エクセレンと一緒に落とされた。鮮やかな手際に声も出ない。
　かなり鬼畜なやり方だった気もするが。
　「俺自身も驚きだよ」
　口ではこう言うが、クリスは気づいていた。
　即座に組み上げた自動プログラムに捕まえるほど、エクセレンは単純じゃないはずだから、多分わざと手を抜いたのだろう。
　詫びのつもりか空気を読んだからかまでは分からんが。
　　
　「とにかく俺の勝ちだ。明日はデートな」
　勝ち誇った顔でシャルロットに笑いかけて、クリスはトリガーを引いた。　



　「酷いよ……あんなに一杯蹴るなんて」
　シャワーの後、いつものジャージに着替えたシャルロットは自分のベッドに腰をかけて唇を尖らせた。
　「文句言うな。こっちだって必死だった」
　パソコンと向き合って、マリオン先生に改修してもらった「AMサーバント」の設計図をチェックしながら、クリスは振り返らずに返事をした。
　「俺なんて、リボルビング・ブレイカー連発で腹にあざが出来てるよ。もう二度とごめんだな、あの機体の相手をするのは」
　「うん……でも私は結構気に入ったな、ゲシュペンストMK-III」
　「勘弁してくれ。それともアメリカに行きたいのか？」
　「行って欲しくない？」
　背後から聞こえてくるシャルロットの声は、どこか嬉しそうだ。

　「……当然だ」
　「じゃ、ちゃんと言ってくれる？」
　「何を？」
　「わかってるくせに」
　「……」　
　やれやれと肩を竦めながら、クリスは立ち上がってシャルロットに正面を向ける。
　期待に満ちた眼差しで見詰めてきたシャルロットの頬は、ほんのりと赤く染まっている。
　今更ながら、やっぱ恋愛とナンパはまったくの別物だと改めて実感する。
　鼓動が早まっているのをなるべく気付かれないように無表情を装ったまま、クリスは自分の気持ちを口にした。

　「……ずっと俺の所に居てくれ。全力で大事にするから」

　「……っ！」
　細い指で口元を押さえて、シャルロットの目からは雫がこぼれた。
　「……泣くなよ。大袈裟だな」
　震えるシャルロットを抱き寄せて、クリスは彼女の額を自分の胸に押し付けた。
　「ご、ごめんね……でも嬉しくて」
　友達が出来たのも、自由を手に入れたのも、恋の気持ちを知ったのも、全部クリスのお蔭だった。なのに自分は嫉妬を抑え切れなくて彼に色々酷いことをした。
　絶対嫌われたと思ったのに。
　なのに自分のことを大事にしてくれると約束してくれた。
　「……私も、クリスのことが好きだよ」
　「そうか」
　泣き声混じりの声で返事した彼女のまだ乾いてない髪を、クリスは優しく撫で続けた。
　この腕の中にある弱々しい女の子を幸せにできる確証はどこにもない。でもそれを目標にして頑張れば、自分ももう少しマシな男になれるだろう。

　まっ、焦らずに行こう。