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IS  バニシングトルーパー 026

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 「クリスさん……」
 「……なに?」
 甘えた声で、セシリアはクリスの名を呟いた。気が付くと、彼の制服の裾に手を伸ばした。視線をクリスの胸元を向けたまま、セシリアは口を小さく動かす。
 「……クリスさんは、どうして私に優しくしてくれますの?」

 「いきなりどうした。やっぱりまだ気分が悪いのか?」
 「いいえ、ずっと考えていた問題です。最初に会った時私はクリスさんに酷いことを言いましたのに、あっさり許してくれましたよね。どうしてですか?」
 「うん……男は女を笑って許すのが義務だから?」
 「も、もう~またそんなこと言って誤魔化そうとしますから……」
 責めるような口調で顔が少し赤く染めたセシリアは一瞬むっと頬を膨らませた後、また顔を曇らせた。
 「……最近、失敗ばっかりしますの。料理も、模擬戦も。なのにどうして怒りもせず、いつも通り優しくしてくれますか?」
「セシリア……」
 クリスの目に映っているセシリアはいつもの自信がなく、明らかに意気消沈してる。そんな彼女を、放っておけないと思った。

 「……あの時言っただろう? どんな相手でもまずは知ることから始まる。毎日セシリアと話してセシリアのことを見て、俺は知ったんだ。セシリアは強情で少しわがままな所があるけど、本当は頑張り屋で、何事も一生懸命」
 「クリスさん……」
 視線を上げてクリスの真剣な眼差しに触れて、セシリアは自分の胸奥に締め付けられたような痛みを感じた。
 こんなにも見てくれているのに、努力の結果を出せない。
 「……セシリアは自分に対してもう十分に厳しいよ。だからセシリアに優しくするのが、友人としての俺の役目だと思っている」

 「友人……ですか」
 この単語を耳にした瞬間は、セシリアにとってとても切なく、寂しい思いをした瞬間だった。
 「……友人だろう?」
 そう言って、クリスは手をセシリアの肩に置いて微笑みかける。
 
 「……っ」 
 左肩から感じる硬いの感触が、セシリアをさらに切なくさせる。
 知り合ってもうこんなに経っているのに、義手のことも含めて、クリスは過去のことを何一つ話してくれない。
 なのに一方的な優しくされて、自分のことが知られていくだけ。
 そこまで思うと、ムカつくという感情が、セシリアの中で膨らみ上がって来た。

 「やっぱり、私は……!!」

 「そろそろ戻ろう」
 セシリアの言葉を遮るように、クリスが先に口を開いた。同時に、視線をセシリアの目から逸らして、肩に置いた手を離した。
 「……えっ」
 出鼻を挫かれて、喉から出そうになった言葉をセシリアは再び飲み込む。

 「部屋まで送るよ。マリオン博士の方は俺が連絡しておく……って、どうしたの? 変な顔して」
 取り出した携帯からセシリアの顔に視線を戻すと、あからさまにとても不機嫌そうな表情が目に入った。
 「……体調が悪化した?」
 「何でもありませんわ! ふんっ!!」
 頬を膨らませ唇を尖らせたまま、セシリアは早足でクリスの横を通り過ぎて行った。段々離れていくセシリアの後姿を見てやれやれと肩を竦めながら、クリスは彼女の後を追って、小声で呟いた。
 「セーブ……だよね。……うん?」
 歩き出した途端に、手に握っている携帯のメール着信音が響いた。ボタンを押してメールを開くと、

 『ギリギリアウトだよ』
 とだけ、書いてあった。

 「……どこから見ていた」
 考えずには居られなかった。



 暗い部屋の中、液晶モニターのと向き合っている女一人が、一心不乱にキーボートを叩いている。
 ピンク色の髪に立っている大きなウサギ耳二つと、服から零れそうな豊満な胸を特徴としているその女性は、とても愉快そうな表情をしてモニターを見詰めている。

 「すごいすごい!! シーちゃんってばそんな凄いもの造ってるんだ!!」
 両手を万歳にして、女性はまるで子供のようにはしゃいで歓声を上げる。

 「こっちも負けてはいられないね!! よ~し、私も凄いのを作るぞ!! あっ、そうだ、シーちゃんのそれ、披露目は何時になるのかな? 見学に行かないと!!」
 椅子から立ち上がって、女性は足元にある愛用の道具箱を持ち上げた。

 「あ~あ、忙しい、忙しいな~!!」
 と鼻歌を歌いながら、部屋の外へ出て行った。

 つけっ放しの液晶モニターにはまだ完成していない蒼き魔神の姿と、「GRANZON」の文字が映っていた。