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IS  バニシングトルーパー 028-029

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stage-28 話しておきたいことが、あるんだ




 「お疲れ……さすがだな、篠ノ之」
 「ありがとう。クレマンにそう言ってもらえれば安心だ」
 
 沈んでいく夕日の光に照らされているグラウンドの隅で、銀髪少年は壁に寄り掛かっているポニーテール少女にジュースを差し出し、それを受け取った少女は礼を言いながら、疲れた顔に笑顔を浮かべた。
 
 学年別トーナメントは既に明日にまで迫っている。明日の試合を控えて、放課後の時間を使って練習する生徒たちは早々と練習を切り上げたため、今のグラウンドでは人影がかなりすくない。 
 
 とは言え、いつものメンバー達が見えないのはそういう理由ではない。
 
 専用機持ちたちがパートナーを決めてペアを組んでから、各自のコンビネーションと作戦方針を隠す意味合いで、意図的に違うアリーナで練習している。そのため、隆聖&一夏ペア、そしてレオナ&シャルロットペアの練習内容はまったく知らないし、改修が完成した「ラファール・リヴァイヴ・カスタムSP」の稼動状態も把握していない。

 シャルロットの機体改修作業を終えて、二日ほどの微調整とデータ採集の後、エクセレンとマリオン博士は急いでアメリカに帰った。シャルロットのことをまだ完全に諦めてないみたいだが、量産機として開発し、いきなり実戦に出されて破損した「量産型ゲシュペンストMK-II改」の追加注文が入った様で、あまり日本でのんびりしてはいられなかったのだろう。
  
 「篠ノ之の接近戦能力なら安心して前衛ポジションを任せられる。俺はAMボクサーを温存してエクスバインで支援射撃を行い、篠ノ之は距離を詰めて得意の剣術で戦えばいい」
 
 最初は一夏と組めなくてやる気がなくなってるんじゃないかとクリスはちょっと心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。さすがに何年も剣道をやってただけあって、接近戦能力は中々に信頼できる。
 
 「私が前衛か……わかった」
 「あと、練習通り地面に武器を設置しておくから、相手がお前を無視して俺を囲んできた場合にそれを拾って適当に威嚇射撃をしてくれ」
 「ああ、分かっている」
 
 ISの武器は原則上持ち主して使えないが、ユーザ登録すれば汎用武器を味方は使えるし、相手に拾われることもない。

 「手筈通りに戦っていけば、専用機ペアと会うまで負ける確率は低いはずだ」
 「やはり専用機ペアが問題か。私も専用機を持っていれば……」
 
 眉の間に皺を寄せて、箒は拳を握り締めた。
 試合では、専用機を持たない箒は量産機の打鉄を使うことになる。クリスと組んでいても、専用機二機のペアとやり合うのは、少々心もとない。
 
 特にレオナとシャルロットペアは強敵だ。
 クリスにとってレオナは一度も勝ったことのない相手であり、シャルロットも元々高い実力の上に最近の連戦でかなり強くなっている。さらに、堅実な技量を持っているこの二人にはポテンシャルの高い専用機を持っている。
 今回のトーナメントで優勝を狙うのに最大の難関と言っても過言ではないだろう。

 「そんなに気負うなよ。俺とお前がうまくフォローし合えば、十分にやれるさ」
 「でも……」

 クリスの言葉を聞いても、箒はまだ納得がいかないような顔をしている。
 無理もない。いつもの仲良しグループの中、専用の機体を持たないのは箒だけ。そのことを彼女はずっと気にしていたのだろう。
 しかしそんな思い詰めたような顔をしている箒に、クリスは安心させようと微笑みかけた。

 「なっ、篠ノ之。ゼンガー少佐のことは覚えてるか?」 
 「ゼンガー・ゾンボルト少佐か……忘れはしないさ」
 同じ剣を握る者として、あのドイツから来た男が見せてくれた太刀筋を箒は忘れるわけがない。本人は未熟と自評しているが、箒からみれば既に自分が遠く及ばな境地にいる存在に感じた。

 「あの人はISのエネルギーシールドですら切り裂けた。日本刀一本でな」
 「そんな馬鹿な……」
 自分の予想よりさらに強い剣士だった。
 あまりにも衝撃的な事実に、箒は目を丸くした。だがあの時の記憶を思い返したクリスは、苦笑いをして箒を見返した。

 「本当だよ。斬られたのは俺だったからな。あの時は思い知らされたよ。強さを決める決定的な差は機体性能や適応性などではなく、人ってな。篠ノ之の中には、ゼンガー少佐の強さと似ている何かを秘めている。そう思ってるから、俺は安心してお前に背中を預けられる」
 「私が、ゼンガー少佐に……か」
 クリスが励ましのつもりで言った言葉を聞いた箒は、なぜか肩を落として顔を曇らせて地面に視線を向けた。

 「篠ノ之……?」
 微妙に落ち込んでるように見える箒を、クリスは心配そうに声をかけた。そして僅かな沈黙の後、箒は顔を伏せたまま口を開いた。

 「……違うのだ。私は心の弱い人間だぞ」
 この言葉を口にした箒はまるで古傷が抉られたように辛そう表情をしていた。そんな彼女を見て、クリスの顔色がやや変わった。

 「なぜそう思う?」
 「……クレマンは、自分に負けて暴力に溺れるような人間でも友達だと思うのか?」
 クリスの質問を質問で返した箒の顔は、いかにも真剣そうに見えた。
 何か訳ありって顔だった。そんな彼女の問いに、クリスは僅かに考えた後、口を開いた。

 「ついこの間、俺が頭に血が昇ってあのラウラ・ボーデヴィッヒを殴って、隆聖に止められたこと、覚えてる?」
 「あの時か……」
 セシリアと鈴を一方的に甚振ったラウラにクリスが怒りを覚え、本気で潰そうとした時のことは、箒にとってかなり印象的な出来事だった。普段はあまり感情を顔に出さない分だけ、激怒したクリスはまるで別人になったみたいな変わりようだった。
 だがそれでも、他人のために力を行使した彼はあのごろの自分と、不満を発散するために剣を手にしたあのごろの自分とは違う。

 「理由はどうあれ、あの時の俺はボーデヴィッヒに暴力を振った。ISというものは個人だけの力ではないことを、あの時に忘れた俺は間違っていた。だが隆聖は止めてくれたし、俺も反省はした。もし次があっても、もっと冷静に対応するつもりだ」
 「反省、か」
 「ああ。次は同じ間違いをしないから、それで十分じゃないか。いくら力を握っているとは言え、俺達はまだ高校生だ。自分を定義するにはまだ早い」
 「簡単に割り切れるのだな」
 「少なくとも、立ち止るよりはマシだろう。過去に何があったかは知らないが、俺の目に映っている篠ノ之は真っ直ぐな女の子だ。だから、俺はこれからもお前のことを友達だと思い続けるし、お前の力になりたいと思っている」
 「……ありがとうな」
 「あれ、もしかして篠ノ之はあの一件で俺のことが嫌いになったのか?」
 「あっ、ごめん、そういう訳じゃないんだ、誤解しないでくれ」
 本気で不安そうに聞いてくるクリスに、箒は慌てて手を振って彼の考えを否定した。
 箒にとって、クリスは数少ない心を開ける男友達だから、誤解されたくはないだろう。

 「そうか、ならよかった。とりあえず今日はこれくらいにして、晩飯に行こう。明日の本番からはしっかり頼むぜ、篠ノ之」