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IS  バニシングトルーパー 030-031

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stage-30 学年別トーナメント 中篇




 

 「さあ、これでもう逃げられないわよ」
 「……っ」

 晴れた塵煙の中から現れたのは肩部装甲が深く凹み、反重力ウィングも酷く破損したエクスバインだった。グラビトンライフルを杖に、クリスは立ち上がってレオナを睨みつける。

 「本気を出しなさい。でないと、負けてしまうわよ」
 クリスの睨みを受け止め、レオナは相変わらず冷静そうな表情で対峙する。何かを隠しているとは思っていたが、まさかそこまで有力な武器とは思わなかった。

 「……そうだな」
 確かにソニック・アクセラレーションの一撃は中々に痛いが、グラビトンライフルの直撃を浴びたレオナもかなりのダメージを負ったはず。
 箒はまたシャルロットと苦戦しているが、さすがにこれ以上レオナを無視して援護するのは厳しい。
 グラビトンライフルを戻して、片手にナイフを呼び出したクリスは腰を低くして突進した。

 「はあっ!!」
 「遅い!!」
 クリスのナイフをブレードレールガンで受け流してレオナはもう片方のトリガーを引き、それを見たクリスは体をねじって回避した後足払いをしてレオナのバランスを崩そうとする。
 まるで、訓練生時代の体術模擬戦を彷彿させるような光景だった。 
 しかし二人は、もうあの頃の訓練生ではない。より無駄の無い、洗練された的確な動きで相手の死角を狙い、削りあっていく。

 「珍しく真面目ね! そんなに勝ちたいかしら?」
 首元を狙ってくるナイフの突きをかわして、レオナはローキックをかます。
 今のクリスの動きに淀みが一切に存在しない。だがそれ故に対応しやすい。
 同じ体術を学んだんだから、行動などすぐ読めてしまう。
 今の二人はパワーにスピード、そして技の練度を競い合っている……はず。

 「優勝まで連れて行く約束したんだからな。ここで負けたら、俺の信用が落ちる!」
 「何か信用よ! あなたは女の子を喜ばせたいだけでしょ!!」
 「それの何が悪い! 女の子と話すのが好きで触るのが好きで喜ぶ笑顔を見るのが大好きで守備範囲が12から40までで何が悪い!! 」
 何事も一生懸命で不器用な箒を見て、ただ仲良くなって力になりたいと思った。それ以上のことをクリスは何も考えてないが、レオナの売り言葉についつい買い言葉を返してしまう。

 「やはりあなたは最低だ!!」
 激烈な体術攻防の最中にクリスが大声で叫んだ言葉に、レオナは激怒して動きがやや大振りになる。
 「人の気持ちも考えずに優しくすれば誰も喜ぶと思ったら大間違いよ! そういう自分勝手なところが一番気に入らないわよ!!」
 「余計なお世話だ! 大体お前はエルザム様エルザム様って連呼しているとき俺の気持ちを考えたのかよ!!」
 「そ、そんなに連呼してないわよ!!」
 「毎日最低でも十回くらいだったぞバカヤロウ!!」
 「うるさいわね! 節操なしの分際で!!」
 自分のことを棚に上げて互いへの不満を口に出して喧嘩をしている間にも、ぶつかり合う金属の刀身から甲高い衝撃音は絶えずに響き続いている。

 「だから毒入りの料理で俺を殺そうとしたのか!!」
 「なっ! だ、黙りなさい!! 誰のために私が料理なんて……!!」
 「……あっ」
 レオナの傷ついたような表情が目に入った瞬間、クリスは自分の失言を自覚した。
 手料理を部屋まで持ってきた時、顔にまだ調味料がついているレオナの期待に満ちた表情を思い出す。
 それだけではない。
 訓練で怪我をした時、不器用な手つきで手当てをしてくれるレオナの心配そうな表情。デートの時にプレゼントを受け取ったレオナの嬉しそうな表情。
 どうして忘れていたのだろう。
 どうしてあの時につまらない嫉妬心に負けて、彼女の気持ちを信じられなかったのだろう。

 「……知っているよ。味は覚えてないけど、嬉しかったし、感謝もしている」
 「何をいまさら!!」
 「お前と一緒に居た時間は凄く楽しかった。ありがとうそして……終わりだ!!」
 「えっ……あっ!」
 一瞬に動きを鈍ったレオナの腕を拘束して、クリスは隠していた最後の武器を呼び出してレオナの腹部に狙いを定めた。

 「日輪の力を借りて、今必殺の! G! インパクト! ステェェェェェク!!」

 日輪というか真っ黒な笑みを浮かべたクリスの一撃によってズィーガーのエネルギーシールドが底を尽き、レオナの敗北が決まった。
 そして試合はそのまま二対一の場面になり、二人の連携で孤立したシャルロットを追い詰めたのもそれほど時間は要らなかった。
 こうして、クリス&箒ペアはなんとか第一回戦を切り抜けることに成功した。


 「お疲れ。結構派手にやったな」
 「しかし予想以上に消耗してしまった。次からは注意しないと」
 待機室に戻ると、クリス達を迎えたのは隆聖と一夏だった。差し出してきたタオルを受け取り、クリスは次の試合の対策を考え始めた。

 「箒も凄かったな。打鉄でよく専用機と互角にやれてたよな」
 「いや、クリスの援護のお蔭だな」
 一夏に褒められて、箒は赤くなった顔を隠すようにうつ伏せて冷静を装った。

 「そうでもない。シャルル相手に最後まで持ち堪えたのは間違いなく箒の実力だよ」
 タオルで汗を拭いた後、クリスが二人の会話に割り込んだ。
 「そっ、そうなのか」
 「そうだよ。その調子で次も頼むぞ」
 「わ、分かった」

 「この、卑怯もの……!」
 騒いでいる四人を静めたのは、後ろから聞こえたの女子生徒の声だった。
 振り返ってみると、そこに立っているのは怒りで顔が真っ赤になっているレオナと、困ったような顔して彼女を落ち着かせようとしているシャルロットだった。

 「負けは負けだ。言い訳は見苦しいぞ、レオナ君」
 勝ち誇ったような笑みを浮かべて、クリスは肩を軽く竦めて二人に向き合う。
 「くっ……!!」
 納得がいかないような顔で、レオナは凄い目でクリスを睨みつけたまま言葉が出ない。

 「まあそう怒るなよ、俺が悪かったって。本当にすまなかった……今まで色々と」
 「……チッ」
 頭を下げたクリスの顔は冗談の色がまったくなく、いかにも真剣そうに見えた。そんな表情を見て、レオナもこれ以上責めるようなことができなかった。
 「今夜の飯を奢ってやるからさ、それでチャラにしてくれ」
 「だから、子供みたいな扱いはやめて!」

 「おいクリス! 次俺達だから、もう行くからな」
 「ああ、適当に頑張って来い」
 手を振って隆聖たちを見送って、クリスはレオナたちに向き直す。

 「俺は機体の応急処理があるから、また後でな。晩飯は一緒に食べよう」
 「説教してやるから覚悟なさい」
 「それは勘弁してくれ。あとあの少佐殿のことだから、隆聖達とやり合うまでは多分ないと思うが……一人で乱入、なんて無茶をするなよ」
 「あなた、なにを知っているの?!」
 クリスの言葉を聞いた瞬間、レオナは一瞬で引き締った表情になった。
 エルザム少佐の指示でここに来た目的は誰にも教えてないはずなのに、なぜかクリスはそれを知っているような口ぶりだった。

 「入手した情報から推測した結論だったが、正解のようだな。もしもの時は俺とシャルルを呼べ。手伝うから」