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IS  バニシングトルーパー 030-031

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 「……覚えておくわ」
 「それでいいよ」
 それだけ言い残して、クリスはシャルルの頭を一回撫でた後その場を後にしたのだった。



 午前の試合は概ね予想通り、専用機持ちが居るペアは順調に勝ち進んでいく結果になった。
 元々は専用機持ちの大半は入学の時点で既にかなりの経験を積んでいるし、そうでなくても練習の時間とチャンスは一般生徒より遥かに多い。だからこの状況はむしろ当然な結果だと言えるだろう。
 そして昼休みが過ぎると、午後の第一回戦にて隆聖&一夏とラウラとの対決が予定されていた。


 「まあ、あれだな。ボーデヴィッヒは腕は決して悪くないが、あのくだらない小細工に頼りすぎている。お前たちがちゃんと連携して慎重に行けば問題ないだろう」
 待機室でガムを噛みながら、クリスはこれから戦う男子二人に最後のアドバイスをやる。
 「機体の性能ではお前達の方が有利だが、一瞬でも気を緩めるな。午前の打鉄やラファール・リヴァイヴ相手とは違うからな。常に全体的に場面を見て行動し、敵を一対二だと錯覚させて神経をすり減らせ。あと言葉で相手を惑わすのも立派な心理戦術だ。遠慮なくやってみるといい」

 「いや、聞くだけなら簡単だけどさ」
 「実際にやるのがむずかしいんだよ……」
 クリスのアドバイスを聞いた隆聖と一夏は顔に難色を示した。
 この二人は戦略や策をあまり考えずに突っ走るタイプだから、複数のことを同時に考慮しながら戦うなんてことが無理だと言うのは、最初から分かっていたことだった。

 「そう言うと思ったよ。まあ、負けても俺にが嘲笑われて負け犬呼ばわりされるだけだから、あまり気負わずにな」
 「「気負うわ!!」」
 「なら負けないことだ。せっかくの男の見せ場だし、派手に暴れて来い。そしてあのボーデヴィッヒに土下座で謝罪してもらって、パシリにしてやろう。白いワンピースと三角帽子を被らせて、語尾に“ゲソ”を付けさせてね」
 「いや、そこまで望んでないから。というかお前酷いな」
 「当たり前だ。こっちは銀髪冷酷キャラ被ってて迷惑してんだよ」
 「「お前は冷酷じゃなくてただの八つ当たりだ!」」
 いかにも嫌そうな顔してそう言い放ったクリスに、隆聖と一夏が大声でツッコミを入れた。

 こうして結局最後の作戦会議も騒いだだけで終わり、隆聖と一夏はグラウンドに立ってそれぞれ真っ白な「白式」とトリコロールカラーの「R-1」を纏い、試合開場を待つ。

 向こうで対峙しているのは、黒い雨「シュヴァルツェア・レーゲン」を展開して、何かを考えているように自分の手のひらを眺めているラウラと、泣きそうな顔して打鉄のブレードを握っている女子生徒一人だった。
 ラウラからは邪魔者扱いされ、話すら聞いて貰えない可哀想な子だ。

 そして開場三分前、隆聖は通信チャンネルを開いてラウラへ呼びかけた。
 「聞こえるか、ラウラ・ボーデヴィッヒ。いや、ラウラ」
 「……」
 向こうからは返事して来ないが、それでもラウラの視線が隆聖に向けてきたところを見ると、声は確かに届いたようだ。

 「返事がしないなら勝手に喋らせてもらうぜ。実はお前のこと、一夏の姉貴から色々と聞いた。確かにお前の人生は、俺なんかの想像より遥かに残酷だったかもしれない」
 「……それが私に与えられた生きる意味だ。前も言ったが、憐みなど要らん」
 僅かの沈黙の後やっと返事してきたラウラの声は、意外と穏やかなものだった。

 「だろうな。けどお前の意志はどこにある?」
 「何だと?」
 「一夏の姉貴がお前の理想になるのを邪魔した一夏を倒して、俺も倒せば誰かに認められるって、結局はそう思ってるだけなんじゃねえのか?」
 「……そんなのは貴様と関係ない。私の前で、己の無力を思い知るがいい」
 「確かにお前の苦労を俺には分からねえ。だが俺だって俺が選んだ道を一生懸命生きてきたんだ。お前が自分の足で歩こうともしねえでただ駄々をこねるなら、俺が叩き起こしてやる!!」

 『試合開始』
 隆聖の言葉が終わるのと同時に試合開始の合図が鳴り、双方が同時に動き出す。

 「面白い。なら精一杯足掻いて見せろ!! 伊達隆聖!!」
 「ああ! そうさせて貰う!! 行くぞ、一夏!!」
 「おおっ!!」
 隆聖の合図を見た瞬間から一夏は雪片弐型を構えてスラスター全開で突進した。ラウラはレールカノンの砲口を彼に向けて照準を合わせるが、そこで隆聖の援護が入った。

 「撃たせるかよ!!」
 ブーステッドライフルを構えて、隆聖はレールカノンが発射する前にラウラを攻撃する。連射速度ではこっちの方が断然早いから、ラウラはAICを使うか回避するかしかない。

 「そんな粗末な攻撃で!!」
 案の定、ラウラは横へ滑走しながらAICを発動して一夏を止めようとする。しかし、一夏は構わず突進を続ける。
 AICの最大の弱点は大量な集中力が必要と、単体の標的にしか使えないという点だ。複数の敵がいる場合、片方にAICを使ったらもう片方の敵にとってはただの的になりかねない。
 そう考えると、AIC相手にに最も脅威的な攻撃は恐らくセシリアのビットによるオールレンジ攻撃だろう。もちろん、パイロットの技量が互角の場合の話だが。

 「クリスから貰ったヒントだからな!!」
 空中へ飛び立った隆聖は、上方からラウラへライフルのトリガーを引き続ける。正確無比にラウラのレールカノンのマガジンを狙う隆聖の攻撃で、安心してAICを発動できないラウラは回避行動を強いられた。
 そこで、一夏は瞬時加速を使って一気にラウラを自分の間合いに入れた。

 「秘剣、エーテルちゃぶ台返し!!」
 「しまっ……!!」
 一周回転して全身の力を剣に乗せて、一夏は素早く斬り抜く。
 両方からの挟み撃ちで隙を晒されたラウラは斬撃を食らって後ろへ吹き飛ばされ、同時に一夏の背後から接近してきたラウラのパートナーを隆聖は狙い撃って撃退した。

 「ナイスフォロー!!」
 「まだまだいくぜ!!」
 一瞬だけ目を合わせて笑いあうと、二人は再び散開して高速滑走を始める。


 「しっかり連携を取れてるな。さすがは長年の付き合いと言った所か。しかし一夏のあの技は何だ?」
 モニターに映っている二人の戦いを見て、クリスは感心したように頷いた後、箒に質問した。
 「あ、あんな技、私は知らんぞ」
 「……だよな」


 「貴様ら、図に乗るな!!」
 体勢を立て直して、激怒したラウラは装甲に内蔵されている黒い蛇、ワイヤーブレードを二人へ同時に飛ばした。
 二人に狙われているこの状況で、接近戦は論外だ。そして、遠距離の射撃をしようにも隆聖に先に撃たれる。なら、この複数の敵を同時に攻撃できる中距離武器を使えば、片方に闇討ちされることはない。
 変幻自在に動くこの武器は六本もある。簡単にかわし切れるものではない。
 だが一度に晒したその武器への対策は、既に隆聖の中にあった。

 「一夏、ここは俺に任せろ!!」
 「任せるぞ!!」
 襲ってくるワイヤーブレードに背を向けた一夏はラウラから離れて打鉄の方へ突っ込み、代わりに隆盛が二丁のG・リボルバーを呼び出してラウラの前へ出た。