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IS  バニシングトルーパー 032-033

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stage-33 若者達の休日 中編




 「どうかな? 似合う?」
 ショッピングモールにある洋服ショップの店内で、白いブラウスの上に黒いジャケットとスラックスを着たシャルが鏡の前に立って自分の姿をチェックしながら、後に立っているクリスに意見を求めた。
 途中で色々と関係ない店まで回ってしまったため、この店に辿りつくまで、一時間以上かかってしまったが、何とかシャルに似合いそうなスーツを見つけることが出来た。

 「うん……似合ってるよ。仕事のできる女の子って感じだな」
 指を顎に当ててシャルの姿を上から下まだ吟味したあと、クリスは素直に頷いた。
 元々男装の経験があるからか、レディーススーツを着たシャルはなかなか様になってる。細い体のラインが引き立てられ、いつもよりしっかりしているように見える。
 でもシャルはちょっと童顔だから、さすがに“女”よりは“女の子”の方が適切だ。

 「そう? じゃこれにするよ」
 「なら、このパンプスも一緒に履いてみてくれ」
 シャルが着替えている間に選んできたパンプスを、クリスは持ち上げてシャルに見せた。かなりシンプルに設計されているパンプスだが、仕事に行くならこれが無難だろう。

 「うん、分かった」
 「じゃ、こっちに座って」
 シャルの肩を軽く掴んで店のソファに座らせた後、クリスはシャルと向き合ってしゃがんで、彼女が今履いている運動シューズを脱ぎ始めた。

 「えっ、ええっ!?」
 「変な声出すなよ。パンプスを履かせてるだけじゃないか」
 いきなりクリスに足を触られて、シャルは小さな驚き声を上げたが、クリスは平然とした態度でシャルにパンプスを履かせる。
 しかしその顔には、楽しげな笑みが浮かべていた。
 シャルを困らせるようなことなら、何でもしてみたい。小学生が好きな人をいじめるのと同じ理屈かもしれない。

 「……」
 まだからかわれたと頬を膨らませていると、自分の前でしゃがんでいるクリスの頭にシャルの注意を向けた。
 柔かそうな銀色の髪が目の前に微かに揺れているのを少し凝視した後、シャルは自分の手をその髪の上に乗せてクリスの頭を撫でてみた。

 「なに?」
 顔を上げて、クリスは意外そうな目でシャルを見る。
 「ううん。普段はいつもクリスに撫でられてるから、偶には私もクリスの頭を撫でてみたくなっただけ」
 「シャルのくせに生意気だな」
 「ええっ! 何で!?」
 「何でって、そりゃ……」
 パンプスを履かせ終わったクリスは少し立ち上がって、シャルの顔に自分の顔を近づけて彼女の瞳を見つめて黒い笑みを浮かべた。

 「シャルは俺のもの、俺は俺のものだからな」
 「ジャイアニズム!?」
 「独占欲が強いって言っただろう?」

 「あの、お客さま? 申し訳ありませんが、店内でのそういう行為は……」
 二人の距離が近すぎて、これ以上はキスまでしてしまいそうな雰囲気に耐えられなくなった店員は迷惑そうな顔で注意してきた。
 目を上げて周りを見てみると、店にいる他の客も微妙な表情でちらちらとこっちを見ている。 

 「「……すみませんでした」」
 バカップルの仲間入りを果たしてしまいそうになったことを恥らいつつ、二人は素直を謝った。


 「さて、何処か座れるところをでも探そうか」
 「そうだね」
 ワイシャツ数枚、レディーススーツにパンプス。アメリカのイベントに参加するための服装を揃ったところで、クリスとシャルは洋服ショップから出た。時間的にはもうランチタイムも近いし、二人はどこかゆっくりできるところを探す。

 「あれ、クリスさん?」
 その時、後からクリスの名を呼ぶ女性の声が聞こえた。振り返ってみると、視野に映ったのは見覚えのある女性の姿だった。
 艶やかな黒いストレートロングとすらっとした長身スタイル、そしてその優しそうな笑顔。一度あったら決して忘れない美人の名を思い出すのに、一秒もかからなかった。

 「凪沙さん……」


 *


 「あ~あ、面白かったな!」
 「そうだな。バトルシーンの迫力も半端じゃなかった」
 「エンディングがちょっと釈然としないけどな」

 映画館から出た一夏達は、さっき見た映画に大満足していた。
 クリスから貰ったチケットだから、てっきり恋愛映画だと思っていたが、まさかの格闘アクション映画だった。
 戦い奪うことしか知らない一族に生まれた主人公は、侵略した村から攫ってきた少女と交流しているうちに命の価値を学び、それまでの生き方捨てて一族に反逆して、たっだ一人で一族の大軍に立ち向かうストーリーだった。
 そして最後に主人公は一族の王を一騎打ちで倒して新たな王となり、少女と分かれて一族を率いて旅に出たというエンディングを迎えた。
 男が愛と自由のために戦う。熱いシナリオに熱いバトル、中々に素晴らしい映画だった。

 「さて、そろそろ昼飯の時間だな。何処で食べる?」
 時計を確認すると、そろそろランチタイムだと気付いた一夏は女子二人の要望を聞いてみると、二人は同時に背後から大きな弁当箱を出してきた。
 
 「それなんだが……わ、私は弁当を作ってきたぞ」
 「アタシも作ってきた。今日は結構自信作なのよ?」
 今朝早起きして、一夏のために用意した手作り弁当だった。
 
 「へえ……なんが悪いな。じゃどこか落ち着けるところを探そうぜ」
 目の前にいるこの光景にデジャヴを感じつつ、一夏は女子二人を連れて移動を始めた。
 映画館から離れてしばらく歩くと、小さな川を見えた。川辺に沿って植えられてた木の下に、幾つかベンチが設置されている。
 周囲は結構静かだし、木陰のお蔭で太陽の光に晒されることもない。まさに休憩にはうってつけの場所だ。
 ここで弁当を食べると決めた三人はベンチに腰をかけた(もちろん一夏は真ん中)後、女子二人は競争しているかのようなスピードで弁当箱を展開して同時に一夏の前に差し出した。

 「一夏。まずは私が作ったものを食べてみろ」
 「一夏、アンタ当然アタシの弁当を先に食べてくれるよね?」
 「えっと……」
 場の空気は一気に引き締り、迫ってくる女子二人の期待に満ちた眼差しに一夏は箸を握ったまま困惑した。
 この風、この肌触りこそ、女の戦場よ。二人の女子は睨みあい、その間に火花が飛び散る。
 そして一夏は多分どっちを先に選んでも残った方に殴られるという恐怖を前に、迂闊に身動きを取れずにいた。
 左右を見てみると、周囲には誰一人もいない。今この場所にいるのは、この三人だけ。
 援護なしだ。

 にゃん~
 「あっ」
 そんな時に一夏の足元に現れたのは、猫二匹だった。
 それぞれ真っ白と真っ黒な毛並みをしているその二匹の野良猫は食事をねだっているかのように一夏の脚に顔を摺り寄せ、それを見た女子二人は嬉しそうに歓声を上げた。

 「な、中々に可愛いものだな」
 「何かあげようかな」
 「勝手なあげるなよ。人間の食べ物は塩分が高すぎるからな」
 これを機に一夏は一気にベンチから抜け出し、しゃがんで地面から小さな枝を拾って猫達に見せた後、猫達の後方へ軽く投げた。
 「行け! クロ、シロ!!」

 「「……」」