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IS  バニシングトルーパー 034-035

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 しかしいまさらそれを悟っても、もう遅い。自らに飛び込んできた敵に、黒き亡霊(ゲシュペンスト)は遠慮などしない。
 腰を僅かし低くして、ゲシュペンストはイーリスへ両手のプラズマ・スライサーを連続して振り始めた。
 斬り、突き、掌打、時に膝蹴り。
 狙いはイーリスの首、喉元、肩、鳩尾、脇腹。
 ゲシュペンストを操縦する男は言葉一つを発することなく、ただひたすら怒涛の如く攻撃を繰り出す。
 その滞りのない流れるような動きは然程速いものでもない。しかし一撃一撃に篭められた凶悪な殺傷力はファング・クエイクのエネルギーシールドを貫通してイーリスの体に衝撃を与え、周囲の地面もプラズマ・スライサーの余波によって深く切り刻まれていく。
 ハイレベルの戦闘において、一瞬の油断で勝敗は決される。この戦いはまさにそれだった。
 初手を仕損じて僅かな隙を晒した瞬間、イーリスの敗北は既に決まったようなものだった。その一回のチャンスをものにしたゲシュペンストの一連の猛烈な連撃によって、ファング・クエイクのエネルギーシールドはあっという間にレッドソーンまで削られ、イーリス本人の平衡感覚も破壊されて立つことすらままならずに居た。

 そこで、ゲシュペンストは一旦手を止めて、トドメの攻撃モーションに入る。
 演習場の地面を蹴って、ゲシュペンスは雄々しく飛翔して、音を立てながら派手な空中バック転をした。
 そしてハイパーセンサーによる視野に、AIからの「SHOUT NOW!!」という提示メッセージが現れたのと同時に、ゲシュペンストのパイロットはこの試合を開始してから初めての言葉を発した。

 「究極、ゲシュペンストキック!!」

 パイロットの低くて迫力のある掛け声と同時にバックパックのバーニアが一斉に咆え出し、黒いゲシュペンストは前下方へ急降下しながら右足を突き出す。

 ドコォォォォォン!!
 ゲシュペンストの究極必殺技が、イーリスの胴体に炸裂した。
 やがて煙霧が晴れたあと、そこに見えたのはISがダメージの限界を超えて強制的に解除され、気絶して地面に倒れ込んだイーリスと、彼女に背を向けて立っている勝者、黒いゲシュペンストだった。
 観客席から、大きな拍手が一斉に沸きあがった。

 そして演習場に響き渡る大歓声の中、ゲシュペンストの黒い装甲が光の粒子へ分解していき、空気の中へ薄めて消える。最後にそこに立ったのは、ISスーツを着た三十前後のアジア系男性だった。
 精悍な顔立ちに、やや痩せ気味に引き締まった体格。鷹のような鋭い目つきで感慨深そうに観客席を一回り見回した後、彼は握り締めた自分の拳に視線を向け、無機質な口調で独り言のように呟いた。

 「ゲシュペンスト……素晴らしい」