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IS  バニシングトルーパー 036

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stage-36 暗黒の囚人




 
 「随分と気に入ってくれたようですわね、大佐は」
 アイルソン基地、第一演習場のVIP用の観戦室から、ファング・クエイクを完膚なきまで叩き潰した黒い量産型ゲシュペンストMK-II改を見下ろしながら、白衣を着た学者風の赤髪女性――マリオン・ラドム博士は不敵な笑みを浮かべていた。
 ゲシュペンストは、最強のパイロットと出会えた。開発者としてこれ以上嬉しいことはない。
 今はまだ本体のジェネレータ出力アップと武器調整だけを済ませたタイプNだが、専用のパッケージ「タイプG」、「タイプC」が完成すれば、ゲシュペンストはさらに強くなれる。
 これ以上出所不明な技術を頼る必要などない。ゲシュペンストは、私の理念を証明してくれる。あの男が頭を下げる日も、きっとそう遠くないだろう。
 そう思うと、マリオン博士は自分の口元が上がるのを、押さえきれなかった。

 「圧倒的でしたな。当然ではありますが」
 「そうでなければ、四人がかりでも勝てなかった我々の立場がないぞ」
 マリオン博士の隣に立った二人の男が、演習場の真ん中で歓声を浴びている黒い量産型ゲシュペンストMK-II改の操縦者――特殊戦技教導隊隊長、カーウァイ・ラウ大佐へ尊敬の篭めた眼差しを向けた。
 一人はサングラスをかけている謎の美男子、レーツェル・ファインシュメッカー。
 もう一人は短い髭を生やしている渋いおじさん(36)、北村開。

 「た、大佐は……う、うぐっ」
 後のソファに座り込んでいる、コートみたいな赤い軍服を着た銀髪剣士――ゼンガー・ゾンボルトはいつもの研ぎ澄ました刃物のような雰囲気がなく、ただ気分悪そうな表情で口を押さえ、吐き気を我慢しながら虚しげな目で床を眺める。

 「ゼンガーお前、まだ酔ってんのか。だらしないぞ」
 「面目ありません……」
 「まあまあ、開少佐。さすがに大佐と交わす盃ともなれば、我が友もウーロン茶で済ますようなことはできませんよ」
 友人の下戸っぷりにやれやれと頭を横に軽く振って、レーツェルは苦笑いした後、壁に寄り掛かって愉快そうな笑みを浮かべている男――ギリアム・イェーガーと向き合った。
 
 「ギリアムにはまだ悪いことをしたな。二重スパイみたいな役目を押し付けて」
 「気にするな。元々かげで動いた方が性に合っている。それに、俺にもやり遂げねばならんことがある。押し付けられたなどとは思ってないさ」
 
 レーツェルの言葉を遮るように、ギリアムはそう言いながら壁から離れて彼と肩を並べて、演習場を見下した。
 色々と情報を集めて分析した結果、彼がかつての世界に残した自分の半身だった“罪の証”を受け継いだ“影”がこの世界に蝕み込んだことは確かだ。

 『生きて償う事がお前のやるべき事だろ!!』
 かつて共に戦った、太陽の子と名乗る戦友からギリアムへの言葉だった。
 あの頃に犯した業が、未だに付き纏って消えない。そのせいでこの世界に災いが降りかかるのなら、事態を終結させる責任は自分にはある。

 「……そうか」
 ギリアムの複雑な横顔を目の隅に入れながら、レーツェルはこれ以上の追求をしなかった。
 結果的にイングラムという男が書いたシナリオ通りに踊らされた気もするが、レーツェルも偽りの名で再び戦場へ赴くことに後悔はしていない。
 栄光のためでも、利益のためても、ましてや復讐のためでもない。ただカトライアのような悲劇が二度と繰り返されないように、この世界に降りかかる争いの火種を消すだけのこと。
 そのために、今この場に立っている。

 「ライディースよ……また私をカトライアの仇から目を背けた卑怯者だと罵るか」
 自嘲的な笑みを口元に刻みながら、レーツェルはサングラスを押し上げた。
 目を瞑って、カトライアの笑顔を思い浮かぶ。
 すまない。私がそっちに行くまでの間は、危なっかしい弟を見守っていてくれ。

 「ところでギリアム。会議の中継を頼めるか」
 「問題ない。会議室には最近に仕入れた新型カメラを仕込んである。ハイビジョン画質で楽しめるぞ」
 「さすがだな。では見せてもらおう、ハイビジョン画質とやらを」
 「いいだろう」
 コートから愛用のノートパソコン「XN666」を取り出し、ギリアムは観戦室の大型モニターと接続する。

 「ちょっと待てお前ら、 会話がナチュナルすぎて気付かなかったが、いま何気に凄いこと言わなかった? 」
 「あはは。あくまで、調査員ですから」
 開に向かって悪戯っぽく笑いながら、ギリアムは執事みたいに脚を交差して手を胸に当てた。

 *

 「如何でしたかな?」
 アイルソン基地の広い会議室にて、やや自慢げに口元を吊り上げたブライアン事務総長の一言が、口をポカンと開けてメインモニターを凝視したまま、呆然としている会議の出席者達の意識を現実に引き戻した。
 メインモニターの中、ファング・クエイクに圧勝したカーウァイ・ラウ大佐がスムーズな足運びで退場していく。
 彼の猛威のお蔭で、後に続く本番である量産機デモストレーションはまるで余興みたいになってしまっている。

 「我々の国際連合事務局が保護した四名の男性IS操縦者、彼はその一人です。クリス君」
 「はい」
 ブライアンの後ろに立っていたクリスはリモコンを操縦すると、四名の男性の写真と簡単プロフィールが会議室のメインモニターに映し出された。代表達の注目は再びそこに集まり、ブライアンは楽しげな口調で手元の端末を眺めながら言葉を続けた。
 「カーウァイ・ラウ、ゼンガー・ゾンボルト、レーツェル・ファインシュメッカー、カイ・キタムラ。以上の四名の男性は、全員ISの起動に成功しています。そしてその戦闘力は、ご覧の通り」
 IS委員会に所属しているギリアムはあくまで非公開メンバーとして扱う。さらにこの情報をわざとIS委員会運営局の上層部にリークすることで、連中にギリアムはスパイだと思わせて二重スパイの役目を命じさせたら、そこが組織間の妥協点となり、IS委員会の態度も大分軟化するはず。
 無論、ギリアム本人はこの件について了承している。
 六人目のメンバーになる予定だった織斑千冬が誘いを断ったのは実に惜しい。彼女が加われば、輿論の操作が大分楽になれるはず。
 しかし無理強いはできない。潔く諦めよう。
 彼女の次にこの役目に適切な女性パイロット人選は、既に考えてある。


 「いつの間にそんな……しかしなぜIS委員会ではなく、国連がこの件を管轄している」
 「そもそも、なぜ最近まで我々に何の知らせもこなかった」
 「大体、ISはあくまでスポーツ項目として扱われている。まさか国連はISの大会に出場したいとても?」
 自分たちの端末に転送された詳細資料を閲覧しながら、政府代表達は質問責めをしてくる。
 何もしらないまま、織斑一夏と伊達隆聖の国籍について会議を繰り返している間に、国連は既に四名の男性操縦者を確保し、ISまで調達してきた。
 しかも中には軍籍を持つ人間も居る。メンバーの出身、そしてゲシュペンストの開発元から考えれば、少なくともドイツ、中国、日本、アメリカはこの件についてある程度了承している。