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IS  バニシングトルーパー 037

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 クリスが攻略できそうな対象の名を次々と挙げながら、シャルは頬を膨らましてぷりぷりと怒り、振り返ってクリスをポカポカと叩く。
 ヤキモチ焼いている時もこんなにも可愛い。つくづくからかい甲斐のあるやつだ。
 とは言え、この「シャル爆連打」は地味に痛い。シャルの両腕を掴んで、クリスはもう一度彼女を自分の腕の中に閉じ込めて、耳元で囁いた。

 「ごめん。ただの冗談だ。許してくれ」
 「……ダメだ。許さない。クリス普段の言動からして、さっきの言葉は冗談に聞こえなかった」
 腕の中、ちょっと恨めしげな上目遣いで睨んでくるシャルの目に、僅かな雫が溜っていた。
 どうやらかなり本気で不安がっていたらしい。自分の不謹慎な冗談を反省しつつ、クリスは真剣な顔で頭を下げてシャルに謝った。
 
 「俺が悪かったよ。もうあんな冗談は言いませんから、どうかお許しください。愛おしいシャル様」
 「……ふっ、ふん! とりあえず一時的に許してあげる」
 クリスに様付けで呼ばれて一瞬うっとりした後、シャルはまだ不満そうな顔で鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
 ほんの一瞬でも、優位に立ったのがよほど嬉しいらしい。
 ――後は倍にして返さねば。

 「しかし冬じゃないのは残念だな。せっかくだからオーロラも見たかったのに」
 やや長いため息をついて、クリスは顔を上げて再び星空を見上げる。
 綺麗の月と星は見えるが、やはり名物のオーロラが見えないのは残念だ。

 「今度の冬休みにまだ一緒に来ないか? 俺とシャルの二人で」
 「二人で?」
 「そう。今度は仕事じゃなくて、旅行で。もちろん、どこか別に行きたいところがあれば、そっちを優先するけど」
 「私が決めていいの?」
 「いいよ。別に」
 「本当に?」
 「本当だって。俺も給料を貰っている身だから、何でもってわけにはいかないかもしれないけど、シャルの行きたいところや欲しいもの、できる範囲で精一杯、望みを適えてやるから。――人生の半分くらい、お前を幸せにするために使うよ」
 シャルの頬に手を添え、クリスは彼女の瞳を真っ直ぐに見つめながら、優しげな声で真心の言葉を聞かせた。 
 
 「クリス……」
 優しい言葉だけで、シャルはその紫の瞳から雫を溢れさせた。
 IS学園でクリスと出会ってから、随分と幸せな気持ちに慣れたつもりだったのに。
 やはりこのスケコマシには敵わないなと、思ってしまった。

 「……やれやれ。どんだけ泣き虫だよ」
 シャルの痛ましいほど可愛い姿に、クリスの理性はキスしたいという衝動に負けそうになる。
 冷静に装いながら、クリスは指で彼女の頬に伝う涙を指で拭いた後、その唇にそっと口付けを落とした。

 普段の優しい触れるだけキスじゃなく、甘くて熱い、大人のキスだった。
 他の誰とも触れ合ったことがない深い部分で絡み合い、二人の思いは溶け合う。
 夜空の下で、静寂だけが流れていく。やがて長い時間が過ぎた後、二人は唇を離して、見つめ合いながら呼吸を整えて酸素を補給する。

 「……なんでそんなに上手いの?」
 「えっ?」
 口元の唾液を拭きながら、不機嫌そうに眉を吊り上げるシャルからの突然な問いに、クリスは一瞬なんのことなのかが分からなかった。

 「こんなキス私は初めてなのに、どうしてクリスはそんなに上手いの!? 頭の中が真っ白で溶けてしまいそうだったよ!」
 「なんだ、そんなことか」
 「そんなことか、じゃないよ! 大事なことなの! ままま、まさか経験があるとか……!!」
 「それはない。俺も初めてだった。所謂、才能ってやつ?」
 「くっ、同じ初めてなのに負けてしまうなんて……も、もう一回!!」 
 真っ赤な顔してシャルはクリスの頬に両手を添えてキスを迫るが、その前クリスに頬をつねられて止められた。
 シャルからのキスは魅力的だが、いくら客が少ないとは言え、公然の場でこれ以上はやばい。
 それに、これ以上されたら、自制心が崩れてしまいそうだ。

 「……お前、随分と開放的になったな」
 「えっ? あっ!」
 クリスに言われて自分の行動の大胆さに気付き、シャルは慌てて恥ずかしそうか手で顔を隠して、力が抜けたようにクリスの足の間に座り込んだ。 
 遠い所から、夫婦らしき客二人は生暖かい視線を送ってくる。

 「ハァ……そろそろ部屋に戻ろう」
 シャルのの背と膝の裏に素早く手を差し入れ、クリスはそのまま立ち上がる。そしていわゆる「お姫様だっこ」をして、まだ身悶えているシャルと一緒に温泉から上がった。

 「続きは部屋で、な」 
 「……うん」
 腕の中で耳まで真っ赤な顔を隠したまま、シャルは小さく頷いた、その愛らしい仕草に、クリスは思わずに胸が高鳴る。

 「素直で大変よろしい」

 戦うことしか能のない自分でも、これからは女の子一人を幸せにすると決めた。
 きっと楽しいことばっかりってわけにはいけないだろうけど、シャルと一緒ならきっと何とかできるだろうと、根拠もなくそんなことを思ってしまった。 
 これも恋ってやつか、奥深いなと心の奥底で呟きながら、更なる幸せへの期待を胸に、クリスは自分の足どりを速めたのだった。