二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

IS  バニシングトルーパー 037

INDEX|7ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 悪とは、立場や信仰によって変わる概念。覚悟と理念もなくそれを一刀両断とすれば、それこそ悪行となる。
 しかし神夜の瞳に映るゼンガーの目に、一片の曇りと迷いも見当たらない。

 「人の道から外れ、世に害をなすものを断ち、弱きものを守る。そのためには、先ずは己の迷いと不義を断つ。それが師から学んだ、“活人剣”の基本だ」
 「活人剣、ですか。……奥深いですね」
 ゼンガーの言葉に出た単語を反芻のように呟いてしばらく考え込んだ後、神夜はにこりと微笑んで、憧れの視線をゼンガーに送った。

 「私、ますますゼンガー少佐と勝負してみたくなってきました。もし宜しければ、今度は日本にいらしてください」
 「……近々我々教導隊は、日本に行く予定がある。我らが剣を交えるのは、その時になるのだろう」
 「本当ですか?! じゃ、約束してください!!」
 無邪気な笑顔で、神夜はゼンガーを見上げたまま、嬉しそうにすっと右手の小指を差し出した。その意味を分かっているゼンガーは苦笑いしながらも、自分の小指を差し出して神夜の指に絡めた。
 
 「うむ。約束しょう」

 星空の下で、十歳近く離れた剣士二人は、真剣勝負の約束を交わした。
 その約束が果たされる日は、きっとそう遠くはないだろ。


 *


 「ふう……生き返ったぜ」
 満天の星空を見上げながら、熱い温泉に浸っている銀髪少年――クリスは年寄りっぽく呟いた。
 ここはフェアバンクス市の百キロメートルほど離れた、低い山々に囲まれた温泉リゾート。予約した部屋に荷物を置いた後、クリスはすぐにシャルをここの露天岩風呂に連れてきた。
 熱湯に浸っていると、この二日で溜まった疲れが段々と抜けていくのを感じる。

 「そ、そうだね」
 クリスの隣で、シャルは恥ずかしそうに身を縮めて、顔を伏せたままそう返事した後、すぐに黙り込んだ。
 今のシャルは白いビキニを着て、そのさらさらとした金髪を結い上げている。そこから晒された色っぽいうなじに、クリスの視線は釘付けにされていた。
 因みにここの温泉は水着の着用が要求されているため、二人が今きている水着はここの売店で購入したもの。

 「どうした? やはり温泉は嫌だった?」
 防水グローブをつけた右手でタオルを頭に乗せ、クリスは恋人の手を引いて自分の足の間に座らせて、後ろからそっと抱き締めた。
 僅かに無力な抵抗をされても、シャルはすぐに諦めて背中をクリスの広い胸板に預けた。
 硫黄の匂いの中、密着したシャルの柔らかい肌から彼女の独特の香りを感じる。

 「そんなことないけど……ただちょっと恥ずかしくて」
 少しリラックスしたか、シャルは手足を伸ばして頭をクリスの肩に預けて、月を見上げたまま小さな声でぽつりと呟く。

 「なんで?」
 「……混浴だなんて聞いてなかったし」
 「裸じゃないんだから、べつに大丈夫だろう」
 周囲を見回してみると、今はクリス達から離れた所で熱湯に浸っている夫婦らしき二人たち以外に、客はいない。
 もう日付が変わる直前の時間だし、無理も無い。

 「気分の問題なの! それに、水着だってもっとちゃんと選びたかったのに」
 「シャルは元々可愛いんだから、何を着ても可愛いんだよ」
 「もう~いきなりそう言うことをいうのは禁止!」 
 「はいはい」
 照れ隠しのつもりか、表情を見せないシャルは怒ったようにそう言って、また顔を伏せた。そしてこれ以上彼女をからかうのは止めようと決めたクリスは苦笑いして、腕の中にいる彼女のうなじに優しくキスした後、もう一度口を開いた。

 「ねえ、シャルは俺のこと、好き?」
 「ど、どうしたの? いきなり」
 「ちょっと聞きたくなっただけ。答えてよ」
 「……好きだよ。大好き」
 ちょっと間が空いた後、シャルは真剣な声で答えてくれた。そして抱きしめてくれるクリスの手の上に自分の手を重なって、彼女は言葉を続けた。

 「クリスは私を救ってくれたし、優しくしてくれた。クリスと出会わなかったら、私はきっとまだ一人ぽっちのままだと思う。だから私、クリスのためなら何でも……」
 「もういいから、これ以上はやめろ」
 「えっ?」
 振り返ってみると、既に真っ赤になっているクリスの顔がシャルの紫色の瞳に映りこむ。
 こいつ、人に言わせといて自分が恥かしがっている。
 人から素直に好意を示されると弱まるらしい。いつも恥かしがらせられる身としては、珍しく勝った気分になった。
 口元を吊り上げて、ちょっと興奮気味なシャルはクリスに追撃ちをかける。

 「あれ? 止めて欲しい? じ、じゃ、やめてください、愛おしいシャル様って言って見てよ」
 「……調子に乗るなよ、このドMっ子め。お子様には見せられないようなお仕置きをされたいの?」
 「ひぃっ!」
 クリスの真っ黒の笑顔と妖しげな光りを放つ蒼い瞳に身の危険を感じ、シャルはピクリと肩を跳ね上げた。
 たまには優位に立ってクリスを虐めてみようと思ったのに、一瞬で返り討ちされた。
 でも、お子様には見せられないようなお仕置きって何だろう。ちょっと気になる。
 け、決していじめて欲しいとかドMとかそういうのじゃないからな!
 
 「しかしシャルって単純だな。助けられたくらいですぐ人のこと信じちゃって。体目当てだったらどうするんだよ」
 「だって、あんなに優しくしてくれたの、お母さん以外にクリスが初めてだから……」
 「本当に放っとけないやつだな。でも、俺もシャルのそういう所に惹かれたのかもしれない」
 頭を横に振りながら小さいなため息をついて、クリスは今の自分にとって一番大事な女の子を抱きしめた腕に力を篭める。
 まるで、宝物を守るように。
 最初はただ可哀相だったから助けただけなのに、いつの間にか内心の深い所まで入り込んできて根を下ろした、かけがえのない存在になってしまった。
 可愛くて一途なこの子は自分のことをわかってくれて、信じてくれる。
 その純粋さと優しさを、何としても自分だけのものにしたいと思った。側から離れて欲しくないと思った。
 この気持ちが恋なら、自分は間違いなくこの子のことが好きだ。

 「ひ、人を天然みたいに言わないでよ」
 「そうだな。シャルは天然を装った腹黒でドMだし」
 「ちょっと!!」
 「大丈夫。天然でも腹黒でも、シャルの本質は変わらない。ちょっと空気を読まないところも、人の心に土足で踏み込むところも、人の話も聞かないですぐ暴力を振るうところも全部含めて、俺はシャルのことが大好きだ。この先に例え第二、第三の彼女が出来ても、シャルはずっと俺にとっての一番だ。だから、ずっと俺の側に居てくれ」
 「……」
 「……」
 「……えっ、今なんて言った?」
 「ずっと側に居て欲しいって言った」
 「違う、もっと前」
 「シャルのことが大好きって」
 「その後だ! 第二、第三の彼女って言ったよね!!」
 「言ってないよ♪」
 「嘘だ! この浮気もの!! 次は誰を攻略する気だ?! セシリアか! レオナか! 桜花さんか! 美菜ちゃんか! それともまさかの織斑先生!? あっ、そう言えば箒にだけやけに優しい気がする!」