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IS  バニシングトルーパー 038-039

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 片手で紅茶を受け取り、シャルはもう片方の手で、机に寄り掛かったクリスの腕に抱きついた。
 幸せそうに、二人は微笑み合う。

 しかしそれを見せ付けられているセシリアとしては、まったくもって面白くない光景だ。
 こっちはノックして入るのに、向こうは直接に入る。
 こっちは客用のティーカップを使うのに、向こうはこの部屋に自分のカップを置いている。
 こっちはいつも容姿に気を使っているのに、向こうはジャージ姿で現れる。
 しかもこっちがいるのにもかかわらず、ナチュラルにクリスに抱き付く。
 こっちが油断している間に恋人の座を手に入れた卑怯もののくせに!
 ――もう我慢も遠慮も淑女道、知ったことじゃありませんわ!!

 「……ふん!」
 気が付くと、セシリアは既にクリスのもう片方の腕に抱きついていた。
 クリスとシャルの驚きの視線を浴びて、我に返ったセシリアは顔が耳まで真っ赤になり、頭の上に湯気が立つ。
 自分から男に抱きついたなんて、初めてだ。布地越しにクリスの体温を感じただけで、心臓がドキドキして卒倒しそうになる。
 しかし、離したくない。

 「な、何をしているの! セシリア!!」
 自分だけに許された居場所が侵入され、シャルは眉を吊り上げて大声でセシリアに問いかける。
 「こ、これは逆襲です!!」
 息を呑むと、キッと表情に決意を滲ませ、セシリアは顔を上げてシャルと向き合う。
 ここが踏ん張るところだ、負けちゃダメ!

 「逆襲?」
 「そうです! クリスさん、私のことをどう思っていますか?」
 「えっ? そりゃ、嫌いってわけじゃないけど……」
 クリスの腕に抱き付く自分の腕にさらに力を篭め、彼の目を見て質問すると、困惑な顔をされつつもそんな答えが返ってきた。
 そして彼からの返事を聞くと、セシリアは自信の溢れた笑みを浮かべて頷いた。
 この言葉だけで、勇気を出せるから。

 「では、す、好きということですね!」
 理屈としておかしいかもしれませんが、今はそういうことにしておく。
 恋人の存在なんて障害ではありません。自分の気持ちに素直に従うまでです。
 ――分の悪い賭けは、嫌いではありません。見ていてください、このわたくし、セシリア・オルコットの大勝負を!
 緊張のあまりにどもりまくった声で、セシリアはやけくそ気味に、自分の気持ちを叫び出す。

 「わ、私もクリスのことがす、すすす、好きですわ!!」
 やっと言えた。
 三月の頃から抱き始め、今となってははっきり自覚しているほどに膨らんだ気持ちを、やっと相手に面と向かって声に出して伝えることが出来た。
 そして、電光石火の速さで呆然としているクリスの顔を引き寄せてその頬にそっと手を添えて、触れるだけのキスを落とした。

 「で、ですから、わたくしのことも、平等にしてください!!」