二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

IS  バニシングトルーパー 038-039

INDEX|5ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 部屋の奥、一人の男の子――クリスがベッドに腰をかけていた。入ってくるセシリアの顔を見て、彼は手に持っているものをベッドに置いて、机の引き出しを開いた。

 「適当に座って。飲み物は何がいい?」
 「有難うございます。では……紅茶をお願いしますわ」
 チャーミングな笑みを浮かべて、セシリアはちょっと意地悪そうな口調でそう言った。
 最近クリスが紅茶の淹れ方についても研究しているのを、セシリア知っていた。いわばこれは“練習の成果をチェックしてあげるわ”という意味の言葉でもある。

 「……分かったよ」
 評価はお手柔らかにな、という目で苦笑いして、クリスは電気ポットの電源を入れて近くの椅子に腰をかけ、自分のベッドに腰をかけたセシリアと向き合う。

 「こんな時に、何か用かな?」
 「あら、用がないと来てはいけませんか?」
 ピンク色の薄い唇を尖らせて、セシリアはちょっと不満げにクリスを睨む。
 本当は三日も会えなかった分、一杯お話しをしたいと思っただけなのに。

 「そんなことないけどな。セシリアならいつでも大歓迎だよ」
 「な、ならよろしいですけれど……うん?」
 ベッドに置かれている、クリスがさっきまで持っていたものが目に入り、セシリアはそれを手に取る。
 一冊のスケッチブックだった。
 一 ページずつスケッチブックを捲っていくと、鉛筆で描かれた様々なものがセシリアの目に飛び込む。
 クリスのコーヒーカップ、柔らかそうで小さな女性の手、美味しそうなケーキ、見覚えのあるISを纏った少女たち、さらに新装備の設計図らしきものまで。
 その中には適当な落書もあるけど、丁寧で繊細に描き込まれた絵もある。だがどれも対象の特徴をしっかり捉えていて、躍動感を感じさせてくれる。
 内容の豊富さに好奇心をくすぐられ、セシリアは会話を忘れてページを捲っていく。

 「おい、黙ったまま見られると恥ずかしいんだが?」
 「あっ、ああごめんなさい。それは全部、クリスさんが描いたものですか?」
 「まあ、な」
 丁度このタイミングで、電気ポットの電子音がなり始めた。
 椅子から立ち上がって、クリスはティーポットを温めた後スプーンで茶葉を入れ、沸き立てのお湯を注ぎ込んで蓋をした。
 透明のティーポットの中で、茶葉が踊り始めたのが見える。
 これで、合格点をもらえるといいな。

 「意外ですわね。まさかクリスさんにはこんな特技が……」
 スケッチブックの中からブルーティアーズを纏った自分が描かれた一ページを見つけて、セシリアは思わず嬉しそうにニヤけてしまう。
 好きな人のことを、また一つ知ってしまった。

 「特技ってほどのものじゃないよ。ただの暇つぶしだ」
 茶葉の具合を観察しつつ、クリスは返事を返した。その背中を眺めて、セシリアは次のページを捲った。
 そしてその次の絵が瞳に映り込むと、セシリアは顔が曇り、唇を噛み締めて黙り込んだ。

 ――クリスが描いた、シャルロットの絵だった。
 白いシーツで肌を包み、ベッドの上で無邪気な寝顔を晒している絵だった。
 途中まで描いてやめた未完成の絵だが、それでも彼女の口元に浮んでいる笑みは、いかにも幸せそうに見えた。
 完全に信頼している人間の前だからこそ、そんな顔を見せたのだろう。

 「クリスさん……」
 ちくちくと痛む胸元に手を当てて、眉を顰めてセシリアはスケッチブックを閉じた。
 覚悟していたはずなのに、こんなにも切ない気持ちになるなんて。
 やっぱり、諦められない。

 「はい、お待たせ」
 顔を上げると、湯気を立てているティーカップを差し出しているクリスの笑顔が目に映る。
 ありがとうございますと礼を言って、セシリアは何とか微笑み返し、ティーカップを受け取った。
 甘くて落ち着いた香りに、ミルクを入れたのが一目で分かる淡い色。一口を口に含むと、優しい甘さが胸の奥まで染みこみ広がっていく。

 ――わたくしの好みの味を、覚えておいてくれたんだ。
 顔を伏せてティーカップの中身を眺めながら、セシリアは切なげに小さなため息をついた。

 「……クリスさんって、絵が上手いですわね」
 「まさか。ちゃんと学んでないから、水彩とか全然できない。鉛筆が限界なんだよ」
 椅子に腰をかけ、クリスは自分が入れた紅茶をじっくり吟味しながら、返事をした。

 「では、自学で?」
 「ああ。小さい頃は、街で似顔絵を描いて稼いだ金で生活してたんだ」
 「えっ?」
 一拍子遅れて返ってきた、あまりにも意外な返事に、セシリアは顔を上げて驚いたような表情でクリスの顔を見る。
 クリスが過去の話を聞かせてくれたのは、これが初めてって気がする。

 「どういうこと、ですか?」
 「……親も金もないから、自力で生き延びるしかなかったんだ。ヴィレッタ姉さん達と出会うまでは」
 昔のことを思い出しつつ、クリスはどこか懐かしそうな表情で遠い目になる。

 「そう言えば、あの頃は一人だけ仲間が居たな。花を売るやつ。夜になったら集まって、二人の稼ぎを合わせて売れ残りのパンを買って、食べたら一緒に安全な場所を探して寝る」
 同じ銀色の髪に、同じ蒼い瞳。そういえばあいつ、名前は何だっけ?
 思い出せない。そもそも聞きすらしなかったかもしれない。
 ちゃんと生きているといいな。
 最後はあんな別れ方だったけど。

 「随分と、苦労しましたわね」
 「今となっては紅茶にIS。俺も随分と出世したものだな」
 自分を嘲笑うように口元を歪ませ、クリスは自分の珈琲カップの中にある赤い液体を凝視する。そんな彼を見て、セシリアも押し黙った。
 貴族の家に生まれたセシリアにとっては、想像すらできない経歴だった。でも彼がそんな話を笑いながら聞かせてくれたのは、信用してる証拠だと思いたい。

 ――あの子もこんな風に、クリスさんから色々と聞いたのかしら。
 ふっとセシリアの頭の中に、そんな疑問が浮んだ。
 最近のクリスは出会った頃みたいな、人に自分のことを話したがらないような感じがしなくなった。嬉しい変化ではあるが、それもあの子のお蔭だと思うと、なかなかに悔しい。
 やはり遠慮しすぎたのが行けなかったんだ。

 「来たよ、クリス!」
 噂をすれば影。ゆっくりと開かれたドアから、一人の女子生徒がさらさらの金髪を揺らして、部屋の主の名を呼びながら部屋の中に入ってくる。
 そしてクリスのベッドに腰をかけているセシリアの存在に気付き、彼女は手を振って挨拶をした。

 「あれ、セシリアも居たんだ。こんばんは」
 「……こんばんは、シャルロットさん」
 薄く微笑み返して、セシリアはクリスの隣に立ったジャージ姿の少女――シャルに挨拶を返した。
 
 「ああっ! ずるいな~二人だけで紅茶なんて」
 クリスとセシリアが紅茶を飲んでいるのを見て、シャルはクリスの肩に手を乗せて、不満げに唇を尖らせた。
 すると、クリスは苦笑いしながら椅子から立ち上がり、ミニキッチンの方へ歩いた。
 流し台の近くに置いてある小さなコーヒーカップにお湯を入れて暖めた後、改めて紅茶を入れて部屋の中に戻り、シャルに渡した。

 「これでいいだろう?」
 「ありがとう!」