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IS  バニシングトルーパー 040

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 独り言のようにぶつぶつ言いながら、店裏の壁に長々と文字を並べていく銀髪少年に、イルムはやれやれと肩を竦めて、長い髪を束ねながらサングラスをかけた。
 美少女二人に何をされたかは知らんが、いつまでもそのままでは困る。 

 「おや、イルムさんではありませんか。何が御用でしょうか」
 「なんだその顔。気色悪いからやめろ。ほら」
 妙に悟りが開いたような清々しい笑顔して振り返ったクリスに、イルムは彼のサングラスを差し出した。

 「……さあ、仕事だ。行くぞ」
 「仕事? 何の?」
 「客入りがあまりよくない。だから俺達が客寄せして、ついでにナンパをするぞ」
 アロハシャツを脱ぎ捨て、ブーメランパンツ一丁のイルムは全身の筋肉を晒して気持ち悪いポーズを取ってみた。
 はっきりとナンパと言いましたよ、この人。

 「悪いですけどパス。ナンパしてシャルとセシリアに知られたら、今度こそ死ぬよ」
 「心配するな。あの二人は店から動けないよ。二時まではな」
 調理台の仕事はシャルに任せてあるし、接客はセシリアがしている。店に客がいる以上、二人は動けない。
 こっちも丁度リンがいないし、安心してナンパに行けるぜ!

 「いやでも、もう彼女いるのに、ナンパはちょっとまずいじゃないんですか?」
 「青二才の分際で何言ってんだ! ブーストナックル!!」
 「くほああっ!!」
 真っ当な事を言っているはずなのに、なぜかイルムのパンチに殴り飛ばされ、クリスは3メートル程飛んだあと砂の上に落ちた。
 そしてすぐにその灼熱さに耐えられずに立ち上がる。

 「何をするんですか!!」
 「黙れ! そして見よ!!」
 クリスの言葉を遮るように一蹴して、イルムは仁王立ちをして彼に背を向け、その広くて筋肉質な背中を見せた。
 男とは、背中で語るものだ。

 「カノジョが怖くて、ナンパなど出来るか!!」
 「こ、これは……!!」
 イルムの背中を見たクリスは、息を飲み込んで絶句した。

 なんと覇者(おとこ)らしい、雄々しい背中だことよ。
 淡くて消えそうな古い傷痕。最近に出来たような生傷。
 数え切れないほどの、ムチに叩かれたような傷痕が、この背中にあった。
 今までは長い髪を下ろしていたから、まったく気づかなかった。

 「いいか、クリス! 敵に付けられた傷は、一つもない。その意味、分かるか?!」
 首を動かして横顔を見せて、イルムは迫力のある声で、クリスに語りかける。
 ごくりと唾を飲み込み、クリスは無言に小さく頷いた。

 敵に付けられた傷でもなく、修行中に自ら負った傷でもない。
 マオさん、アンタ色々とやりすぎでしょう。
 そしてイルムさん、アンタも色々とやりすぎでしょう。

 「よ~く聞け! クリス! 男とはただの性別ではない! 己の意地を貫き通す生き様の事だ!! 確かに、彼女を大事にしたいという気持ちは正しい。だが……!!」
 「だが?」
 「彼女は彼女! ナンパはナンパだああ!!」
 男の熱い魂を篭めて、イルムは獅子の如く雄叫した。

 「……っ!! ですが、俺はもう……」
 そして胸の奥から湧き上がってくる、マグマのようなものの熱さを必死に我慢するように心臓を押さえ、息苦しい表情でクリスは目を伏せて唸る。
 そんな彼の肩を叩いて、イルムは優しい笑顔を見せた。

 「……まったく、強情なやつだ。じゃあ、大義名分をやるよ。久々でナンパ勝負と行こう」
 そう言いながら、イルムは拾い上げたシャツのポケットから数枚の写真を取り出してクリスに見せる。
 例のクリスの子供時代写真だった。

 「今から二時まであと一時間。それまでに店に連れてきた女の子の数で勝負だ。もしお前が勝ったら、これをお前に返す。というのはどうだ?」
 「いやいや、連れてきた時点で、オレ、アウト!!」
 料理台から包丁が飛んでくるよ! 本当に新連載が始まるよ!!

 「うん……じゃ、こうしよう。俺達は女の子をナンパしてこの店の違うドリンクを勧める。それで実際に店に来て注文した人数で勝負するというのはどうだ。注文した品の数を記録するように、シャルロットちゃんには言い付けてあるしな」
 「でも、普通に注文する人もいるでしょうに」
 「大丈夫、こっそりメニューから消しておいたものだ。俺達が勧めた客しか注文しねえよ」
 「なるほど」
 ナンパのためにどこまで準備万端なんだ、この人。
 感心するよ。

 「それで、どうする?」
 クリスの横を通って店裏から出て、砂浜で戯れている乙女たちを眺めながら、イルムは背後にいるクリスへ問いかけた。
 無言に、クリスはイルムの隣に立って肩を並べ、少女たちへ視線を向けた。

 ――往くのか? 修羅の道を。 
 青空を見上げて、クリスは心の中でそう自問した。

 傷だらけの背中を見せたイルム。
 クロ○クア○プの如く残像だけ残して一夏を追跡する箒と鈴。
 姉のパーカーを持って、付き合ってやる十秒間だけ所か未だに疾走する一夏。
 真っ赤な顔で震えながら、ゆっくりと歩く凄まじき千冬。
 ラウラと一緒にボートに乗って沖へ出ようとしている隆聖。
 不器用な手付きでお冷を運ぶセシリア。
 鼻歌を歌いながら料理を作っているシャル。

 ふんっ、ここにいる全員も、所詮は夏の道化か。
 なら、全力で演じようではないか。業火にこの魂を焼き尽くされるまで。
 ――それが、我が宿命ならば。

 「行きましょう。……我らが舞台(せんじょう)へ」 

 愛用のサングラスをかけて、クリスはイルムの背中を軽く叩き、前へ踏み出したのだった。