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IS  バニシングトルーパー 040

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 だが意外なことに、彼女の瞳に映ったのは布の面積を最低限に抑えた黒いV字水着を着た、裸と限りなく近い自分の姿だった。

 「「……あっ」」
 そしてすぐに目を上げると、クリスはさっきまで千冬が着ていたパーカーを持って逃げようとしているのが見えた。
 気付かないうちに服を脱がされたとは。さっきまでの長い言葉は全部陽動だったのか。
 なんて恐ろしい生徒(やつ)だ。

 「ふんっ、クリスのやつ、また腕を上げたな。まだまだ俺には及ばんが」
 食材棚に寄り掛かり、イルムはまるで弟子の成長に喜んでいるように薄く微笑みながらそう呟き、噂に聞く織斑千冬の姿を堪能する。
 アダルティーな水着の黒と、千冬の肌のなめらかな白と対立し、互いに引き立てあい、官能的なコントラストを織り成す。布の面積が限界まで絞り込まれているため、その重力に抗うかのような張りを誇るバストを隠しきれずに、裾野をはみ出させている。さらに腹部、尻、背中など普段では決して見せない秘密な柔肌を加え、全身で魅惑な曲線を形成している。
 無論、脚のラインも綺麗だ。ほっそりしていながらも大人の女性特有の質感を感じさせてくれる。学園ではいつも黒いストッキングを履いている彼女だが、水着姿のときばかりは素肌の脚を露出させている。顔や胸と同じく、綺麗な乳白色をしていた。

 “少女達を凌駕している豊かな乳房。艶やかな黒髪。そして凛とした美貌。V字水着姿を晒したあの時の織斑千冬は、まるで女神のような神々しい美しさを誇っていた。あの少年の姉じゃなければ、すぐに口説き始める所だった。けど知り合いの相手に手出ししないのが俺のポリシーだからな”
 BY イルムガルト・カザハラ

 「きゃあああっ!!」
 色っぽい悲鳴を上げて、千冬は真っ白な頬を赤く染めて、恥ずかしそうに手で身体を腕で隠してその場に座り込んだ。
 まるで十代の少女のような初々しい反応だった。
 それを普段で鬼神と呼ばれている織斑千冬がやってしまっては破壊力が凶悪すぎる。
 そう、イルムを除いて、店内にいる全員を一瞬で石化できるほどに凶悪だ。

 「いま、きゃあああって言わなかったか? ……先生が」
 「言った……と思う。……千冬姉が」
 一番早く石化を解いたクリスに問われて、我に返った一夏は自信なさげにそう答えた。
 千冬姉がそんな悲鳴を上げるとは、弟の自分でも信じられなかった。

 「クソッ、録音しておくべきだった!!」
 「キサマァァァァ!!!」
 「うわああああ!!」
 「パーカーを返せえええ!!」

 激怒して凄まじき戦士 |(ダークアイ)化した千冬にアイアンクローをかけられたまま持ち上げられ、クリスは悲惨な悲鳴を上げる。
 頭骨が嫌な音を立てて激痛が走り、全身が業火に焼かれているように熱く、意識が遠くなっていく。
 せっかく脱がしたのに、これじゃゆっくり堪能する前にあの世に逝ってしまう。
 だが、パーカーを返すなんて選択肢はない。

 「いち、か!!」
 最後の力を振り絞り、クリスは震える手で千冬のパーカーを一夏へ差し出し、希望を託す。

 「これを持って、行け!!」
 「これを……俺に!?」
 「そうだ! 行け! 行くのだ! 我らが真実なる戦いを皆に伝えるために!!」
 「そんな、俺には……!!」
 「自分の素直な感情に従い、意地を通せ!! 野生を縛る理性など要らん!! 姉の水着姿が見たくて何が悪い!! むしろ見たくない方がおかしいだろう!! いたたたたたたたた!!!」
 かけてくる圧力がさらに強まり、頭骨が砕けそうになっていく中、クリスは歯を食い縛り、更に手を伸ばして一夏を催促する。

 「行け!! いいか! 自分を信じろ!俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。シスコンであるお前が信じる、シスコンのお前を信じろ!!」 
 「くっ……!!」
 「砂浜で色々変なことを言って、すまなかった。だがそれでもお前には、男らしく生きて欲しい。大切なものを大切だと言える自信を、持ってほ、しい……」
 千冬の手で表情がよく見えないが、それでもクリスの口元にある優しい笑みを確認できた。

 「クリス!!」
 「ユ、ケ……ギセイヲ、ムダに……っこほ」
 急に体がぞくっとして、一夏に新しい希望を托そうとしたクリスの手が無力に、まるで糸が切れたように垂れていく。

 「うわああああ!! やってやる! やってやるぜええええ!!」
 クリスの手からパーカーを受け取り、一夏は号泣交じりに叫びながら店の外へ飛び出し、疾風のように逃げていく。
 涙をこぼし、汗を流し、本能(たましい)の赴くままに突き進む。
 すまん。俺がいつまで経ってもはっきりしないから、お前があんなことに……!
 だが安心しろ。お前の志は、俺が受け継ぐ。
 これからは俺の背中に、胸の中に一緒に生きていてくれ。

 「待て! 一夏!!」
 「痛い!」
 既に撃墜リストに仲間入りを果たしたクリスを投げ捨て、千冬は踵を返して追いかけようとするが、すぐに問題点に気付き思い止まった。
 今の自分はかなり危険なコスチュームを着ている。激しく疾走でもしたらすぐに見られてしまう。いろいろと。

 「チッ……篠ノ之! 凰! 一夏を捉えろ!!」
 「「承知!!」」
 既に黒いオーラを発散している乙女二人は千冬の命を受け、まるで小太刀みたいに割り箸を逆手に構え、一夏を追跡しようと床を蹴ってくノ一の如く店の外へ飛び出す。
 そして拳を握り締めて僅かに迷った後、千冬も店の外へ踏み出して、ゆっくりと歩いて行った。
 しばらくすると、砂浜の方から黄色い悲鳴を聞こえてくる。

 「では隆聖、私達も行こう」
 「えっ? あ、ああ……」
 イルムに礼を言って、ラウラは何もなかったかのように隆聖を連れて店を後にした。
 これで、店内に残ったのは調理台にいるイルム、そして客人の相手をしているシャルとセシリアだけになった。
 あと床で瀕死状態になっているクリス。

 「……なんだ、やればできるじゃないか」
 意識が薄れていく中、床で倒れているクリスはゆっくりと瞼を閉じていく。
 すべての命を燃やし尽くし、彼は友人のために、そして崇高なる理想のために逝ってしまった。
 だが彼は笑っていた。
 あばよ、ダチ公。 と最後の最後に彼は口元に、一点の曇りもない笑顔を残した。

 しかし彼にとっての煉獄は、まだまだこれからだ。
 ガスンッと、突如に鋭い音を立てて、地面に倒れているクリスの鼻先の床に一本の包丁が深く刺さった。

 「「こっち来なさい」」
 「……はい」
 熱い夏なのに、背後からシャルとセシリアの声を聞こえた時に感じたこの冷たい空気は、まるで真冬のものだった。、
 その後、店の裏に連れて行かれたクリスの姿を見たものは誰もいない。

 FIN.
 いままでのご愛読、ありがとうございました!!





































 「……ズール皇帝こそ正義だ、 と」
 「おいクリス。店裏の壁に小説を書くの、止めないか?」