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IS  バニシングトルーパー 043

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stage-43 海上激突




 「では、まずは現在の状況を整理する。山田先生」
 「はい」
 生徒達の顔を見回しながら千冬が深刻そうな口調でそう告げ、名を呼ばれた副担任の真耶は前に出た。
 臨時作戦会議室として旅館から借りた、照明を落としたこの暗い広間の中央に、地図のような画像が空間投影されていた。
 それを囲んで座っている生徒たちは、全員真剣な顔をしている。
 空間稼動実験は一旦中止されため、一般生徒は部屋で待機している。この会議室に居るのは、一年の専用機持ち全員と、一組の担任先生二人。

 「二時間前に、ハワイ沖で稼働試験を行っていたアメリカとイスラエルが共同開発した第三世代型軍用IS、『|銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』がパイロットを排出して制御から離れて暴走し、監視空域から離脱したとの連絡がありました」
 手元の小型端末を眺めながら、真耶は珍しく落ち着いた声で状況説明を始めた。
 だがその内容は至って物騒な話だ。
 暴走した軍事用ISが人の多いところに勝手に行ったら、どれだけの被害が出るか、計り知れるものではない。
 さらにそれに伴う世間の反応も、決して楽観できるものではない。
 反IS主義を掲げるテロリスト達が刺激を受ける可能性も大きい。

 「その後、衛星による追跡の結果、銀の福音はおよそ五十五分後に、ここから十キロ先の空域を通過する事がわかりました。学園上層部の通達により、この事態の対処は我々が行う事になりました」
 無論、専用機持ちをここに集まったのは、それなりの目的があってのことだ。
 一旦言葉を区切って、真耶はメガネのフレームを押し上げて、視線を生徒たちの顔へ移った。
 「よって、教員は学園の訓練機で空域及び海域の封鎖を行い、専用機持ちのみんなさんには銀の福音の捕獲を担当してもらいます」

 「「「「……」」」」
 そのセリフを耳にした生徒達は、微妙に浮かない顔になった。
 他国の軍用ISの暴走を止める任務を教員ではなく、学生に任せるというのは、やや不自然に感じたからだ。

 「というわけで、今から作戦会議だ。意見のあるものは挙手するようにな」
 真耶を下がらせて、千冬は学生の前に立つ。
 いくら上からの命令とは言え、学生たちが不満を感じるのは当然のことだ。そしてそれを受け止めるのは、指揮を任されている自分の役目。
 予想通り、真っ先に手を上げたのは、壁際に寄り掛かっているクリスだった。

 「教導隊の出撃要請はしましたか?」
 「問い合わせたが、検討中とのことだ」
 「なるほど」
 独り言のように呟き、クリスは押し黙った。
 特殊戦技教導隊とは、まさにこのような状況のために作った部隊だ。あの四人のうち、二人でも居れば事態は簡単に収まるでしょうけど、出撃要請がなければ、彼らは日本の領域での戦闘行為ができない。
 それを検討中とは、日本政府とIS学園上層部と手を組んだとしか思えない。
 大方、自力で捕獲して、アメリカに返す前にその機体から何か技術を盗もうと企んでいるのだろう。
 丁度領土内のIS学園は大量の第三世代ISがあるしな。本当にやばくなったら教導隊に出撃要請を出して、万が一失敗しても責任が半減するわけか、俗物どもめ。
 しかしそれを分かっていても、無視することはできない。大きな被害が出る前に、何とか止めないと。

 「標的の詳細スペックデータを要求しますわ」
 クリスが考え込んでいる間に、セシリアは手を上げて千冬に銀の福音のスペックデータを要求した。
 
 「いいだろう。ただし、これは二カ国の最重要機密だ。情報が漏洩した場合、諸君には裁判と最低でも二年間の監視が付けられるため、くれぐれも口外するなよ」
 交戦する前に敵の情報を求めるのは基本なのに、尻拭いをこっちに押し付けておいてよくもまあぬけぬけと、と生徒達の心の声を察しながらも、千冬は投影ディスプレイに銀の福音のデータを出した。
 それを閲覧した生徒達は、各自の感想を口にする。

 「広域殲滅を目的とした特殊射撃型ですか。ブルーディアーズと同じく、オールレンジ攻撃が可能ですわね」
 「攻撃と機動に特化したタイプね、基本スペックがここまで高いと、厄介ね」
 「この武装じゃ、接近するだけで一苦労かも」
 「うん……この機動性について行けるかどうかが問題だな」
 「戦術の選択も、かなり限られたわね……」
 さすがは二国協力して軍用規格で開発した最新型だけあって、銀の福音の基本スペックと武装は、ここの専用機持ちの機体の性能より遥かに上回るものだった。
 とくに機動力がずば抜けて高く、偵察ですら困難になっている。

 「AMガンナーがあればな……」
 その驚くほどの高性能に、クリスは思わず眉を顰めた。
 銀の福音の武装は確かにかなり凄いが、手出しできない程のものでもない。しかしその機動についていけないようでは始まらない。
 こんな時に、高機動砲撃戦用の換装パッケージ「AMガンナー」があれば楽だがな。
 そもそも、今ここにいる面子に、まだ近くにいるイルムのグルンガストも含めて、銀の福音についていける機体は何機いるんだ?

 「クレマン、貴様なら作戦をどう立てる?」
 突如に、黙っていた千冬はクリスに問いかけた。
 さっきは束の件でちょっと揉めそうになったが、彼は私情を仕事に持ちこむタイプじゃないのは分かっているし、ここにいるメンバーたちからの信頼も強いから、現場での指揮には適している。
 そして千冬のこの一言で、全員の視線はクリスへ一斉に集まった。

 「そうですね……やはり、ここは数で攻めるのが妥当かと」
 僅かな沈黙の後、クリスは前に出て、地図の前に立って指で接触予測ポイントを指した。
 この作戦は考えるべき要素が多すぎて、選択できる戦術が大幅に制限されている。

 「銀の福音の移動ルートはまったく迷いがありません。まるで、最初からこの近くを目指しているように見えますね。確信はできませんが。しかしこのスピードなら、ついていけるだけの機動力を持つ機体、具体的に言うと白式が迎撃に適しています」
 「お、俺?」
 自分を指差して、一夏は目を丸くする。
 白式の高機動性と“零落白夜”。上手く行けば、一撃で仕留められる。それは誰もわかることだ。
 だが、一夏1人にそんな役目を任せるのは、ややというかかなり不安だ。それに、1人だけリスクを全部背負わせては、やはり作戦上よろしくない。

 「お前1人で行けとは言わないから、安心しろ。同じ高機動力を持つ“紅椿”、つまり箒、お前には一夏と一緒に、先行してくれないか」
 「私か?」
 どこか不安そうな目で、箒はクリスの顔を見上げた。
 姉から専用機を貰って、いきなり実戦とは思わなかったのだろう。
 本当は紅椿の実戦投入に抵抗を覚えているが、背に腹はかえられん。この中で白式と同レベルの高機動力を持っているのは、紅椿くらいだ。

 「お前と一夏で、銀の福音の足止めをしてもらいたい」
 「足止めだけ?」
 「ああ。二人だけで余裕に撃墜できるのならやってもかまわんが、無理して落そうとするな。援軍が来るまで安全を第一に、足止めだけをしてくれればいい」
 箒と一夏に指示を出した後、クリスはレオナに視線を向けた。