IS バニシングトルーパー 043
白式と紅椿を除けば、機動力があるのはエクスバインとズィーガー。ついでに精密砲撃能力のある機体も連れて行きたい。
シュヴァルツェア・レーゲンが最適だろう。
「続いては、俺とレオナだな。そして最後に隆聖とラウラ、お前達も一緒に行ってもらう。現場で合流したら、この六人で銀の福音を落す」
近距離格闘戦は一夏と箒、中距離かく乱はクリスとレオナ、遠距離支援は隆聖とラウラ。
レオナとラウラは軍人だ。いかなる状況でも冷静に動けるし、万が一の場合は指揮をも取れる。そして隆聖を連れて行くのは、R-1の爆発的な火力を見込んでのことだ。
もし一夏が失敗したら、限界がまだ未知数のR-1の念動兵器で銀の福音を落してもらう。
「ちょっと、あたし達は?」
「私は何もしなくていいの?」
「援護射撃なら、このわたくしが!」
不満そうなジト目をして、鈴、シャルそしてセシリアは自分に役割を与えてもらえないことへの文句をこぼす。
しかしもちろん、クリスはこの三人を忘れたわけではない。
「一度に過多な戦力を投入しても、戦場を混乱させるだけだから、お前達は予備戦力だな。セシリアと鈴は急いで送ってきたパッケージをインストールして、シャルはここでAMガンナーの到着を待て。準備が終わり次第、いつでも出撃できる状態で待機していろ」
ジェネレータ接続してGインパクトキャノンを撃つのは無理だが、ラファール・リヴァイヴ・カスタムSPもAMガンナーを乗って運ぶこと自体は可能だ。
そして、甲龍の「崩山」に、ブルーティアーズの「ストライク・ガンナー」。二人の新型パッケージの装着作業はまだ済んでいない。それが終わったら、戦闘力が大幅に上昇する。
よって、万全でない状態で出撃させるより、予備として温存し、パワーアップさせるべきだと判断した。
「これで、いいですか? 織斑先生」
作戦説明を一旦終えて、クリスは黙っていた千冬へ視線を送り、意見を求める。
すると、千冬は彼と視線を合わせて、無言に頷いた。
作戦自体はセオリーにかなっているから、特に修正は要らない。
「お前達も、異論はないな?」
千冬の許可を得て、クリスは振り返って全員の顔を見回して、意見を確かめる。
作戦の先発メンバーから外されたことにやや不満な態度を示しているセシリアと鈴以外に、反対する人はいなかった。
これで、銀の福音を落とすための作戦の大筋が出来た。
だがこれは、あくまで何事も起きない場合の作戦方案である。事件自体は胡散臭すぎて、裏に何かがあるのを感じる。
そもそも軍用ISが暴走して自分の意志で行動する聞いたことないし、ただの事故とは信じ難い。
しかしもしそこに誰かの意志があるのなら、その目的はなんだろうか。こっちの対応も、その計画の中にあるのだろうか。
分からん。可能性が多すぎて判断に困るから、嫌な予感しかしない。
だからこそ一部の戦力を、こっちに温存させた。
あの三人の組み合わせはバランスが取れてるし、幸いなことにイルムさんは近くにいる。いざって時は何とかしてくれるはずだ。
「あと一夏。お前は俺たちが到着するまで、零落白夜を使うな」
「えっ?」
「瞬時加速と零落白夜で逆転するのはスポーツのやり方だ。実戦なら、もっと安定して燃費よくダメージを稼ぐ方法を考えろ。白式には、それを可能にするだけの性能を持っている」
白式の燃費の悪さは誰も知っているが、本物の戦場でエネルギーを切らしても、手加減をしてくれるわけではない。
だが今の一夏では、零落白夜を頼らないとまともにダメージを稼げないという致命的な欠点を抱えている。
「それと、箒」
「なっ、何だ?」
なぜか呆然としていた箒は、クリスに名を呼ばれて慌てて目を上げた。
そんな彼女の顔を見て、クリスは小さなため息をついた。
今日は色々とありすぎて、精神的にまだ整理がついていないだろう。そんな状況で、戦闘に参加するのは望ましくない。
「今回は正真正銘の戦場だ。敵はただの高性能破壊マシン、身の安全なんて誰も保証できないから、怖いと感じるのが普通だ。だから、無理に参加しなくてもいい」
「えっ?! でも、私は必要なのでは……?!」
「あくまで個人としての頼みだ。本当に迷いがあるのなら、戦場に出ない方がいい。……この前、お前に言ったよね。ISというものは個人のための力ではなく、立場を代表して行使するものだ。この上で、個人の所有が認められる。同じ銃でも、持っているのが警察なら怖がられないのと一緒だ。だがお前の紅椿は違う。それは、お前だけのものだ」
束から貰った紅椿は立場も目的もない、ただの暴力(ちから)だ。
それを纏ったまま一般社会で生活しては、銃も持って歩き回る一般人より遥かに恐ろしい。
箒は基本的に善良なのは分かっているが、それを説いても世界は納得しないだろう。
IS学園は原則上政府の干渉を受けないから、少なくとも三年間は無事? 違うな。
学園の生徒は皆、専用機持ちを目指して必死に競争している。コアが限られている以上、将来に専用機を与えてもらえるのは一部の優秀な生徒だけ。
なのに、箒は姉から直接専用機を貰った。
それを知った同級生たちは彼女のことをどう思う?
さらに、束と接触したと分かったら、政府はどう動く?
このままでは、箒はまた孤立されてしまう。
「確かにこの第四世代ISなら、どの国は欲しがって、箒を受け入れてくれるかもしれない。だが箒はそのために力を望んだのか? それで満足するのか?」
「わ、私は……」
皆の視線を浴びて、クリスの言葉に箒は自分の手首につけている、紅椿の待機状態である赤い紐を見つめたまま絶句した。
クリスの厳しい言葉は、彼の善意から出たことくらい、分かっている。
けれど力を恐れて逃げ出すのは、もう嫌だ。
「作戦前に悪いけど、そんな状態で戦っても、後悔するだけだぞ。それでもお前は紅椿を使いたいのなら、戦う理由をはっきりさせることだ」
戦いにおいて、自分にとって何が一番大事か。それさえはっきりさせれば、どんな状況下でも迷わないはずだ。
その後に続く道は、既に用意されている。
あとはお前次第だぞ、篠ノ之箒。
「本当に、無理しなくていいんだぞ?」
戸惑うような表情をしている箒の肩に、一夏は手を乗せた。そんな彼の顔を見て、箒は僅かに安堵した表情になり、心配そうな声で一夏に問いかけた。
「一夏は……怖くないのか?」
「俺だってちょっとは怖いさ。でも俺は色々考えてた。ISのこと、将来のこと、千冬姉のこと。今はまだはっきりと口には出せないが、俺にも目標が出来た。だから、俺は行く」
硬い笑顔を作って、一夏は決意に満ちた目で箒を見る。
クリスとメキボスの戦いで、何もできなかったのが悔しかった。
VTシステムが発動したラウラと戦う時、彼女を止めるのに尽力できたことが嬉しかった。
まだ朦朧しているけど、力の正しい使い方というものが、少し分かった気がした。
「……」
一夏の目を見て、クリスの目を見る。
彼らの目から、箒は自分が必要としているものを感じた気がした。
作品名:IS バニシングトルーパー 043 作家名:こもも