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IS  バニシングトルーパー 044

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stage-44 再動



 「クリス……」
 泣きそうな声で小さく呟き、綺麗なレモン色金髪の少女シャルロット・デュノアは布団の上に横たわって、意識を失っている銀髪少年の手を片手で握り、もう片手を彼の額に乗せた。
 医療器具に囲まれ、身中に白い包帯を巻かれている少年はぐったりとして目も開けず、恋人の呼びかけにも反応しない。
 白い指先でその額にかかった、血で赤く染まった髪をそっと掻き分けた後、シャルは自分の目尻にあふれ出る雫を拭った。
 レオナからクリスは一人で敵の足止めをするために戦場に残ったと聞いた時に、助けに行こうと旅館から飛び出そうとして、一夏と隆聖に止められた。
 旅館の庭に緊急着陸したマオさんに抱えられてる、重傷を負ったクリスを見た時のことを思い出すだけで、シャルの全身に震えが走る。
 母に続いて、また大切な人を失うのかと思った。

 幸いなことに、旅館に到着した時点でクリスの傷の出血は既に全部止まり、傷口も塞ぎ始めた。出血が結構多かったためバイタルサインはまだ不安定だが、常人では考えられない外傷回復能力だと、医者は言ってた。
 でもそんなことは今のシャルにとって、どうでもいいことだ。
 ただ、早く目を開けて欲しい。いつものように愛称で呼んで欲しい。
 でないと、不安で不安で仕方がないのだ。
 
 「……っ」
 旅館から借りたこの臨時救急室の中、クリスのいる布団の側に、シャルと対向するように座っている少女はもう一人居た。
 いかにも心配そうに唇を噛み締め、昏睡中のクリスの顔を無言に見つめているイギリス代表候補生、セシリア・オルコットだった。
 本当はシャルのように彼の手を握り、名を呼び、顔を触れたい。
 けれどそれは恋人である彼女の役目で、自分にそんな資格がないことはきちんと理解している。
 こんな時ですから、シャルロットと張り合う気にはなれません。
 ただ拳を握り締めて涙を押さえ込み、彼の無事回復を祈る。
 それが、今この人のためにできる少ないことの一つですから。


 「馬鹿野郎。女を二人も泣かせやがって……」
 臨時救急室と壁一枚で隔てた廊下で、僅かに開かれている引き戸の隙間から意識不明に陥っているクリスとその傍にいる二人の少女を眺めて、イルムは顔を曇らせながら、場の空気に配慮した小声でそう言った。
 クリスに頼まれて近くで待機していたが、まさかあいつがあんな状態になって戻ってくるとは。
 まったく半人前のくせに、格好つけやがって。
 けどな、空間転移だか何だかしらねえが、後輩がやられても黙っちゃいられるほど、俺はお人よしじゃねんだよ。

 イルムの隣に立つリンは冷静な表情を崩さずに、静かに涙を拭っているシャルに視線を向けながら、上着のポケットの中で拳を握り締めた。
 今の事態は、ハワイ沖で銀の福音を仕留めなかった自分の責任だと思っている。
 大人である自分のミスが、若い子供達にまで迷惑をかけた。そんな自分の不甲斐なさに、腹が立つ。

 「「……」」
 無言に、どちらからでもなく、ただ極自然に、イルムとリンは視線を合わせた。
 そして数秒間見つめあった後、二人は小さく頷き合った。
 考えていることは一緒だ。なら、あえて言葉にする必要などどこにもない。
 これ以上、指を咥えて若い子たちが戦うのを見物している気はない。

 「いくぞ」
 「……ああ」
 そんな簡潔なやり取りだけをして、イルムとリンは澱みのない足運びで廊下の出口へ歩き出したのだった。


 「……山田先生」
 「はい」
 旅館から出て行くイルムとリンの後姿をガラス越しに眺めながら、廊下の窓際に立つ千冬は自分の後に居る副担任に話しかけた。

 「戦闘空域の状況は?」
 「えっと、その……さっきから、この一帯は何か強力な電波ジャミングをかけられているみたいで、情報伝達はうまく機能できていませんが……」
 「なにっ……?」
 真耶の言葉を聞いた千冬はすぐに自分の携帯を操作して耳に当ててみたが、聞こえたのはノイズだけだった。
 そんな彼女の行動を静かに見守った後、真耶は報告を続けた。

 「ただ、ISコアネットワークはまだ有効なので、銀の福音の位置だけは確認されてます」
 「どういうことだ。近くに味方がいるのか?」
 「えっと、“スペインセレナーデ”と名乗ってる人から転送してきた情報です」
 「小夜曲、か。……あの狐め」
 真耶の口から出たその単語を聞いた千冬は、すぐに誰かを思い出して納得したように頷き、口元を僅かに歪めて舌を鳴らした。
 だが、彼女は情報の真偽を疑う素振りは見せずに、さらに別の質問をした。

 「織斑や伊達たちは?」
 「整備室でISの緊急修理と補給を行ってます。再出撃は二十二分後だと推測されます」
 「そうか。では、我々も行くぞ」
 「えっ? どこへですか?」
 突如、背を向けて歩き始めた千冬の後を慌てて追いかけ、真耶は落ちかけたメガネのフレームを押し上げながらそう問いかけた。
 するとその質問に、千冬は振り返らずに指関節を鳴らし、妙に苛立たしい声で答えた。

 「偉そうにしている連中を引っ叩きに行くのだよ。山田先生」
 「えぇぇええええ?!」


 *


 大人組が忙しそうに行動を始めた頃に、IS学園一年の専用機持ち達の機体の修理と補給作業が行われている整備室から、やや騒がしい声が聞こえてくる。
 担当する機体を囲んだ整備士たちは素早い動作で破損した装甲板や内部パーツを外し、新品と交換する。
 同時に、各機体本体はケーブルで繋いだ電源から、酷く不足しているエネルギーを大量に取り込む。
 万全とまでは行かないだろうが、この限られた時間でせめてエネルギーシールドだけは万全状態にしたい。

 「金属粒子誘導デバイスの交換パーツはもうないんですか。……分かりました。ではソニック・アクセラレーションは使わないようにします」
 いつも通り冷静そうな表情と落ち着きのある声で、レオナは自分の愛機・ズィーガーの修理を手伝っていた。
 だがよく見ると、彼女の白い指は僅かに震えていて、蒼い瞳も微かに潤ってるように見えた。
 それでも、彼女は自分の手を動かすのを止めない。
 いつでも出撃できるシャルとセシリアと違って、レオナの機体はかなりのダメージを負っている。
 再出撃まであと二十分程度。今は機体の整備を、何よりも優先すべきだ。
 それが、軍人としての正しい判断であると思った。

 けれど、誰も彼女のように上手く感情をコントロールできているわけではなかった。

 「くそっ! また何もできなかった!!」
 「一夏っ!」
 整備室の隅で、一夏は悔しげに叫び、拳で金属の壁を思いっきり殴りつけた。
 拳に僅かな血が滲み出た彼の腕を、鈴はすぐに抱き止めた。

 「このバカ! せっかく無事に戻れたのに、自分を傷つけてどうするのよ!!」
 「けど、あいつは……!!」
 未だに意志不明なクリスのことを思うと、一夏は自分の悔しさを抑えきれなくなる。
 誘拐の時も、クラス対抗戦の時も、そしてさっきも、他人に助けられて、自分では何もできなかった。
 いつになったら、そんな情けなくて弱い自分を卒業できるんだ!
 
 「落ち着け!!」