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IS  バニシングトルーパー 044

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 突如に、近くの地面に腰を下ろしている隆聖の迫力のある低い声が、近くにいる全員の耳朶に響いた。
 周囲の視線が、一斉に彼に集まった。

 「……気持ちは誰も同じだ。けど体力は残しておけ」
 修理中のトリコロールカラーの愛機を眺めながら、隆聖は手にあるペットボトルを握り潰す。
 次はクリス抜きであの化け物たちと戦わねばならんから、という言葉をあえて口にせずとも、一夏も含めてここにいる全員はきちんと理解している。


 「すう……はぁ……」
 一回深呼吸して、少し冷静になった一夏は隆聖の隣まで歩いて、無言に腰を下ろした。
 そして落ち着きを取り戻した一夏を見て、鈴は安堵したように胸を撫で下ろした。

 「悪い。あいつがやられたから、動揺してた」
 「気持ちは分かるよ。……ほら」
 隣の一夏、隆聖はそんな一言と共にスポーツドリンクを差し出した。
 同じ男として、彼の悔しい心境は痛いほどよく分かる。けどクリスが意識不明となった今こそ、落ち着いて最善を尽すべきと思った。
 それを、皆も心の中で理解してるはずだ。


 「あれが、本物の戦い……」
 殺意の持つ敵と対峙する時に感じたあの恐ろしさを思い出して、箒は寒そうに自分の体を抱きしめ、眉を顰めて苦い表情になる。
 世の中にはISを悪用する人間が居ることくらい分かっていたはずなのに、あえて意識しないようにしていた。
 殺し合いなんて、遠い存在だと思っていた。
 でもさっきのことで、命の奪い合いと学校の試合とはまったくの別物だと、強く実感した。
 クリスは敵の足止めをするためにあの場に残り、あんな状態になって戻ってきたから。
 彼が敵に立ち向かった時、その背中に一言かけるくらいの余裕すらなかった。
 怖い。怖くて身の震えが止まらない。

 クリスが言った通りだった。覚悟もないまま戦ったから、こんなにも戦いの恐怖が心に刻み込まれた。
 間もなく皆は再出撃する。なのに私は怯えている。
 こんな状態で、本当に戦えるのか?

 ――戦うべきだ。。
 誰かに強要されて、ISを乗っているわけではないのだ。現に、紅椿を手放すという選択が残されている。
 けど赤椿を手放したら、きっと一生後悔するのだ。
 そんな気がする。

 「だが、私の機体はもう……」
 突如に、そんな言葉がこの静まり返った場にいる全員の耳に届いた。
 声のした方向へ目を向けると、ガーゼを張られているラウラの横顔が視界に入った。
 そして彼女の視線の先にあるのは、大破寸前の愛機――シュヴァルツェア・レーゲンだった。その武器と装甲の破損状態は、もう緊急処理でどうにかできる範囲を超えている。
 あの状態では、まともに稼動することすら難しいだろう。

 「練習機のラファール・リヴァイヴが教員たちに使われている以上、空いている機体はもうない。一体どうすれば……」
 「……なら、ワシらの新型を乗ってみんか」
 「えっ?」
 背後からの話し声に振り返ってみると、そこに立っているのは、白衣を着た痩せ気味の老人一人だった。
 面白いとばかりに目を細めながら、老人はラウラと隆聖を交差して見て、喉の奥から薄気味の悪い笑い声を漏らす。
 いきなりこの場所に現れた見知らぬ老人に、ラウラは疑わしげな視線を向けながら彼に問いかけた。

 「貴様は……?」
 「ワシの名はDr.トキオカ、ハースタル機関の人間じゃ。お主、機体がなくて困っておろう? なら、ワシらが出来立ての新型機を乗ってみんか」
 「新型……ですか」
 いきなりの申し出に、ラウラは眉の間に僅かな皺を寄せながら困惑した表情になる。
 使える強力な機体があるのなら、勿論貸して欲しい所だが、ぶつけ本番で新型を使いこなせるか、ちょっとだけ不安ではある。
 そんな彼女の考えを見通したように、Dr.トキオカは視線を修理中の隆聖の愛機であるR-1へ移りながら、話題を続けた。

 「……Rシリーズの二番機、R-2パワードじゃ。接近戦用のR-1を支援するための、遠距離砲撃用ISじゃが、どうじゃ?」
 「R-1を、支援するための?」
 老人の説明を聞いたラウラは、僅かに表情を変化させた。

 「ああ、そうじゃ。接近戦のR-1、砲撃戦のR-2パワード、そして指揮管制用のR-3パワード。この三機が揃えば、天下無敵じゃぞ。……ほれ」
 その巨人(SRX)が目覚める時の光景を想像しているのか、Dr.トキオカは楽しげに笑いながら、一枚のカードをラウラへ差し出した。
 IS収納用コンテナのカードキーだった。

 「……ご協力、感謝します」
 やや乗せられた気もするが、背に腹はかえられん。出撃するならその新型を借りる以外の方法はない。
 老人の手からカードキーを受け取り、ラウラは頭を下げて礼を言ったのだった。


 *


 「……もう、時間ですわ」
 「えっ?」
 救急室の静けさを打破したセシリアの言葉に、昏睡中のクリスを見守っていたシャルは小さな驚き声を上げた。
 目を上げると、引き締まった真剣な表情をしているセシリアが視界に映りこみ、シャルは彼女の言葉に意味を理解した。
 出撃の時間が迫っている。

 「わかった。……行こう」
 「いいえ。わたくしだけでいいです」
 名残惜しげにクリスの手を放し、立ち上がろうとして腰を浮かしたシャルを、セシリアは手で制した。

 「えっ?!」
 「あなたはここに残りなさい。クリスさんが目を覚ました時に、一番見たいのはあなたの顔でしょうから」
 「どういう意味……?」
 「わたくし、本当は分かってます。クリスさんが心から好きなのはあなただけで、わたくしを受け入れるつもりなんてありませんの」
 寂しげな苦笑いを浮かべて、セシリアはクリスの顔を眺めながら、ゆっくり立ち上がる。

 「でもクリスさんはわたくしに優しいから、どうしても諦め切れません。彼がわたくしのことを友達以上に思ってなくとも、わたくしは自分の気持ちを裏切りたくありません」

 確かに、彼を知っていくうちに、それほど完璧な人間ではないことが分かりました。
 ちょっと意地悪ですし、自分勝手なところもありますし、いつも本心を見せてくれません。
 それでも、紅茶の好みを覚えてくれた彼の優しさでドキドキする自分の気持ちに、素直になりたい。
 ですから、今から彼に褒めてもらうために、命をかけた戦いをしに行きます。

 「セシリア……」
 「あなたはここで、クリスさんと一緒に居てください。……では」
 「待って!」
 引き戸に手をかけて部屋から出ようとするセシリアを、シャルは慌てて呼び止めながら、立ち上がった。
 真剣な眼差しをクリスの顔からセシリアの顔へ移り、シャルは待機状態の愛機を握り締め、決意を滲ませた薄い笑みを見せた。
 ただ泣いて待つだけの弱い女だとは、思って欲しくないな。

 「……戦うよ、私も」


 *


 IS学園の一年生が再出撃するより少し前に、既に戦闘空域に飛び込んだ二機のISがあった。
 暗めな青色装甲とスマートな体型を持つIS「ヒュッケバイン」と、明るい青色、黄色そして白色に彩られた重装甲を備えたIS「グルンガスト」だった。