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IS  バニシングトルーパー 045

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 二次移行を果たした銀の福音の強さは、最初の頃と比べ物にならないほどに進化している。形状を自由自在に変化させられるエネルギーウィングが羽ばたくだけで、弾丸が雨のように降ってくるし、機動力もシルベルヴィントに迫るほど敏捷になっている。
 後ろを追って来る紅椿とズィーガーに、銀の福音は回転しながらエネルギーウィングを広げ、光らせる。

 「来るぞ!!」
 「……っ!!」
 満天から降って来る福音の光に、箒とレオナは散開してかわそうとする。
 それでも、そんな視界を埋め尽くした攻撃を完全回避するのは、無理があったのだ。何発か機体に直撃して、エネルギーゲージを減らしていく。
 数発だけなら、ダメージはそれほど酷いものではない。しかし、パイロットへの心理的負担は大きい。
 追いかけても追いつけない。撃っても当らない。そして撃たれるたびにダメージを受ける。
 おまけに相手は疲れ知らずの機械。このまま消耗戦を続けても、不利になる一方だ。
 千冬が約束した30分まで、本当に持つのか? そもそも、仮に援軍が来ても、この場面をどうにかできるのか?
 そんな不安が、箒とレオナだけじゃなく、一夏と鈴の中でも波紋のように広がり始めた。
 だが弱気になった四人の耳に届いたのは、戦闘空域の下方にある洋島の上で、敵と苦闘中の隆聖の裂帛だった。

 「まだまだぁぁぁっ!!」
 緑色に輝く右拳を握り締め、トリコロールカラーの愛機と共に隆聖は突貫する。前方に立っているのは、明るい緑色の重装甲ISだった。
 同じ重厚な鎧を着込んでいても、砲撃用のラーズアングリフとは違うタイプに見えたその重装甲ISは六メートル前後の図体を持っている。右手の太い鉄棒に、右手の鎖付きのハンマー、さらに両肩にはそれぞれ二連装レーザー砲塔が一基取り付いている。
 元々は砲撃だろうけど、近距離の格闘戦が弱いということはない。なにより厄介なのは、その重装甲と図体による防御力である。

 「はああああっ! T-LINKナッコォ!!」
 ありったけのパワーと念を篭めて、隆聖は敵の懐に飛び込み、R-1の必殺技を思いっきり相手の腹部に叩き込んだ。
 シルベルヴィントや銀の福音と違って、こっちの相手は動きも鈍いし、エクスバインボクサーよりさらに大きいため、攻撃を当てるのに困らない。だがこの敵はどんな攻撃にも動じない防御力と、R-1を圧倒できるだけの蛮力の持ち主である。
 隆聖のT-LINKナックルを受けてもまったくダメージを受けた様子がなく、敵は右手の鉄棒を乱暴に振り払い、R-1が殴り飛ばす。

 「くはああっ!!」
 「隆聖っ!! デカブツめ……!!」
 猛烈な一撃を見舞われた隆聖は高く飛んだ後地面に叩きつけられ、遠距離から隆聖のバックアップを行っていたラウラは激昂する。
 嫁が殴られた、夫として黙っていられるか!

 「バーストモード、ターゲットロック!!」  
 両肩のハイゾルランチャーの砲口角度を調整し、ラウラは発射モードを切り替えながら照準する。
 最大出力で照射する収束モードと違って、こっちは粒子ビーム弾を大量に連射してばら撒く散弾モードだ。
 ――今すぐ、その図体を蜂の巣にしてやる!!

 「ハイゾルランチャー、発射!!」
 十門の砲口が火を噴出し、乱射して砲弾をシャワーのように一気に相手を浴びさせる。爆音と共に敵が立つ場所の地面の砂や岩まで吹き飛ばされ、黒煙が立てる。
 だが煙が晴れた後、そこに立っている敵の装甲に、凹みの一つも見当たらなかった。丸い頭部を動かして遠くに居るラウラを睨みつき、敵は肩のレーザー砲で反撃する。

 「なんて防御力だ……これだけ撃っても平気なのか……」
 「あはははは! ダーリンのドルーキンに、そんなものは効かないよ!」
 上空からアギーハの自慢げな高笑い声が響き、R-2パワードの右足を軸に回転して砲撃をかわして、ラウラは苦虫を噛み潰したような表情になる。
 ハイゾルランチャーの威力の高さは理解しているつもりだ。これだけ撃てば普通のISならとっくに沈んでいる。
 なのにこのドルーキンとやらにはまったくダメージらしいダメージを与えられない。
 通信を聞く限り、他のメンバーの戦況も芳しくない。敵の撃墜おろうか、30分まで持てるかどうかすら疑問だ。
 バランス型の敵指揮官機をシャル達が牽制しているから、広範囲攻撃を放ってくる危険性はないが、このままではエネルギーが持たない。
 さて、どうする? 指揮官として。

 「そんなの、決まってる!!」
 突如に隆聖から意志の篭った、人を奮い立たせる声が同時に全員の耳に届いた。
 地面から立ち上がり、彼は深呼吸して、一撃必殺の鉄球(ブーストハンマー)の鎖を握り締め、力いっぱい振り回す。
 効かないなら、効くまで殴ってやればいい。諦めるのはまだ早い。

 「それに、私は……!」
 「私達は……!!」
 隆聖の言葉に応じるように、離れた空域にいるシャルはリボルビングバンカーを掲げてメキボスと対峙し、カノジョの言おうとしている言葉と同調したセシリアはオクスタンライフルを構えてシャルと肩を並べた。
 大事な人を傷付けたこいつらに、一泡吹かせてやらないと気が済まない。

 「へっ、しぶとい連中だな」
 片手で銃を握り、片手で剣を構える。嘲弄めいた口調で、メキボスは鼻を鳴らす。
 初対面のこの二人の相手をしていては大破する心配はなさそうだが、なかなか落とせないのも事実。
 だが、そろそろ片付けておかないと、後々面倒なことになりそうだ。 

 「本当に、大した闘争心だぜ。本当は何のために何と戦ってるかも知らない……」
 「そんなの誰が決めた! 」
 「勘違いにも甚だしいわ!」
 メキボスの皮肉めいた言葉を遮り、美少女二人は怒りを滲ませた声で黙らせ、同時にグレイターキンを指差す。
 そう、誰のために何と戦っているか、二人の中でははっきりしている。
 まるでバカでも見ているみたいな蔑むような視線で睨みつけ、二人はメキボスを鼻で笑い、きっぱりと言い放った。

 「男のために、私は戦ってるの!」
 「そう! あの人を傷付けたあなたたちは絶対に! 倒してやりますわ!!」
 「……なんだそりゃ」
 シャルとセシリアのいかにも本気そうな返事に、メキボスは思わず呆れたため息をつき、肩を竦める。
 所詮は野蛮人の子供だな、甘い上に、戦う理由も実に適当だ。

 「……っ」
 しかし恥かしい言葉を臆面もせずに言い張ったシャルを見て、銀色ショートヘアの少女――ゼオラは複雑そうに表情を歪めた。
 自分はただの実験体。命令を受けた以上、徹底的に従わねばならん。
 心に残った、最後の絆と思い出を守るために。
 自分にとって、今の自分――ゼオラ・シュバイツァーであるために。
 だから彼女みたいに、自分の意志で行動を決めることはできない。
 どんな嫌な思いをしても、今は戦うしかない。


 「セシリア! タイミングをあわせて!!」
 「了解です! では、愛を篭めまして……!」
 視線を正面に戻すと、照準線の向こうにオレンジ色のカスタムSPと青色のブルーティアーズは既に動き出し、シャルとセシリアは乾坤一擲の勢いでメキボスへ突進し始めた。