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IS  バニシングトルーパー 047

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 もう片方は、綺麗な金髪をツインテールに纏め、ゴシック調の服を着た十歳前後の小柄少女だった。
 千冬の接近を気にせず、二人は細かい水しぶきをあげながら、いかにも仲良しのような会話を交わす。
 しかしその二人を眺めている千冬は、妙に気が重そうな表情をしていた。

 「しかし今日は楽しかったね。凄いものを一杯見ちゃったよ!」
 「……楽しい、か」
 相変わらず無駄にハイテンションで騒がしい束と違って、少女は至って落ち着きのある声で話している。
 華奢繊細で大人びた雰囲気が漂わせて、少女は海風で乱れた髪を押さえながら、薄い笑顔を浮べた。
 その笑顔はどこか寂しげで、悲しげで、儚かった。

 「私は悲しいよ。皆は戦うばかり。やはり他の星から来た人は怖い」
 「いや~手厳しいな。でもこれからはもっともっと面白くなるよ?」
 「またそんなこと……!」
 束の言葉に激しく反応して、少女は急に大声を出す。しかしその言葉が終わる前に、束は踵を返して走り出す。

 「まあ、私は凄いものを作れればそれでいいんだけどね~! では今日はこれにて、さらばじゃ~! ちいちゃんも、さらばじゃ~!」
 手を振って別れを告げ、束はその場から離れていく。そして彼女の姿が森の奥に消えた途端、凄まじい噴射音が静かな海岸に響き渡った。
 小さなロケットが森の中から飛び出し、煙の尾を引いて夜空の向こうへ飛んで行く。
 中々派手な退場パフォーマンスであった。

 束が去った後、僅かな静けさがこの場に残された少女と千冬の間が流れる。
 何か言いたげな顔をしている少女と、眉の間に深い皺を刻み込んでいる千冬。
 二人は視線を合わせたまま、押し黙る。

 「……千冬ちゃん」
 少女がおずおずと千冬を呼び捨てにする声が、沈黙を破った。
 そしてややぶっきらぼうな口調で千冬は返事を返し、少女の名を呼んだ。

 「久しぶりだな。……イルイ」
 「うん、久しぶり。元気だった?」
 「そこそこな。お前も元気そうでなによりだ」
 久々に再会した旧友のようなやりとりして、二人の硬い表情はようやく幾分か優しく和んだ。
 波打ち際から離れ、イルイと呼ばれた少女は千冬の側まで歩いて彼女の顔を見上げながら、懐かしそうな表情になる。
 精一杯背伸びして、千冬の頭へ手を伸ばすが、結局は身長の差で千冬の肩すら届かなかった。

 「もう、頭なでなではできないね」
 「当たり前だ。私はもう二十……なんでもない」
 いきなり傷付けたように口元を歪め、千冬はイルイから目を逸らした。
 そんな彼女にイルイは僅かに微笑むが、すぐに身の危険を感じて口元を遮った。
 そして真面目な表情に戻り、手を胸に当てて真剣な声で話しを再開する。

 「私、あの人達と決別したよ」
 「……そうか」
 「だから、私と一緒に来て。いくらレプリカを作っても、やっぱり千冬ちゃんじゃないと私、ダメみたい」
 「……」
 無感情な目で、千冬はイルイの顔を見て何も言わない。
 しばし沈黙の後、イルイはそれが彼女の拒絶だと理解し、寂しそうな目で千冬を見つめ返す。

 「あの時のこと、まだ怒ってる? でもあれは、私の意志じゃ……!」
 「そういう問題ではない」
 「ならどうして? 千冬ちゃんは私の味方でしょう?」
 「今の私は教師であり、姉でもある。それに、お前の考えはやはり賛同できない」
 「姉と言っても、彼は本当は……!!」
 「言うな!!」
 突如、千冬は怒りが混じった声でイルイの言葉を遮った。

 「……」
 ビックリした後、悲しげに顔を曇らせ、イルイは唇を噛み締めて目を伏せた。
 小さな体が、微かに震える。
 やがて、イルイは千冬から一歩退いて、再び目を上げた。

 「私、諦めないから。……この星を守るために」
 刹那、イルイの体が金色に眩しく輝き始めた。
 神々しさの中に暖かさが溢れるその光に照らされ、海の一面が金色に染められていく。
 そんな不思議な光景の中、イルイは妖精のように空に浮んでいき、千冬はただ無表情にそれを眺める。

 「バイバイ、千冬ちゃん。また来るから」
 小さく手を振って、光に包まれたイルイの姿は空気の中に溶け込むように、薄れていく。
 やがて幾筋かの残光を残して、完全に消えて行った。
 眩しい光が消え、周りは静まり返っていく。

 「……」
 小さなため息をつき、千冬は遠い目で海の向こうへ視線を向ける。
 イルイという少女を拒絶したことに、複雑な思いをしたのでしょう。
 しばらく夜の海を眺めた後、千冬は軽く舌を鳴らして、そろそろ旅館に戻ろうと踵を返す。
 その瞬間、波打ち際に存在している、存在するはずのない不思議な海産物が千冬の目に入った。

 燃えるような真っ赤なワカメが、そこにあった。
 褐藻綱コンブ目チガイソ科の海藻であるワカメは、普通は深緑色のはずだが、赤いワカメはちょっとあり得ない。
 料理はできないけど、これくらいの常識はある。
 好奇心に駆られて、千冬はその赤いワカメへ近づいて体を屈め、月光を頼りにその不思議な物体を観察する。

 「こいつは……」
 意外なことに、その不思議な海産物は、一人の男が頭に被っているものだった。
 身を包む青タイツがボロボロで、体にも大量な傷痕が見える。加えて本人が全然動かない所から見ると、恐らく波に打ち上げられてきたのだろう。
 しかしこの辺はIS学園の関係者以外立ち入り禁止になっているはずだ。
 なら、この男はなにもの?

 「うっ、レモン……」
 男の口から、呻き事のような声が聞こえた。
 どうやらまだ生きているようだ。
 ならこのまま放っておくものどうかと思うし、とりあえず海から引っ張り上げておこう。
 そう思って、千冬はまずその頭に被っている赤いワカメを取り除こうと手を伸ばした。

 「……地毛か」

 ――なんと、地毛だった。