IS バニシングトルーパー 048-049
今日は何とかいつもより早く帰れたけど、やはりシャルと一緒に帰れなかった。今頃また部屋の中で口を尖らせていることだろう。
でも溜まった書類はなんとか片付けたし、明日からはもう少し早く帰れるはずだ。そう思うと、気分も幾分か軽くなった。
内ポケットからIDカードを出してドアハンドルのセンサーに当てると、電子音とともにロックが外れる音が響いた。
できるだけ優しい笑顔を浮べて、クリスはドアハンドルに手をかけて、部屋の扉を開ける。
「ただい……ん?!」
部屋の扉を完全に開けた瞬間、クリスの視野が真っ黒になった。同時に部屋の中から妙に焦げたような匂いが鼻に付き、小さな悲鳴が聞こえる。
「停電か!? ……シャル!!」
おそらくまだ料理中の彼女を心配して、クリスは慌てて部屋の中に入った。
停電なんてここにはかなり珍しい事態だが、今はそれを考えるよりシャルの安否が大事だ。
玄関に入った途端、小さな黒影が飛びつくようにクリスの胸に飛び込んだ。
余程怖かったのか、それとも寂しかったのか、シャルは無言に顔をクリスの胸に埋めて、頬を擦りつける。
「大丈夫だよ。ここにいるから」
暗い玄関で、しがみ付いてくる温かくて柔らかい体を抱き締めて、クリスはなだめるように彼女の背中をさすりながら、静かな声で囁いた。
しかし、すぐに微妙な違和感を感じた。
「あれ? 匂いが違う? というか、胸が……」
心なしか胸はいつもよりボリュームがあるように感じて、腰辺りも昨日触ったのよりすっきりしたような気がする。
ほぼ毎日抱きついてるけど、今日は全体的に抱き心地が違う?
それを確かめるために、クリスはシャルの胸へ手を伸ばして触ってみた。
「きゃっ!」
小さな驚き声が聞こえて、クリスは一瞬びくりと硬直した。背中に、冷たい汗が落ちるのを感じる。
胸の手触りが全然違うというかこの声は明らかにシャルじゃないぞ! 誰だよお前!? この部屋は自分のかシャルのIDカードがないと入れないはずだぞ!
「二人とも……何をしてるのかな?」
刹那、部屋に明かりが点いた。
天使の笑顔を浮べながら、ドス黒いオーラを纏ったシャルが部屋の奥からゆっくり寄ってくる姿が、クリスの視界に飛び込む。
抱きついてきているこの子の正体を確かめようと、慌てて視線を落とすと、目に映りこんだのはよく知っている少女のうっとりとした顔だった。
「セシリア?! なんでここにいるんだ?」
「クリス、その手はどういうこと?」
手に握る包丁が鋭く煌き、シャルは虚ろな目でセシリアの胸を触っているクリスの左手を捉えて、笑顔のまま問いかけた。
「あっ、いや、これは、その、一種の識別手段というか……」
慌ててセシリアから手を離して、クリスは必死の形相で弁解するが、シャルはまったく耳をかしてくれない。
完全にベーオシャルの再臨である。
よりによってこんなタイミングで電力が回復するなんて。
というかセシリアはなぜここにいる。イギリスに帰省したんじゃないのか。
「浮気だけはダメって言ったでしょう!」
「いや、ちょ、待て! 包丁はやめろ!! ちょっ、うわあああああああ!!!」
クリスの悲惨な叫びが、夜の静寂を切り裂いたのだった。
作品名:IS バニシングトルーパー 048-049 作家名:こもも