二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

IS  バニシングトルーパー 048-049

INDEX|9ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

 ぼそぼそと週末の予定を話していた二人の声が、段々と小さくなっていく。やがてそれが完全に聞こえなくなり、安らかな寝息へ変わった。
 手を繋いだまま、二人は一緒に深い眠りに落ちたのだった。




 *




 シャルが会社で働き始めてから、一週間の時間が過ぎていった。まだ分からないことが多いが、ここでの生活は彼女にとって、既に日常になりつつあった。
 とある平日の午後。
 本社ビルから敷地の奥にある格納庫までの道端に緑色バンダナをつけた男、真宮寺祐の姿があった。
 仕事が一段落して、休憩中の彼は草むらに寝転り、難しいそうな顔して空を見上げていた。
 ここに来てもう一年半。色々あったけど、機械弄りは好きだし、給料にも不満はない。先輩から帝の称号を受け継いで、定期的に一族の集会を開いて、“お宝グッズ”を交換するのも結構楽しい。
 クリスとは仕事の関係上よく話すし、金を借りる時も嫌な顔しないし、たまに集会に顔を出すから、関係は決して悪くはない。
 けど勝負師としての勘は、あいつは同類じゃないと告げている。
 なぜなら、あいつは心底から女に餓えているわけではないのだ。場の空気にあわせて話題には付いてくるが、心底からああいう話を楽しんでいるわけじゃないのだ。
 要は、女にモテるから別に焦ってないのだ。
 そして今回はとうとう一族から卒業したようだ。それもあんな可愛い子と。コンチクショウ。

 ――まあいいさ。童帝の称号を受け継いだ以来、この気持ちを味わうのはもう慣れてる。
 よく考えたらあいつも悪いやつじゃない。今回も余裕をもって二人を祝福しようではないか。「とら○る ダ○クネス」の単行本を全部くれたしな。
 目をゆっくりと閉じて、古○川とヤミちゃんの姿が思い浮かぶ。不敵に口元を緩ませて、祐は自分をそう納得させた。

 そんな時に、硬いコンクリートを踏む小さな足音と共に、穏やかながら上品な香りが祐の鼻に飛び込んだ。
 足音が規則的に響きながら祐へ近づいてきて、やがて彼のすぐ隣に止まった。

 「すみません。ちょっと道をお聞きしたいのですが……」
 耳元に届いたのはフルートを思わせるほどの、優美な声音だった。パッと目を見開いて、祐は体を起こして声の方向へ視線を向く。
 そこに立っているのは、日傘を差している青いワンピースの少女だった。困惑な表情を浮べて、少女は祐の顔を見る。
 その上品な顔立ちと綺麗な金髪、そして高貴な気質に、祐を思わず身構えしてしまう。
 超綺麗な子じゃねえか。シャルロットちゃんも可愛いけど、こっちも負けてねえ。よし、まずはセーブだ。選択肢が来るぞ!!

→①親切に道を教える
 ②無視する
 ③奥義! パンスト流○脚!
 本当にキター! でも②は論外、③はデッドエンド確定。普通に考えたら、①だな。

 「あっ、はい! 道を聞きたいんだよね? 一体何処に?」
 「えっと、ここの社員寮までですわ」
 「ああ、それなら……」
 今の場所から離れた所にいる社員寮を指差して、祐は少女に道を説明する。
 見かけない顔だし、道を知らないところから見ると、多分会社の人間じゃない。でも社員寮に行きたいというのなら、恐らく誰かの関係者なのだろう。見たところ学生みたいだし、夏休みを利用して親に会いに来たのかな。
 しかしこの疑問を口にすると、少女は日傘の柄をクルクルと回しながら頬を赤く染め、恥かしそう目を伏せた。

 「わ、わたくしはただその……く、クリスさんに会いたくて……」
 「……えっ」
 少女の口からあの名前を聞いた瞬間、祐は笑顔を凍らせた。
 どういうこと? なんてこの子がまるで遠距離恋愛の彼氏に会いに来たみたいな顔してんの? なんてそこであの裏切りものの名前が出てくんの?
 同じ名前の別人とか?

 「えっと、クリストフ・クレマンさんです。ここのテストパイロットを勤めてる方です。ご存知ありませんか?」
 チクショウ。あの肉食野郎だよ。またあの肉食野郎だよ。どういうことだよ。シャルロットちゃん以外にも女がいるのか?
 マジかよ。お前達が俺の翼ってか? ハーレムルートか? エロゲー主人公か? 呼吸するだけでフラグが立って女が寄ってくるのか?
 ふざけんじゃねえぞおっ! そんなわけのわからねえ理屈で、これ以上恋愛独占なんかされて、た・ま・る・かーっ!!
 この瞬間、祐は自分の中の何かが切れる音を、確かに聞こえた。 

 



 *




 四時間後に日は沈み、夜が訪れた。
 一日の仕事が終わり、会社の敷地は静まり返っていた。本社ビルにはまだ残業中の人がいるが、演習場と格納庫の辺りはもうすっかり静けさに包まれていた。
 しかし薄暗い第四格納庫の中には、怪しい黒影たちが蠢いていた。
 ひそひその話声が響き、時に甲高い金属音も聞こえる。オイルで汚れた作業服を纏い、彼らは小さな声で議論しながら、誰かの出現を待っていた。
 突如、天井から一筋の光柱が降り注ぎ、格納庫の中央に立っていた男を光に包み込んだ。
 帝王の証である緑色のバンダナをつけた第三代童帝、タスク・D・シングウジの降臨である。
 場の空気が一気に引き締ったものになり、黒影達は口を噤み、帝王へ敬意と期待が混じった視線を向ける。

 「よくぞ来てくれた、我が同胞よ。皆に集まってもらったのは他でもない、異端者を断罪するためである。ターゲットは我らが新しいアイドルシャルロットちゃんを独占をしていながら、別の女にも手をだしているあの男だ!」
 備品箱の上に立ち、童帝は威厳のある声で民たちへ言葉を発した。

 「あの野郎……シャルロットちゃんは、俺たちみたいな汚いおじさんでもちゃんと笑顔で挨拶してくれるいい子なんだぞ!!」
 「確かに。よく働くし、オイルで手が汚れても気にしないし、量産機のロマンも分かってる。今時の子にしては珍しい」
 「あの子は天使だよ! 穢れた目で見てはいけない存在なんだ! それなのにあの裏切り者……憎いぜ!!」
 「そうだ! 一族を裏切ったのは許し難き罪。あのリア充に裁きを!」
 童帝の言葉に、一族の民たちは共鳴する。たったの一週間だが、シャルロットは既に彼らから勝手にアイドルというか女神扱いされている。

 「聞け! 諸君よ!!」
 皆の戦意が高まったところで、童帝は両手を広げて、熱い演説を始める。

 「俺はこの瞬間を待っていたんだ! 一族の意地と誇りを貫き、あのリア充を地上から駆逐するこの瞬間を! そのために諸君らの力をこの俺、タスク・D・シングウジに貸していただきたい! そして俺は……先代童帝の元に召されるであろう!!」
 「「「「「「おおおおおおお――!!」」」」」」
 童帝の言葉が終わった途端に、歓声が格納庫を埋め尽くした。そして低いモーター音が鳴り響き、格納庫の奥に巨大な機影がゆっくり立ち上がる。
 眠りから目覚めたかのように、頭部の両目が光り出す。
 そしていきなり点滅し始めた。

 「我ら整備班の切り札、ジガンスクードの出撃だ! ……と言いたい所だが、電池が切れかかってるからまずは充電だ!!」



 *



 一方この頃、寮に戻ったばかりのクリスは、自分の部屋のドアの前に佇んでいた。