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IS  バニシングトルーパー 051

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 キュウリの詰めたビニール袋を丁寧にカゴに入れて、ラトゥーニはゆっくりとラウラに向きなおして、キュウリの先端で彼女を指す。

 「家族の生活に関わる故の必死さ。これがない限り、特売品を買えると思わないことです。少佐」
 「……っ!!」
 柔らかな声でも、それはラウラに自分の内心を問わせるほどの衝撃を持った、強烈な一言だった。
 確かに、ラウラは金に困ってはいない。軍人としての給料と国家代表候補としての手当てで、彼女はいままで金銭問題で悩まされることはなかったし、将来もおそらくないのだろう。
 食事の値段なんて普段からあまり気にしてなかった。だから、ココロのどこかは慢心をしていた。こんなことで必死になるなんて大げさだと思っていた。エリート軍人がこんなところで主婦たちと真剣に食材を取り合うのは馬鹿馬鹿しいと思っていた。
 しかしはいままでの伊達家は、こんな風に生きてきた。隆聖はいつも主婦たちの中に混ざって、あんな風に食材を買ってきてくれた。最近毎晩食べた伊達家の料理は、彼のそういう努力が滲んでいた。
 雪子は、それを学んで欲しかったかもしれない。そして――

 「これくらいできるようになれ、ということか」
 不敵な笑みを浮かべて、ラウラは自分の眼帯をゆっくり外した。その下にある金色の瞳は、ぎらりと輝く。
 いいだろう。ここの流儀に沿ってやろうではないか。


 「移山召還!!」
 しかし彼女がもう一度肉コーナーへ強襲をかけようと決意した矢先に、強風が吹いた。
 広いスーパーの室内とはとても思えないほどの激しいプレッシャーが、この混沌とした場所へ迫ってくる。
 顔を上げて、その上方から迫ってくるプレッシャーの元へ視線を向けた瞬間、ラウラは息を飲み込んだのと同時に自分の目を疑った。
 天井ところかスーパーを丸ごと押しつぶせるほど、とてつもなく大きな、山と呼ぶべきほどの巨物が、上から落ちてくる。
 まだ戦闘中の主婦は一斉に絶望したような顔を浮かべて、全力で逃げ出すが、時はすでに遅い。

 「急々如律令!!」
 聞き覚えのある少女の声と共に、その巨物が爆発して大量の紙切れとなって降り注ぐ。激しい気流の中酸素不足で僅かな眩暈を覚えつつ、その紙切れを拾い上げてみると、それら全部は裏に妙な漢字の書かれたスーパーのチラシであった。

 「あら、ラウラちゃんもお買い物? 奇遇だね」 
 風が吹き荒れ、雷が鳴り響く。
 爆発によって出来た死体(気絶してるだけ)だらけの荒野に、柔らかい声をした魔王(ボスキャラ)が姿を現す。

 「貴様は……」
 自分に声をかけた人物の顔を見るなり、ラウラは驚愕の後、嬉しく笑った。
 このタイミングで、彼女が現れたなんて実に厄介だ。
 厄介だが、そのおかげで敵の数も一気に減った。そして一瞬にしてこの場にいる主婦たちを撃退したその強さは、紛れもなく本物。
 予想はできたはずなのにな。
 しかしこれはこれで、デビュー戦に不完全燃焼は避けられそうだ。
 そう思うと、血が騒いできた。
 目に映るのはすでに死屍累々の戦場。耳に届くのは悲鳴と雄叫び。その奥にある肉コーナーが自分の行き先。
 情報視認――牛肉パック残り800g。
 サンダルを脱いで、素足でスーパーの床に立つ。ラウラの両目には、すでに慈悲の色が微塵も見当たらない。

 「さあ、お買い物だ!」