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IS  バニシングトルーパー 051

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 黒髪が握ったその棒状物体――長ネギが一閃した次の瞬間、ラウラの体は宙を舞った。何が起きたのかはまったく見えなかったが、状況的に考えると、おそらく自分はその黒髪女のネギに打ち飛ばされたのだろう。
 しかし打撃されたことをまったく気付かなかったとは、なんと恐ろしい腕前。

 「あいつら……!」
 肉コーナーから離れた場所に着陸して、ラウラは眉の間に皺を強く寄せた。
 民間人相手に何一つ食材を確保できずに、こうもあっさりあしらわれとは。民間人共を甘く見ていたことは認めるが、それ以上に腹が立つ。
 しかしあの三人のフォーメーションを崩す方法もないまま、無闇に仕掛けても意味はないだろうし、ここを突破しなければ牛肉を手に入れない。

 「さて、どうする? ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」
 自分自身に問いかけるようにつぶやいて、ラウラは指で額の汗を拭う。
 天井に向けて一発撃って、大人しく牛肉800gを出せ、さもなくば射殺すると脅迫するか?
 いや、それでは日本社会に溶け込めない傭兵高校生と同レベルではないか。
 大体民間人はみんな同じ条件で食材を確保しているのだ。エリート軍人の自分は銃でも頼らないと、肉パック一つ買えないだというのか。
 今になって、雪子がこのミッションを課した意味をラウラは少しわかったような気がした。
 しかしこうしている間にも、牛肉パックが減っているのだ。早く何とかしないと。

 「「「きゃああああああ!!」」」
 「ん……?!」
 黒髪ことカティアと言う名の少女が発した悲鳴に近い声が、ラウラの耳朶を打った。その声の元を視線で追うと、そのあるのは三人娘が慌てる姿だった。

 「やつだ! やつが来たわ!!」
 驚愕と恐怖の色を滲ませた表情を浮かべて、カティアの声が震えていた。
 混乱中の肉コーナーに突如に現れた何者かによって、カティアの手中にある物資を尽く奪い去られ、代わりにカゴの中は何枚ものシールを張られた鮮度の低いものが積み込まれていく。
 あっと言う間に、カティアのカゴに他のものを詰む空きスペースが完全になくなった。

 「お、音速の妖精!!」
 「……妖精? 何だそれは」
 初めてその名を耳にしたラウラは、思わずそんな疑問を抱いてしまう。
 もちろん妖精なんているわけがない。おそらくコードネームか何かだろう。しかし今のなぜ三人娘があそこまで怯える。
 コーナーを囲んだ人たちの肩を足場に移動するその者の動きは音速を超え、普通の人間ではその姿を捉えることすら困難でしょう。
 しかし動体視力が一般人より遥かに優れているのラウラは、しっかりとそのものの姿を捉えることができた。

 「貴様は……!」
 瞳を覗かせない丸いメガネにラウラと似た小柄の体型、そしてクリップで無造作にとめたラベンター色のショートヘア。顔を合わせたのは一回だけで、ろくに会話したこともないが、やたら隆聖と親しがったことだけは印象的だった。
 だから、その人物が一旦肉コーナーから離れて自分の近くまで来た瞬間、ラウラは容易に思い出したその名を口にした。

 「ラトゥーニ・スゥボータっ!」
 「はい。何でしょう」
 ラウラに名を呼ばれて、豚肉パックを積んだカゴを携えたメガネ少女は事も無げに涼しい声で返事をした。
 今となって気づいたが、今日の彼女はいつものジャージではなく、レースやフリルのたっぷりついたゴシックロリータ風の洋服を着用していた。
 元々十分の素質を持った可愛い子だったが、ゴスロリ風なコスチュームを完璧に着こなした今では、ジャージ姿より何倍もの可愛さを放出して、このスーパーに異色な存在として降臨した。
 まあ、同性かつそういうのに無頓着なラウラからしてみれば、どうでもいいことだが。

 「バイトの帰りです。少佐」
 「あっ、アルバイトか」
 その服もバイト先の制服か何かだろうか。しかしなぜこの子は軍人でもないのに少佐と呼ぶ。
 しかし人見知りのしがない中学生のはずなのだが、さっきの動きを見る限り、ただものではなさそうだ。

 「一緒に上がった隆聖も誘いましたけど、今日はいいと言って、そのまま帰ったのですが」
 同じ幼女体型仲間だからか、ラウラ相手にラトゥーニは意外とおしゃべりだ。しかしラウラにとって、気になる点はそこではない。

 「お、同じ場所でアルバイトしているのか!?」
 「はい。私の紹介です。少佐は知らなかったんですか」
 「隆聖め……場所すら教えてくれなかったのに」
 アルバイトの話題になるとすぐ話を逸らす隆聖の顔を思い出して、ラウラは拳を握り締めた。
 嫁め。何を隠している。そもそも何の目的でまだアルバイトをしている。ブーストハンマー一個を買うくらいの金はとっくに貯まったはずだ。

 「それより買わないんですか? もう残り少ないんですよ」
 「……あっ」
 ラトゥーニに言われて、ラウラは本来の目的を思い出す。
 そうだ。今はまず肉だ。隆聖はもう帰宅の途中だし、残りの肉ももう少ない。これ以上時間のロストはまずい。
 ラトゥーニのカゴを一瞥すると、その中にはいつの間にか大根やらトマトやらも積み込まれた。
 認めたくないが、いまの自分よりラトゥーニの方が買い物スキルレベルが数段上で、音速の妖精という二つ名に相応しい実力だった。
 スーパー限定の二つ名だろうけど。本人まるで無反応だし。

 「経験の差……か」
 「経験? 違いますよ」 
 「……えっ?」
 「経験ではありません。少佐が足りないのは、必死さです」
 相変わらず淡々とした口調でそう言い、ラトゥーニはビニール袋でキュウリを詰め始めた。

 「必死さ……だと?」
 「少佐はおそらく、この時間にここで買い物をする意味が理解していません」
 「どういうことだ」
 「……砲弾も硝煙もないここが少佐はきっと、平和に見えたのでしょう。でも私たちにとってここは戦場ですよ、紛れもなく」
 僅かの間を置いて、再び口を開いた彼女の声から依然と感情を感じられないが、横から見えるメガネの奥の目は、至って真剣だった。
 隣で目に血を走らせる主婦と違って、ラトゥーニは常に無駄のない正確な動きで、ツヤのある上質なキュウリだけを詰めている。
 かなりの集中力を払っているのだろう。そしてビニール袋はまるで四次元と繋いでいるように、キュウリを無限に受け入れていく。

 「うちの家計はもともと余裕なんてありませんし、あの二人の赤ちゃんが生まれたらきっともっと厳しくなります」
 「……嬰児か」
 「はい。子供を育つって、大人よりずっと金がかかります。本屋の収入だけじゃやっていけないから、私も桜花姉さまもバイトしてますけど、それでも限度があります。ですから、私たちは一円も無駄にできません」
 ラトゥーニのビニール袋は、キュウリによって薄い膜みたいに広げられていく。まだ破る様子はないが、ラトゥーニの動きは大分慎重になってきた。

 「出費を最小限に抑えて、新鮮で上質なものを持ち帰る。ただそのためだけに、皆はここに集まって、争う。言わばこれは私たちの、生存戦略ですよ」