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IS  バニシング・トルーパー リバース 001-002

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Chapter-01 戦




 

 「……りんご、剥けたよ」
 ウサギの形のりんごを載せた皿をオーバーテーブルに置いて、中学校の制服を着ている銀髪少年がベッドの上で上半身を起こしている三十代の金髪女性に話しかけた。

 「ありがとう」
 「あっ、ちょっと待って、俺が食べさせるから動かないで」
 淡々な微笑を浮かべて、真っ白で血の色が見えない唇を動かして弱々しい声で返事をした女性は、その酷く痩せた白い手首を伸ばそうとした。それを手で制した少年は爪楊枝でりんごを刺して、女性の口元ヘ持っていく。
 白い壁に白いシーツ、そして鼻を刺激してくる消毒液の匂い。
 ここは、病院の個室。

 「うん、美味しいね。さすが」
 「いやいや、りんごの味は俺と関係ないから」
 ゆっくりとりんごを咀嚼して喉に飲み込んだ後、女性は満足そうな笑顔を見せると、少年は照れくさそうに顔を逸らした。
 「……もう一個食べるか?」

 「ありがとうね、でももういいの。残りはあなたが食べて」
 「そうか」
 刺したりんごを自分の口に放り込んで、少年は窓の外へ視線を向けて青空を上げる。
 りんごを咀嚼している顎の動きが、段々と止まっていく。

 「……あの子のこと、考えてる?」
 「えっ!?」 
 しばらくの静寂の後、女性の言葉に驚いた少年は、視線を外から女性の顔に戻す。
 女性は、申し訳なさそうな苦笑いをしていた。

 「あの子を父親のところに行かせたこと、本当は怒ってる?」
 「……いえ、仕方ないって分かってるから」
 「ごめんね、本当に。私の病気のせいで二人は……」
 「だから、理解してるって。それより今日は話したいことがある」
 爪楊枝を置いて、少年は姿勢を正して真剣な眼差しで女性を正面から見据える。

 「話? 進路のことかしら?」
 「はい。実は俺、軍に入ろうと思ってる」
 「……軍に?!」
 その単語を聞いて、穏やかだった女性の顔色が一変した。

 「どうして!? あんなに頑張ってバイトしたのは学費を溜めるためじゃないの? あっ、まさか……!!」
 保険と貯金だけで長時間にわたってこの病院の医療費を支払えるなんて、前々からおかしいに思っていた。
 「そんな……また私のせいで……!!」
 「勘違いするな。金は大事な時のために溜めたものだ。今のようにな」
 「でも……!!」
 「とにかく、今連邦軍の徴兵条件はかなりいいみたいだから、行ってみようかと。このままだと、おばさんの病気が治っても帰る家がなくなるからな。……って」

 「……ごめん。本当にごめんね、本当に……」
 「泣くなよ……女の涙に弱いんだよ俺は」
 ハンカチを出して、少年は女性の目元から零した涙を拭き取る。

 「……おばさんは俺を拾ってくれたし、学校まで行かせてくれた。これくらいの役も立たないと、罰が当るよ」
 「本当にごめんね……苦労させてしまって」
 「何言ってるんだ。家唯一の男がこれくらいしかできないなんて、俺の方が情けなくて穴があったら入りたいくらいだよ。とにかくおばさんの治療費は俺が何とかするから、早く病気を治して俺たちの家に戻ろう」
 ハンカチをポケットにしまって、少年は女性のその骨まで痩せた白くて細い手を握った。
 「……シャルも連れ戻して、さ」

 「ありがとうな、クリス」
 それが、女性からの精一杯の感謝。

 そして、クリスと呼ばれた少年が自分にとって一生の恩人との、最後の会話だった。



 新西暦187年。
 地球連邦政府によって統一されているはずの地球は、戦火に包まれていた。
 DC戦争、そしてL5戦役。
 地球圏の征服を目論む反乱勢力DC、そして人類の支配を目的に襲ってきた異星人「エアロゲイター」。
 この二つの脅威に打ち勝ったことで、地球圏の戦乱は一時的に納まった。
 そして東京宣言により異星人の存在が公表され、外宇宙の敵の存在が公知のものとなった。それに対抗するために、連邦政府は一致団結を訴え、地球圏防衛のための軍備増強計画「イージス計画」が推し進められた。
 しかし、一見穏やかに見えるこの地球圏の平和も、所詮かりそめのものでしかなかった。


 ヨーロッパ南部の夜空に、輸送機二台が鈍いエンジン音と立てながら高速に飛行している。
 それは兵士をではなく、機動兵器 PT(パーソナルトルーパー)若しくはAM(アーマードモジュール)を輸送するためのものだ。
 下にある果てしない緑色の森を横切って、輸送機は加速の勢いを止めない。

 そして輸送機の後部、オイルと汗の匂いが漂っている格納庫の中には、それぞれ二機のPTが片膝ついた姿勢で待機していた。
 ゴーグルタイプのメインカメラと耳のようなブレードアンテナをついている、やや円滑なフォームを持つ頭部、そしてスマートな全身スタイル。
 全機がカスタマイズされているため、装備や細部装甲に違いがあるが、四機とも連邦軍が採用した次世代新型量産機「量産型ヒュッケバインMK-II」だった。
 ただ一般的な量産機のアイボリー色の塗装と違い、こっちの四機はダークグレーに塗装されており、肩に戦乙女のエンブレムと機体の番号が描かれている。

 メインカメラが点滅していて機体の内部から発している低い電機音が、機体の間に走り回って、大声で指示を飛ばしている整備班スタッフによって遮られていく。
 ここには、作戦前の緊張した空気が漂っているのだ。

 「バランサー調整完了、続いてTC-OS設定開始。……新装備って、そういう所が面倒くさいよね」
 肩に「02」と書かれている量産型ヒュッケバインMK-IIのコックピットの中で、連邦軍標準仕様の白いパイロットスーツを着たアジア系の黒髪青年が独り言のように呟いた。
「文句いうな、一夏。こっちに優先して回してきたヒュッケバインだ。まだリオンとかを使っている部隊の連中に聞かれたら殴られるぞ」
 コックピットの側面モニターに、小さな通信画面が開かれた。左下に01の文字が書かれている画面の中には、黒いパイロットスーツを着た銀髪の青年が映っていた。

 飛行機に手足をつけるという発想から誕生した機動兵器群「アーマードモジュール」。リオンはこのシリーズ最初の機種にあたる。DC戦争の時は主にDC軍が使用していたが、構造が簡単で飛行機の操縦感覚と近くて、生産コストも低い理由で、今ではイスルギ重工の各工場で大量生産され、連邦軍に供給している。
 しかしリオンはその飛行機と似た構造のせいで、人型を前提として開発され人間の骨格にあたる部分“フレーム”を持つ機動兵器「パーソナルトルーパー」と比べれば、耐弾性と接近戦能力が劣っているという欠陥を持っている。
 DC戦争の時リオンはその高い空中戦能力を活かして、連邦軍が採用していた陸戦と空間戦しか考慮に入れなかった量産型ゲシュペンストMK-IIを翻弄していたものの、反重力装置“テスラ・ドライブ”の小型化技術の普及により、戦闘力の優勢が奪われつつあった。