スナーク狩り(ルクジェ)
宝石のように綺麗な緑色の目には曇り一つなく、男に対する慈愛に満ちていました。
男は少年の言葉に酷く胸が痛くなりました。心臓から発した痛みは腕まで痺れを伝わらせて、男の手からフォークを落としました。空いた手で男は自分の顔を掴むと、酷い胸の痛みに涙を零しました。
「ジェイド、どうしたの? 食べて良いんだよ?」
少年が人喰いの男の涙を拭いました。
「私にはあなたを食べることが出来ない」
「どうして?」
「私は、ルーク、あなたを愛してしまった」
言って、男はまた酷い痛みを感じました。今度は頭が割れるように痛くなりました。男は自分で忘れる程の時間を生きて、初めて人を愛する気持ちを知ってしまったのです。酷く重い感情に男は痛みを覚えました。
泣き続ける男に少年が、子どものころ男にやってもらったように頭を撫でてやりました。その時、男の頭に生えていた角がころりと取れてしまったのです。少年も、男もとてもびっくりしました。
その時、男の腹が鳴りました。
これまで感じたことの無い空腹が男を襲いました。しかし不思議と目の前の少年がかもしていた、芳醇な香りは感じなくなっていました。
再度男の腹が鳴り、少年は急いで台所に行くと、残りのケーキを取ってきて男に差し出しました。
男はそれをフォークで口に運ぶと、その美味しさに目を見開きました。人間の肉以外の食べ物の味は感じなくなっていたはずなのに、その甘さと柔らかさは確かに美味しいと思えるものでした。
「美味しい」
「きっとジェイドは人間になったんだね」
少年がとても嬉しそうに笑いました。男も一緒に笑いました。胸の中に今度は痛みとは違う幸福感が広がりました。
その時、男の手の中のフォークが雪の魔女に姿を変えました。
「ああ、つまらない。自分で呪いを解いてしまうなんて」
魔女はフォークに見を変えていたのです。魔女はそれだけ言うとすっと消えていってしまいました。
それから男は少年と人間の命が尽きるまで幸せに暮らしました。
男は確かにスナークを手に入れたのです。
作品名:スナーク狩り(ルクジェ) 作家名:蜂田はち