包容【大空組】
しばらく白蘭は姿を現さなかった。ただ彼のファミリーが敗れたと聞かないので生きてはいるのだろう。それだけで十分だ。
ある日、ユニが訪ねてきた。もちろん、γが傍に立ちユニを守るように、威圧的な態度をとっている。そしてそれに対抗するかのように、隼人もγににらみをつけていた。
そんな部下に、俺とユニは笑みをこぼす。
「お久しぶりですね、綱吉」
「うん、久しぶりだねユニ」
久しぶりに開かれたささやかなお茶会。心から安堵していられる限られた時間。
ふと、俺はユニに聞いてみたいと思った。あの白蘭と同じ、平行世界を見てきた彼女に。
「ねぇ、ユニ」
「はい、なんでしょうか?」
ユニは細い首を傾げて俺の言葉を催促する。
運が良かったのか、部下は部下同士話に花を咲かせている。
その内容がボス自慢、なのは如何と思うのだが、この際気にしない。
「白蘭が言っていたんだけど、俺がとても物好きなんだって」
「そうですね、・・・はい、綱吉はそうだと思います」
花が綻んだみたいな笑みで肯定されて、どういうことなのか聞いてみたかった。
だから、白蘭が例え話に出したことをそのまま、ユニに伝える。
ユニは静かにティーカップをソーサーに置くと、どこか困ったような顔で微笑んだ。
「白蘭がそんな風に・・・」
「うん、俺にはよくわからなくて。あ、分からない所も良いところ、とか言われた」
ユニは手を口に当ててクスクス笑う。そんな仕草さえとても可愛らしい。
「わからない・・・ねぇ綱吉」
「ん?」
ユニは少し目をうつむかせると、ポツリと言葉をこぼした。
「綱吉は気持ち悪いとは思いませんか、未来が見えてしまう子供なんて」
「・・・え?」
「平行世界を見てきた、それはつまりその人の過去、現在、未来さえ・・・見えてしまったという事に等しいと思うのです」
彼女の声はどこか寂しさをたたえていて、どういえばいいのか言葉が見つからない。
「私の周りは恵まれています。それは白蘭も同じでしょう。けれど、外の世界は違う」
異端の能力はそれだけで軽蔑され忌み嫌われる、と。ファミリーは決してボスを裏切らない。
だからユニや、白蘭の能力を非難することも恐れることもない。
けれど、ファミリー以外の、外の人間はそうではない。
「六道骸のことも・・・そうです。彼は六道輪廻を使える。人として見るには余りにもかけ離れている」
ユニの視線が完全に下を向き、膝の上で握りしめている手が震えていた。
「おじ様や私達アルコバレーノも・・・そうです・・・。
家族など・・・私たちは、人ですら・・・っ」
声を詰まらせたユニに、悲しみを押し殺して話す彼女に耐えられなくて、その小さな体を抱きしめた。
「っ」
声に詰まった音が耳に入ってきたが、どうでもよかった。震える手が背中に回されたのが分かる。
「ユニ、ありがとう」
「っ・・・!」
十歳も年の離れた少女。背負うには過酷な運命を持って生まれた子。
「おれいを・・・っ、いうのは私のほうですっ・・・!だって、綱吉がいなければっ、私も白蘭も・・・貴方が私たちを人として見てくれたからっだから・・・っ」
「うん、俺もね、君たちに救われたんだ。君たちに、心から救ってもらった」
「ふぇっ・・・」
あの時してもらった時と同じように、小さな頭を何度もなでてやる。肩口に額をつけて泣くユニの背中をあやしながら何度も何度でも。
「ありがとう、ユニ。俺のそばにいてくれて」
そのあと、泣くユニに気が付いてγが怒り狂い、俺に発砲してそれに怒った隼人が乱射したので、お茶会はそこでお開きになった。
後からユニの方で謝罪と修理費が送られてきたが、気持ちだけ貰うことにしてあとはすべて返金した。
あのお茶会から半年近くになって、漸く白蘭が姿を現した。あの時と全く同じ風体で、アポなしで勝手に人の部屋に入り浸っている姿はいつもと変わりがない。
「また勝手に・・・」
「警備が甘いんじゃない?」
マシュマロを食べながら笑っている白蘭に俺はため息をつきながら、笑っている自分がいたことに少しだけ驚いた。
「白蘭」
「ん?なぁに?」
自分の椅子に座り机に向かいながら、視線を送ることなく名前を呼ぶ。
「俺はお前を・・・いや、なんでもない」
「ん?」
一度軽くかぶりを振ると、今度はちゃんと白蘭を見て口を開いた。
「どっか上手い喫茶店でも行こうか。ユニを連れてさ」
俺の提案に、白蘭は目を真ん丸と見開いたかと思った瞬間、盛大に笑い出した。
何かそんな腹を抱えて笑うほど、おかしなことも洒落たことも言ったつもりはないのに。
「あぁ、ふふ・・・いいよー!行こうか行こう!うん、僕探しておくよ」
「お、さんきゅー」
笑いすぎて零れた涙を指先でぬぐう白蘭にそういうと、俺はまた視線を机に戻した。
今度こそ、仕事に手を付けなければあの家庭教師が乱射してくるに違いない。
「ねぇ、綱吉」
「なに?」
「・・・ありがと」
ペンを走らせたまま、俺はただ微笑んだ。