こらぼでほすと ニート17
はい、終わり、と、リジェネの身体の泡をシャワーで流す。軍人とテロリストの違いは、そこにある。キラたちは、世界を変えるために戦ったが、軍人としてだ。そこには免罪符が存在する。プラントが地球の支配権を行使しようとしたことに対する反対という正しい主張があった。だが、テロリストには、それがない。組織が命じるままに、ミッションを行うのがテロリストだ。それには主義主張なんてものはない。天上人の組織には、紛争根絶という理念があったが、それも自己主張であって、紛争を起こしている相手にとっては迷惑極まりない乱入でしかないのだ。それでも、世界が争いのないものになるのなら、と、組織に参加した人間は自分を納得させている。そのための犠牲を出して殉死するつもりでの参加だ。そんなことを考えると、かなり落ち込む。
「ママ、でも、この間は人類がリボンズの提唱する平和を否定したために戦ってた。それに、連邦もカタロンも合同で参加してたから、悪いことじゃないんじゃない? キラたちと似たような感じだと思う。」
「俺が参加してたのは、フォーリンエンジェルまでだ。その時は、ただのテロだった。」
「でも、ママたちが戦って・・・その結果としてリボンズが・・・」
必死にリジェネもニールが落ち込み思考に行かないように話しかける。たくさん殺したというなら、『吉祥富貴』の面々は、みな、同じようなものだ。テロリストか軍人かの違いだけなら、キラもテロリストのようなものだ。そんなふうに言いたいのだが、うまく纏まらない。
「はいはい、わかってるよ。生きていることも贖罪なんだって解ってる。」
あうあうとリジェネがわらわらと手を動かしているので、ニールが笑いつつ返事をする。生きている限り、その想いからは逃れられない。幸せだ、と、感じれば、どこかで胸が痛む。それこそがテロに対する罰だと、じじいーずはニールを諭した。だから、死んで楽になることは罰を回避するのと同等だと言われたら、簡単に死にたいなんて言えない。トダカだって、虎やキラだって、自分たちの部下を殺しているし敵も葬っている。その痛みは、『吉祥富貴』の誰でもが感じていることだ。でも、前を向いて進む。できることをやって、平和を導こうとしている。それに参加しているのだとも言われて、ニールも納得はしている。
ダブルオーで細胞異常は治せる。それができたら、今度こそ、きちんと組織に参加したいとは考えている。できれば、の話だが。
「ママもイノベーターになってくれたらいいのに。」
「そう言われてもな。脳量子波なんて、俺は使えないぜ? リジェネ。」
「記憶を完全にコピーできれば、イノベイドの身体にママの記憶を移し変えることは可能だと思う。少し研究してみるよ。」
「いや、それはいい。できたら、自然に・・・あ、うーん、そうか・・・それ、ライルにやってくれたほうがいいな。いや、そうすると刹那は再婚できないのか・・・やっぱ、成り行きだな。」
どうなるのかわからないから、未来を想像するのは楽しい。もしかしたら、ライルはイノベーターに変化して刹那と添い遂げてしまうかもしれない。そうすると、男女の結婚というのを刹那は体験できないわけで、ジレンマだ。
「ライル? ロックオンは、どうなんだろう。ママと遺伝子情報は近いとしたら、ママの可能性も広がるね。」
「俺はいいんだ。」
「まあ、調べてみる。」
こんなふうに、ハイネに邪魔されず情報を公開してもらい、のんびりと風呂に浸かる。刹那の人生に付き合える時間は限られている。今度は、確実に死んだとわかる方法で死ななければならないな、なんて考えて、ニールは頬を歪める。ラッセの例から考えて、ニールの残り時間は短いだろう。もう、黒猫は子供ではない。今度は、情緒不安定にならないはずだ。
リジェネは毎晩のように、ティエリアとヴェーダで一日の報告をする。リンクすれば、どちらも顔を合わせられる。
「確かに、本宅やラボへの出入り禁止は防衛手段としては当たり前だな。そういうことなら、きみも戻って来るか? 」
ニールが台風で本宅へ拉致られる話をしたら、ティエリアは、そう提案した。そういうことなら、リジェネが傍に居られないので地上に居る意味がない。
「ううん、その間はホテルにでも滞在するよ。それで、少し地上の探検もしてみようかと思う。」
「それならば、好きにすればいい。こちらもシステムを立ち上げて調整するには、少し時間がかかる。」
「ダブルオーは、どうなの? 」
「調整に手間取っているが、年末には終わる手筈だ。そろそろ、ロックオンが、そちらに降りる。だから、きみは自由行動でいい。」
「何で、今頃? 」
「最初から、そういう予定だったんだ。あの人の傍に、なるべく誰かがいるほうが安全だと思ったから。ただし、予定は二週間。ロックオンが地上を離れたら、戻ってくれ。」
「了解。結構、地上も楽しいよ、ティエリア。特区のアニメや特撮のクオリティーの高さに驚いた。」
「アニメ? ああ、そうなのか。俺は、そちらの方面は知らないな。」
「今度、お勧めを用意しておく。時間が出来たら一緒に観よう? 」
「わかった。じゃあ。」
ティエリアも今は忙しい。余暇の時間は、ほとんど体力の回復に寝ている状態だ。だから、無理強いはしない。時間だけは、たくさんあるから、いつか一緒に観ればいい。ヴェーダに、専用のストック場所を確保しておこう、と、リジェネもヴェーダで作業する。たくさんたくさんストックしておく。退屈な時間は、それを観て過ごせばいい。そんなことを考えていたが、それができるまで、本当に時間がかかった。そして、嬉しい誤算もついていたのだが、それがわかるのは一年と少し先のことだ。
予定通り、台風が特区へ向かってきたのは十日後だ。明日には、本宅へ移るとハイネが予定を告げると、リジェネもホテルに移動することにした。まだ台風は、本土には上陸していないが、影響は出始めていて、午後から雲の多い空だ。
「戻れるようになったら連絡してね? ママ。」
「ああ、すぐに連絡する。一人で大丈夫か? 」
「大丈夫。それに、ちょっと古いアニメのデータも探したいし・・・楽しんでくるつもりだよ。」
「それならいいんだ。楽しんでおいで。寂しくなったら、こっちに戻ればいい。なんなら、トダカさんとこでもいいからな。」
左手は、まだ包帯のままだ。爪が伸びきらないうちは、このまま過ごす。毎日、消毒はしなければならないので、看護サービスのあるホテルも選んだ。それでも、ママが心配してくれるのは嬉しい。気をつけて、と、頭を撫でて背中を押してくれるのは、ティエリアが感じていた温かいものと同じものだ。
「ママのほうこそ、気をつけてよ? ちゃんと漢方薬も飲んでね。絶対だよ? 」
「はいはい、わかってるよ。おまえさんまで心配性にならなくていいって。」
あははは・・・と笑って見送ってくれたママに違和感を感じなかったのは、リジェネの付き合いの短さからではない。ニールが隠すのが上手いからのことだ。
作品名:こらぼでほすと ニート17 作家名:篠義