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こらぼでほすと ニート17

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 コトンと悟空の前に、スパゲティナポリタンの大きな皿を置いて、ニールがぼやく。それにも、悟空は的確にツッコミだ。忘れがちだが、『吉祥富貴』の面々は、タイプの違うイケメンばかりの集団だ。繁華街で、人待ち顔で立っていれば、女性からナンパされちゃうくらいの面子ばかりだから、そういうことが可能だ。特に、ママは女性受けのする顔立ちだし物腰も柔らかいから、確実に女性が釣れるはずだ。
「そこまでする努力は面倒なんだよなあ。」
 もちろん、ニールだって自分が、そういうタイプであることも理解している。以前は、確かに、そうやって一夜の相手を調達していたからだ。
「面倒って口説くのが? 」
「口説いた後。」
「はあ? ママ、それ、枯れてるって言わないか? 」
「枯れてるんだろうな。三蔵さんと、のんびりしてるのが一番楽なんだよ。終わってるだろ? 」
「うん、終わってる。それだから、ラクスと一緒に寝てられるんだろうけどさ。」
「俺、アイシャさんとマリューさんとも何もせずに寝られる自信があるぜ? 悟空。」
「それ、自慢になってない。いいけどさ。とりあえず、お代わり。」
「あいよ。」
 山盛りのスパゲティを会話の間にもりもりと食べてしまうと、空になった皿を持ち上げる。一皿では足りない。お代わりも、また山盛りのスパゲティだが、おまけに焼き豚がついている。肉が足りないとボリュームが出ないからだ。
「あんた、それで終わりですからね。」
「じゃあ、ウーロン茶。焼き豚もくれ。」
 サワー割りの焼酎を飲み干した亭主の晩酌を止める。これ以上に飲ませると、店に着いたら、即口説き魔モードに変貌してしまうからだ。焼き豚を運んできて、一切れを持ち上げるとテレビに齧りついているリジェネの口に運ぶ。ぱくっとかぶりついて、あむあむと食べつつテレビから視線は外さないが、にこーっと美味しい顔をするので、ニールは、それで満足する。こういう仕草が可愛いらしい。
「あんた、何人の子持ちなんだ? 三蔵さん。」
「うちは、サルだけだ。あっちが多いんだよ。」
 それを眺めつつ、坊主とハイネは漫才を再開する。やはり子猫というのは年少組より、ニールの体調を安定させるものらしい。




「イノベイドの身体寿命は、何もしなくても三百年くらい。細胞の老化を遺伝子段階で抑えているから可能なんだ。イノベーターも、そんな感じ。まだ刹那だけだから、実際は、どのくらい延びるか定かじゃないけど。外宇宙へ進出して戻ってこられるだけの時間は確保できる身体なんだ。もちろん、地球で受け取る側も同じように長命でないと意味が無いから。」
「え? 刹那って、そんなに長生きできるのか? 」
「うん、今は理論上の話だけど、僕らと似たものだと思う。もちろん、致死の怪我をしたら、そこで終わりなのは一緒。ただし、僕らはヴェーダに本体を戻して素体を取り替えれば、問題じゃない。」
「イノベーターになるには、GN粒子を浴びるとか、そういうもので変わるのか? 」
「そうじゃなくて、因子を持ってる人が変わるんだ。脳量子波を使える人間は、因子があるから可能性は高い。でも、因子は持っていても変わらない人間もいる。その辺りは、僕らにも予測はつかない。」
「今のところは、刹那だけがイノベーターなんだな? 」
「今の連邦に、一人いるらしい。詳しいことも知りたい? 」
「いや、そこまではいい。・・・はい、目を瞑れ。お湯かけるぞ。」
 ハイネも、さすがに風呂までは監視していない。だから、聞きたいことは、そこで尋ねている。少しずつ、刹那のことも解ったし、周辺の状況も理解できた。今のところは、穏やかな平和であるらしい。左手をビニール袋で、すっぽりと覆っているので身体を洗ったり髪を洗ったりが、一人だと不自由だから、リジェネの風呂にニールが付き合っている。
「三百年か・・・すげぇーな。」
「だからね、僕らはイノベーターが増えるまで、代理をするために定期的に生産されている。ヴェーダが情報を得るために目として、世界中に配置されている。目として配置されているイノベイドは人間タイプだから、寿命も人間並みだし、自覚のないのも多い。自分は人間だと思っているんだ。ただし、子供は産めないという欠点はある。」
「刹那は? 」
「刹那は、イノベーターだから子供を作ることは可能。でも、嫁が男だから、そういう意味じゃ無理。」
 背中を洗いつつ、ニールが質問することにリジェネが答える。ニールの身体のことは聞かれても、実際がわからないから答えられないと、リジェネも断るようになった。精神的に脆いところを見てしまったから、これはマズイとおもったからだ。なるべく刺激的な情報は与えない。ティエリアから、その範囲も事細かに説明してもらった。
「じゃあ、人類って、いつかイノベーターばかりになるのか? 」
「どうなんだろう? 自然淘汰の対象にはならないけど、これが進化だとしたら、そうなるのかな。でも、かなり先の話になるよ? 」
「て、ことはだな。ライルがじいさんになって死んでから、新しい恋人ができたら、刹那の子供が拝めるかもしれないんだな。」
「ママ、一体、何十年先の話をしてるのさ。」
 その頃には、ニールもいない。そう思うと、人間と付き合うのは悲しいものだと、リジェネも思う。実は、そんなことはないのだけど。
「いや、いつか、紛争のない世界ができたら、刹那も、そんなことを考えてくれるのかなって。普通の家庭生活みたいなものをして欲しいんだ。奥さんが居て子供がいて、幸せだと何気なく感じられる生活をさ。戦うだけじゃない生き方をして欲しいって願ってる。」
「ママは、どうなの? 今は幸せ? 旦那がいて、子供もいるよね? ママが考える幸せには該当してる。」
「・・・・幸せなんだろうな。申し訳ないと思うくらいに。」
 しみじみとした口調でニールは言いながら、リジェネの腕を洗っている。確かに、現状はニールが知っている幸せな家庭という環境だ。だが、気持ち的には、ちょっと後ろめたいから、申し訳ないとは思う。
「どうして申し訳ないの? 」
「・・・・マイスターになる前も、マイスターだった時も、俺は大量に人を殺してるからさ。その上にあるものだから、申し訳ないと思う。世界から贖罪を求められたら、それには応えるつもりだったけど、そうはならないみたいだし・・・でも、勝手に死ぬのは逃げになるからできないし・・・生きてて幸せだっていうのがな。」
 紛争を根絶するために、軍人だけではない、民間人にも被害は出しているし、軍事施設やら基地も壊している。それらは、世界から紛争を根絶する目的のための犠牲だった。犠牲になった人間にも、同じように幸せである権利はあったはずだ。それに、ニールは金を稼ぐための人殺しもしていた。それらを踏まえた上で考えると、申し訳ないとしか言えない。
「どうして幸せじゃいけないの? いいじゃない。」
「そういう性分なんだよ、俺は。」