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【かいねこ】桜守 前編

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「桜守」




「カイト!お店!」

つないでいた手を振り解かれそうになって、慌てて繋ぎなおす。

「危ないですよ。ちゃんと手を繋いでいる約束でしょう?」

俺の言葉に、薫お嬢様はぷーっと頬を膨らます。

「お父様もカイトも、子供扱いして!私、もう十二よ?」
「まだまだ手の掛かるお年です」

笑いながら答えると、ますます膨れっ面で睨まれた。
主人の梅木からは、くれぐれも手を離さぬようにと、きつく言い渡されている。遅くに授かった一人娘ともなれば、心配の種は尽きないのだろう。
お嬢様の五歳の誕生日に、旦那様は人形の俺を買い求められた。それ以来、俺はお嬢様のお側に仕えている。

「お嬢様をお守りするのが、私の役目です」
「分かってる!でも、今日はいいでしょう?今日は、桜を見るのが目的」

お嬢様が、うっとりと桜並木を見上げる。
薄紅色の花はまだ咲き始めたばかりだが、道の両端には屋台も出て、大層な賑わいを見せていた。そぞろ歩く人々も、洋装和装取り合わせ、桜に負けない華やかさを見せている。
すぐ側を、白い日傘を差したご婦人が通り過ぎ、お嬢様は視線を向けてから、

「ねえ、あのドレス、お母様の雑誌に載ってたのと同じね。写真よりずっと綺麗だわ」

こそこそと俺に耳打ちしてきた。
幼くても女、身を装うことに関心があるのだなと感じながら、

「お嬢様の方が、可愛らしいですよ」
「もう!また子供扱いして!」

ぷいっと横を向いてしまうが、満更でもない様子が伺えて、笑いをかみ殺す。
今日のお嬢様は、新しく仕立てたブラウスとスカートが、ことのほか気に入ったらしい。旦那様は、まだ洋装に抵抗を感じているようだが。

『幼い娘が肌を出すなど、はしたないと思わないのか』

そう言って嘆いていたが、奥様とお嬢様の強い希望とあって、最後は旦那様が折れた形だ。


時代の流れには、逆らえないのだな。


そんなことを考えながら、お嬢様の手を引いて桜の下を歩く。賑やかな人混みの中、ふっと目の端に映った影に意識を奪われた。
桜に負けない鮮やかな髪色が、人波に紛れて消える。恐らく、俺と同じ人形だろう。背格好から、幼い娘のようだと見当をつけた。

「カイト、どうしたの?」
「え?あっ・・・・・・いえ、何でもありません」

お嬢様の声に、俺は肩を竦めてその光景を追いやる。
人形など、特に珍しくもない。ただ、その髪色が目を引いただけ。


俺の役目は、薫お嬢様をお守りすること。他のことは考えるな。


そう自分に言い聞かせ、お嬢様の手を握りなおした。


作品名:【かいねこ】桜守 前編 作家名:シャオ