【かいねこ】桜守 前編
桜並木の終わりに、一際大きな桜の老木がある。早咲きのそれは一足先に満開となっており、その見事な枝振りに人々は足を止め、口々に誉めそやしていた。
「見て、カイト!とても綺麗ね!」
「ええ、本当に見事な」
言葉が、そこで途切れた。
見上げた先には、満開の桜と、異形の化け物。
この老木は、自分達の物であると主張するかのように、何体もが枝に止まり、こちらを見下ろしていた。
一瞬にして、時が止まる。
物音一つ聞こえず、そよ風さえ吹かず、まるで、この世の全てが息を潜めているかのようだった。
「グ・・・・・・ガアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「きゃああああああああああああああああああ!!」
化け物の雄叫びと、群衆からの悲鳴が重なる。
悲鳴と怒号を上げながら逃げまどう人々の中で、俺は声も出せず、足も動かず、ただ化け物を見上げていた。
化け物が一斉に枝を蹴り、空中に躍り上がった瞬間、お嬢様が俺の手を振り払う。
「お嬢様!?」
「嫌あああああああ!!」
慌てて顔を向けた俺の目の前で、お嬢様の背中に化け物の爪が振り降ろされた。今朝、あれほどはしゃいで身につけたその服が、鋭い爪で切り裂かれ、鮮血に染まる。
「お嬢様!!」
駆け寄ろうとした瞬間、こめかみに激しい衝撃を受けて、そのまま吹き飛ばされた。地面に叩きつけられ、砂埃に視界を奪われる。
「ごほっ!くっ!」
必死に目を開けると、化け物と俺の間に、鮮やかな髪色の少女が立ちふさがった。
「俺はいい!お嬢様を」
連れて逃げてくれと言い終わらぬうちに、視界が闇に染まる。
お嬢様・・・・・・!
そのまま意識が遠のき、何一つ分からなくなった。
作品名:【かいねこ】桜守 前編 作家名:シャオ