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【かいねこ】桜守 前編

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まるで永遠にたどり着かないのではないかと錯覚するほどだったが、何とか屋敷の玄関に転がり込む。驚いて出てきた柿野さんに、急いで藤林様を呼んでくれと頼んだ。

「何事だ」

書斎から出てきた藤林様は、俺と笹井様をじろりと睨んで、

「二階に運んで寝かせておけ。直ぐに行く」

そう言って、書斎に戻っていく。
柿野さんが近づいてきて、笹井様の体に手を掛けた。

「ほら、こっちは支えておくからね。ゆっくり上がるんだよ」
「すみません」

二人で、出来るだけ静かに階段を上る。
笹井様の部屋に運んで、寝台に横たえた。

「あたしはお湯を沸かしてくるからね、あんたは旦那様を手伝いな」
「ありがとうございます」

柿野さんが出ていった後、少しして藤林様が入ってくる。横たわる笹井様を無言で一瞥すると、手を伸ばして襟元をまさぐった。

「やはりな」

そう言って、首に掛けられていた鎖を引っ張り出す。その先には、深紅の石がはめ込まれた精巧な細工物があった。

「魔石だ。分かるか?」
「あ、えっ」
「これは魔道具といって、術を使う時の補助となる。魔力を高め、術による反動を緩和する為の物だ。どうやら、私の部屋から持ち出したらしい」
「笹井様が?ですが」
「別に構わん。鍵をかけて仕舞い込んでいた訳でもなし。これがなければ、笹井は死んでいただろうからな」

さらっと口にされた言葉に、思わず黙り込む。


俺の無謀な振る舞いのせいで、この方まで失うところだったのか。


「他にも幾つか持ち出しているようだが、それは目覚めたらにしよう。とりあえず、寝間着に着替えさせてやれ」
「はい」
「案ずるな。体力が回復すれば、自然と目を覚ます」

藤林様の言葉に、俺は無言で頷くしかなかった。



(続く)
作品名:【かいねこ】桜守 前編 作家名:シャオ