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【かいねこ】桜守 後編

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藤林様から、「後はすることがない」と言われ、俺は笹井様の部屋を辞す。ふらりと庭に出ると、ぽつぽつと雨が降ってきた。


いろはは大丈夫だろうか。
妖魔を追って、雨に濡れなければいいが。


徐々に雨足が強くなってきて、滴が肌を伝う。


屋敷に戻らなければ。今、俺が故障でもしたら、余計な負担を掛けてしまう。


分かっていても、足が動かなかった。
いっそ、あの時壊れてしまえば良かったのだと考えていたら、不意に傘を差し掛けられる。
振り向けば、いろはが精一杯腕を伸ばして、傘を支えていた。

「いろは」
「すまない。私の背が高ければ、お前は濡れずに済むのにな」
「そんなことまで」

謝る必要はないと言い掛けた俺を、首を振って遮り、

「お前のせいではない。責めるなら私を責めろ。お前の主人まで巻き込んでしまったこと、言い訳のしようもない」
「・・・・・・・・・・・・」

俺は、見上げてくるいろはの視線を避けるように、顔を背ける。

「・・・・・・妖魔が憎い。だが、それ以上に、非力な自分が憎いのだ」


薫お嬢様も、笹井様も、いろはも。


「妖魔は、俺から大切な人達を奪っていく。それなのに、俺は誰のことも守れない」
「これ以上、奪わせないから!」

いろはの強い口調に、はっとして振り向いた。

「これ以上、誰も奪わせない。皆のこともお前のことも、私が守る。だから、自分を責めないでくれ」

今にも泣き出しそうな顔のいろはに、彼女がどれほどの重荷を負っているのか、今更思い当たる。
腕を伸ばし、雨に打たれる細い体を抱き締めた。

「それなら、お前だけは奪われないでくれ。俺の側にいてくれ」
「・・・・・・分かった。約束する。だから、お前も無茶なことはしないでくれ」

いろはの言葉に、俺はただ頷くことしか出来なかった。



作品名:【かいねこ】桜守 後編 作家名:シャオ