二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

それから

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
 全メンバーのリミッター解除の命令を、ウルビダが声を荒げて言った。
 その瞬間、脳みそが凍りつくような錯覚を覚えた。リミッターを解除すれば、瞬間的だが大幅に身体能力を向上させることができる。
 だがそれは一時的なもので、長時間リミッターを解除したままでいるのは危険を孕んでいた。
 身体能力を向上させるということはその分体に負荷をかけていることになる。それが長時間続くと筋肉が悲鳴をあげ、いずれ動けなくなる。最悪再起不能になる可能性も出てくる。
 それでも俺たちは動き続けた。お父様の為に、ジェネシスに敗北は許されないのだ。たとえ肉体が壊れても構わない、俺たちは一心不乱にサッカーボールを追い続けた。
 体への反響はすぐにやってきた。体中が軋むように痛い。肺が絞られているようで上手く呼吸ができない。これでサッカーをするなんて、とてもではないが無理な話だ。
 俺は思わずすぐ後ろにいるゾーハンに顔を向けた。彼もそれこそマスクで顔の半分を覆ってはいいるが、苦痛な表情を浮かべているのは一目瞭然だった。
 俺とゾーハンの視線がぶつかると、不意に頭の中でブツンと太い紐が千切れた音がした。その直後、すぐに視界がブラックアウトしていった。
 意識の外でゾーハンが何か叫んでいる声を聞きながら。

***

 次に目が覚めた時に見たものは見知らぬ天井だった。上体を起こそうと体に力を入れた途端激痛が走り、それすらもできないでいた。

「ズ……」

 すぐ側に聞き慣れた声を聞き、すぐさま首だけを声のする方向に向けた。
 そこには見なれたマスクをした巨体が、小さなイスに腰掛けていた。

「ゾーハン……?」

 かろうじて出たその声はかすれていて上手く言葉にできなかった。それでもゾーハンの名前を呼んだのは聞きとれたらしい、ゾーハンは慌てて側にあったミネラルウォーターの入ったペットボトルを持ってきた。
 痛みで自力で起き上がれない俺の背に太い腕をそっと回し、ゆっくり起き上がらせた。そして持っていたペットボトルを俺の口元にまで運ぶ。俺はそのまま一口水を含んで飲み込んだ。
 意識が無くなってからどれくらい経っていたのだろうか、ずいぶん長い間水分を摂取していなかったようだ。飲ませてくれた水が乾ききった砂漠に染み込むような感覚で体内へ滑り込んでいった。

「ズズ……?」

 ゾーハンが心配そうな俺の顔を覗き込んできた。

「大丈夫。ありがとう」

 そう一言告げると先ほどまでの心配そうな顔は多少安堵のものに変わっていたが、まだ完全には安心していないようだった。

「ここは病院だよね?もしかして俺、倒れてそれっきりだったりする……?」

 周りを見回してみたが白で統一された部屋はどう見ても病室だった。自分の格好は病院側で用意された寝巻き。俺の言葉を聞いてゾーハンはこくりと頷いた。

「……負けたのかい?」

 その言葉に対してもゾーハンはこくりと頷いた。それを確認すると俺は手を顔にあてて俯いた。
 俺たちが今まで積み上げていったものが雷門によって全て崩されてしまった。無心で鍛えたこの体も、サッカーの技術も今では不要になってしまった。
 今ここにあるのは途方もない喪失感と体の異常な痛みだけだ。俺は思わずため息をついた。

「ズ、ズズ」

 ゾーハンの言った言葉を頭の中で瞬時に翻訳すると、思わず涙がこぼれそうになった。

『でも、コーマが無事でよかった』

 彼はとても優しい。いつも俺を最優先にしてくれる。それはお日さま園時代からの幼馴染ということもあるし、彼の言葉を何故か俺だけが理解できるということもある。
 いかつい外見とは裏腹に彼は優しく、繊細だ。他人の痛みをまるで自分のように受け止め、誰よりも親身になってくれる。
 俺はそんなゾーハンに、いつからか淡い恋心を抱くようになっていた。
 気がつくと涙がどっと目から溢れ出て、頬を伝っていた。ゾーハンがまた慌てて白いハンカチを取り出し、俺の涙を拭いてくれた。

作品名:それから 作家名:杉本 侑紀