それから
目覚めてから数時間が経った。体の痛みは相変わらずだったが、体調は目覚めたばかりのときと比べれば断然いい。
最初に水を飲ませてくれた以降もゾーハンが甲斐甲斐しく世話をしてくれた。なにか食べたいものはないか?暇なら小説を持ってこようか?相変わらずのズズ……言葉が絶えず発せられてなんだかおかしかった。
そうこうしていると夕食の時間がきた。俺は目が覚めたばかりだからすぐに重たいものは食べられないらしい。目の前には粥とおひたしという簡素なものがトレーに載せられ運ばれて来た。
それでも正直食欲が沸かなかった。スプーンを手にしたものの、いっこうに口につけない俺に気付いたゾーハンはまた不安そうな顔を向けてきた。
少しでも食べないと。そうお決まりのセリフを俺に言い聞かせてきたがやはり食欲は沸かない。とうとうスプーンもトレーに置いてしまった。
その様子を見たゾーハンは一つ大きなため息をついた。鉄製のマスクを通した息はこもった音を立てて吐き出される。
「ズズ、ズズズ」
『コーマが倒れた時、慌てて抱き上げたんだ。その時の君の体がすごく軽かった』
「なんだか食べる気がしないんだ。前々からそうだったけど」
「ズズズ、ズズ、ズ」
『ウェイト調整も大事だけど、君に触った時、あばら骨が分かった。それってちょっとやりすぎだ』
「心配してくれてるの?」
言うとゾーハンが側に寄ってきた。自然と手が伸びてマスクで覆われていない部分の肌に触れた。ゾーハンの目はとても穏やかで優しさに満ちていた。
彼はいつも俺を心配してくれている。それが嬉しくて、同時に自分の中に独占欲がこみ上げてくる。
「ゾーハン、あのね。ずっと側に居て欲しいんだ」
するとゾーハンは一瞬小さな目を見開いた。しばらく考えるそぶりを見せるとこくりと頷いた。