零崎空識の人間パーティー 7-12話
<第七話 零崎内容>
「仕事ねえー」
空識は封筒を手に取り中身をのぞいた。
「CD-ROMですかー?」
「それ以外になにに見えるんだよ」
そう軽く突っ込みながら、哀川潤は一枚のメモを空識に手渡した。
「あたしには、これからけっこう大きな仕事が有るもんでな。《無陽無陰(ゼロスカイ)》それをそこに書いてある住所のやつに渡してもらいたい。というより渡せ。渡さしてやる」
「もうあなたの自分勝手ぶりに言うことはないんですがー……。これは京都の住所ですよねー。 誰に渡せばいいんですかー?」
その問いに哀川潤は、軽く本当に軽く極めて普通に答えた。
「玖渚友(くなぎさとも)だ」
「へえー、玖渚友さんねえー。………ってあの、玖渚ーー!? マジで玖渚機関の直系血族ーですかーー!?!」
空識が驚きのあまり机に乗り出してしまったが、
「ああ、そうだ」
と、哀川潤はその反応を予想していたようで、当たり前のことのように普通に答えた。
玖渚機関がなにかの説明をするためには、先に三つの世界について説明しておかないといけない。
『殺し名』上から順に、序列一位の『匂宮(におうのみや)』、序列二位の『闇口(やみぐち)』、序列三位の『零崎』、序列四位の『薄野(すすきの)』、序列五位の『墓森(はかもり)』、序列六位の『天吹(てんぶき)』、序列七位の『石凪(いしなぎ)』。 そして序列三位の『零崎』を抜いた『殺し名』六家に対応する『呪い名(まじないな)』序列一位の『時宮(ときのみや)』、序列二位の『罪口(つみぐち)』、序列三位の『奇野(きの)』、序列四位の『拭森(ぬくもり)』、序列五位の『死吹(しぶき)』、序列六位の『咎凪(とがなぎ)』の合わせて十三家の犇めく暴力の世界。
赤神(あかがみ)家、謂神(いいがみ)家、氏神(うじがみ)家、絵鏡(えかがみ)家、檻神(おりがみ)家の五家の統べる財力の世界。
そして、壱外(いちがい)、弐栞(にしおり)、参榊(さんざか)、肆屍(しかばね)、伍砦(ごとりで)、陸枷(ろくがせ)、捌限(はちきり)の七家を束ねる玖渚機関が君臨する権力の世界。
その玖渚機関の直系血族は、もう実在が疑われるほどの人間群なのである。
「まあ、よく考えればー、哀川さんだったら玖渚機関の直系血族と知り合いでもおかしくないですねー」
納得したように空識は座りなおした。
「物わかりが速いのはうれしい、が」そこで言葉をきり、哀川潤は空識を睨みつけた。
「あたしのことを名字で呼ぶなって何度言ったらわかるんだ。 ぁあ?」
「あなたはヤンキーですかー……?」
と空識が軽くぼやくと哀川潤の睨みの力がさらに増した。
(この人だったら視線で相手を殺せるなー……。というよりこれ以上癇に障ることを言ったら、物理的に殺されそうだなー。)
と思いながら渡されたメモをよく見てみると、なぜか二つ分の住所が書かれていた。
「潤さんー。こっちのはたぶん玖渚さんの住所だと思うですけど、こっちの住所はなんですかー?」
「それはいーたんのアパートだ」
「『いーたん』さんー? ってなんですか?」
そう聞くと、哀川潤さんは何か困ったような顔をして言い淀んだ。ちなみに哀川潤が言い淀むのはけっこう珍しいことである。
「あいつは、あたしにもよくわかんないんだよなー。いうとしたら、『戯言遣い(ざれごとつかい)』かな?」
「『戯言遣い』ですかー……。よくわかんないですー」
「まっ、『百聞は一見に如かず』、そいつに合っておいた方が玖渚ちんに合いやすくなるからな。 合っておけ」
(はー、なんというか相変わらずこの人は自分勝手だなー。)
と心の中でため息をつきながらも空識は出発するために立ち上がった。
「それじゃ、京都まではここからすこし遠いしー、オレもう行きますねー。 それと鍵はしめなくてもいいですからー」
「うっ? そうか、じゃ、いってらっしゃい」
空識はドアを開けた時、振りかえらず哀川潤に聞いた。
「俺に玖渚機関の直系血族のことを教えてよかったんですかー? 俺がそのことを悪用するかもしれないのにー」
その空識の問いに哀川潤は、何の迷いもなく、何のためらいもなく、何の躊躇もなく、何も恥ずかしがることなく、何も遠慮することなく、何も臆することなく、笑いながら、呆れながら、すこし悲しみながら、当たり前のことをこたえるように、はっきりときっぱりと答えた。
「なに聞いてんだよおまえは。あたしは《無陽無陰(ゼロスカイ)》 あんたのことを信用してんだぜ」
<第八話 零崎開合>
《人類最強》こと哀川潤と『殺し名』序列三位の『零崎一族』から勘当された殺人鬼、零崎空識がなぜ知り合ったかを語るのには、涙なしでは決してすまない、愛と喜びとにみちた喜劇と暴力と悲しみとが蠢く悲劇が織り交ざった原稿用紙二百枚ほどの話が必要。
のわけでは全くなく。
というより、焦らすことさえ意味がないような偶然で構成された薄っぺらい話があるだけである。
空識はマンガがかなり好きである。
そして読んだ漫画の感想をインターネットの掲示板で書くことが日課であった。
……『殺人鬼が何やってんだよ』などの突っ込みは受け付けません。
そして、ある日、空識は、同じ掲示板に書き込んでいる人と気が合い、リアルで会うことになった。
それで、待ち合わせ場所で待っていて現れたのが、《人類最強》で漫画好きの哀川潤だったということである。 相手があの哀川潤だと分かった後の空識と哀川潤の二人のやり取りは第六話のやり取りと似たり寄ったりなので説明しないが、とにかく空識は自分が『零崎』ということだけは明かさず、自分がプロのプレイヤーであることなどを明かした。 『零崎』は『殺し名』の中でも忌み嫌われているので、空識はそのことがばれたらやばいと考えたからである。
まあ《人類最強》の哀川潤のことだから分かっているのに知らないフリをしているだけかもしれないが……。
とにかくそのため、空識はハンドルネームの《無陽無陰(ゼロスカイ)》と呼ばれているのだ。
それから空識は、元々気が合ったので会うことになったこともあり万能家としての請負人である哀川潤の仕事を手伝わせられたり、代わりに仕事をやらされていたのだ。
(さすがに代わりに仕事をやるのはいけないでしょうー。)
と、ある日、空識が思い聞くと、哀川潤は、
「ダスト・ザ・ダスト……つまりは『適材適所』ってことだよ」
とだけ答えた。
最初は意味が分からなかったが、少し考えてみると意味が分かり納得できた。
《人類最強の請負人》でありながら、実は哀川潤は意外にも任務達成率が低いのである。 それはなぜかというと哀川潤が有名すぎるからである、つまりは《人類最強の請負人》の哀川潤が相手だと分かると敵は逃げてしまい、任務達成、失敗の問題ではなく任務自体が起こらなくなるのである。
そこで、無名のプレイヤーである空識だったら敵が逃げないので任務を遂行できるというわけなのである。
ということで空識はたまに哀川潤の仕事を手伝ったり、代わりにやったりしているのだ。
<第九話 零崎訪問>
「信頼ねー……」
「仕事ねえー」
空識は封筒を手に取り中身をのぞいた。
「CD-ROMですかー?」
「それ以外になにに見えるんだよ」
そう軽く突っ込みながら、哀川潤は一枚のメモを空識に手渡した。
「あたしには、これからけっこう大きな仕事が有るもんでな。《無陽無陰(ゼロスカイ)》それをそこに書いてある住所のやつに渡してもらいたい。というより渡せ。渡さしてやる」
「もうあなたの自分勝手ぶりに言うことはないんですがー……。これは京都の住所ですよねー。 誰に渡せばいいんですかー?」
その問いに哀川潤は、軽く本当に軽く極めて普通に答えた。
「玖渚友(くなぎさとも)だ」
「へえー、玖渚友さんねえー。………ってあの、玖渚ーー!? マジで玖渚機関の直系血族ーですかーー!?!」
空識が驚きのあまり机に乗り出してしまったが、
「ああ、そうだ」
と、哀川潤はその反応を予想していたようで、当たり前のことのように普通に答えた。
玖渚機関がなにかの説明をするためには、先に三つの世界について説明しておかないといけない。
『殺し名』上から順に、序列一位の『匂宮(におうのみや)』、序列二位の『闇口(やみぐち)』、序列三位の『零崎』、序列四位の『薄野(すすきの)』、序列五位の『墓森(はかもり)』、序列六位の『天吹(てんぶき)』、序列七位の『石凪(いしなぎ)』。 そして序列三位の『零崎』を抜いた『殺し名』六家に対応する『呪い名(まじないな)』序列一位の『時宮(ときのみや)』、序列二位の『罪口(つみぐち)』、序列三位の『奇野(きの)』、序列四位の『拭森(ぬくもり)』、序列五位の『死吹(しぶき)』、序列六位の『咎凪(とがなぎ)』の合わせて十三家の犇めく暴力の世界。
赤神(あかがみ)家、謂神(いいがみ)家、氏神(うじがみ)家、絵鏡(えかがみ)家、檻神(おりがみ)家の五家の統べる財力の世界。
そして、壱外(いちがい)、弐栞(にしおり)、参榊(さんざか)、肆屍(しかばね)、伍砦(ごとりで)、陸枷(ろくがせ)、捌限(はちきり)の七家を束ねる玖渚機関が君臨する権力の世界。
その玖渚機関の直系血族は、もう実在が疑われるほどの人間群なのである。
「まあ、よく考えればー、哀川さんだったら玖渚機関の直系血族と知り合いでもおかしくないですねー」
納得したように空識は座りなおした。
「物わかりが速いのはうれしい、が」そこで言葉をきり、哀川潤は空識を睨みつけた。
「あたしのことを名字で呼ぶなって何度言ったらわかるんだ。 ぁあ?」
「あなたはヤンキーですかー……?」
と空識が軽くぼやくと哀川潤の睨みの力がさらに増した。
(この人だったら視線で相手を殺せるなー……。というよりこれ以上癇に障ることを言ったら、物理的に殺されそうだなー。)
と思いながら渡されたメモをよく見てみると、なぜか二つ分の住所が書かれていた。
「潤さんー。こっちのはたぶん玖渚さんの住所だと思うですけど、こっちの住所はなんですかー?」
「それはいーたんのアパートだ」
「『いーたん』さんー? ってなんですか?」
そう聞くと、哀川潤さんは何か困ったような顔をして言い淀んだ。ちなみに哀川潤が言い淀むのはけっこう珍しいことである。
「あいつは、あたしにもよくわかんないんだよなー。いうとしたら、『戯言遣い(ざれごとつかい)』かな?」
「『戯言遣い』ですかー……。よくわかんないですー」
「まっ、『百聞は一見に如かず』、そいつに合っておいた方が玖渚ちんに合いやすくなるからな。 合っておけ」
(はー、なんというか相変わらずこの人は自分勝手だなー。)
と心の中でため息をつきながらも空識は出発するために立ち上がった。
「それじゃ、京都まではここからすこし遠いしー、オレもう行きますねー。 それと鍵はしめなくてもいいですからー」
「うっ? そうか、じゃ、いってらっしゃい」
空識はドアを開けた時、振りかえらず哀川潤に聞いた。
「俺に玖渚機関の直系血族のことを教えてよかったんですかー? 俺がそのことを悪用するかもしれないのにー」
その空識の問いに哀川潤は、何の迷いもなく、何のためらいもなく、何の躊躇もなく、何も恥ずかしがることなく、何も遠慮することなく、何も臆することなく、笑いながら、呆れながら、すこし悲しみながら、当たり前のことをこたえるように、はっきりときっぱりと答えた。
「なに聞いてんだよおまえは。あたしは《無陽無陰(ゼロスカイ)》 あんたのことを信用してんだぜ」
<第八話 零崎開合>
《人類最強》こと哀川潤と『殺し名』序列三位の『零崎一族』から勘当された殺人鬼、零崎空識がなぜ知り合ったかを語るのには、涙なしでは決してすまない、愛と喜びとにみちた喜劇と暴力と悲しみとが蠢く悲劇が織り交ざった原稿用紙二百枚ほどの話が必要。
のわけでは全くなく。
というより、焦らすことさえ意味がないような偶然で構成された薄っぺらい話があるだけである。
空識はマンガがかなり好きである。
そして読んだ漫画の感想をインターネットの掲示板で書くことが日課であった。
……『殺人鬼が何やってんだよ』などの突っ込みは受け付けません。
そして、ある日、空識は、同じ掲示板に書き込んでいる人と気が合い、リアルで会うことになった。
それで、待ち合わせ場所で待っていて現れたのが、《人類最強》で漫画好きの哀川潤だったということである。 相手があの哀川潤だと分かった後の空識と哀川潤の二人のやり取りは第六話のやり取りと似たり寄ったりなので説明しないが、とにかく空識は自分が『零崎』ということだけは明かさず、自分がプロのプレイヤーであることなどを明かした。 『零崎』は『殺し名』の中でも忌み嫌われているので、空識はそのことがばれたらやばいと考えたからである。
まあ《人類最強》の哀川潤のことだから分かっているのに知らないフリをしているだけかもしれないが……。
とにかくそのため、空識はハンドルネームの《無陽無陰(ゼロスカイ)》と呼ばれているのだ。
それから空識は、元々気が合ったので会うことになったこともあり万能家としての請負人である哀川潤の仕事を手伝わせられたり、代わりに仕事をやらされていたのだ。
(さすがに代わりに仕事をやるのはいけないでしょうー。)
と、ある日、空識が思い聞くと、哀川潤は、
「ダスト・ザ・ダスト……つまりは『適材適所』ってことだよ」
とだけ答えた。
最初は意味が分からなかったが、少し考えてみると意味が分かり納得できた。
《人類最強の請負人》でありながら、実は哀川潤は意外にも任務達成率が低いのである。 それはなぜかというと哀川潤が有名すぎるからである、つまりは《人類最強の請負人》の哀川潤が相手だと分かると敵は逃げてしまい、任務達成、失敗の問題ではなく任務自体が起こらなくなるのである。
そこで、無名のプレイヤーである空識だったら敵が逃げないので任務を遂行できるというわけなのである。
ということで空識はたまに哀川潤の仕事を手伝ったり、代わりにやったりしているのだ。
<第九話 零崎訪問>
「信頼ねー……」
作品名:零崎空識の人間パーティー 7-12話 作家名:okurairi