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Keep a silence 1

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(………これ、やばくない?)
(やばいな)
(どす黒いオーラ出てますねぇ)
(笑ってるけどものすごい凶悪な顔してるね)
(一之瀬さんめっちゃ怖いっス!)
(風丸さんが危ないですよぉ)
周囲の懸念をよそに、沈黙のままあくまで微笑を浮かべた一之瀬が立ち上がって風丸らに近づいた。
「……風丸? ちょっと飲みすぎなんじゃない?」
「い、一之瀬」
「ん? ………ふふ、そっか。うん。でもね、一之瀬。俺ちょっと醒めてきてるんだよ。これでも」
「……………」
そうは言うが風丸は未だに泥酔状態だった。頭が冴えてきてる感覚が醒めてきてると感じるのだろう。つまりは、わかっててやったのだ。
「さっき土門とキスしたから妬いたんだろ? でも、そんな事しなくてもいいんだよ。一之瀬」
「……?」
「一之瀬も俺とキスすればいいよ。そうすればおあいこ。後は土門を煮るなり焼くなり嬲るすればいい」
「嬲るって……」
「……面白い事考えるんだね、風丸」
朗らかに笑いながら言うと一之瀬は風丸の二の腕に手を置いて口付けた。また周囲は騒然となった。何せ風丸が無差別に捕まえたのではなく、一之瀬が自ら風丸と唇をあわせたからだった。周りの人間は何が起こってるかさっぱりついていけなかった。
「………さて、と。次は誰がいいかなっ」
風丸は一之瀬との接吻など無かったかのようにケロリと満面の笑みで、周囲を見渡した。もはやハンティングのような感覚でいるようだ。
またも部屋に緊張が走った。異様な空気になっているのを察して店員もこちらを気にしてきている。騒がしくなるのが予測できたので、店に迷惑をかけないよう団体用個室を予約したのは誰でもない風丸自身だった。
「中々面白い光景だが、そろそろ止めた方が良さそうだな。円堂起こすか? ……っておい、豪炎寺……」
思い切りオーディエンスとして楽しんでる鬼道はそろそろ潮時に思った。だが豪炎寺などは蚊帳の外だと言わんばかりに一人で煙草を吹かしていた。
「ん? ……ああ、スマン。……円堂はムリだ。酔っ払って潰れたら二度と起きないのは知ってるだろ? それに………」
「何だ」
「風丸がああなるのは、円堂が眠ってしまった時だけだ」
「何?」
「俺が止めてくる」
「あっおい、出来るのか?」
返事もせずに豪炎寺は風丸の元に歩みよっていった。
(ご、豪炎寺さん……)
(豪炎寺? どうするつもりだろ)
じりじりと他のメンバーに近づいていた風丸を、後ろから肩に掴んで止めた。
「……………豪炎寺?」
「そろそろ、やめにしないか」
「……いやだよ」
「そういう意味じゃない」
「…………いやなんだ、どうしても」
「風丸、っ」
豪炎寺がそのまま何を言うつもりだったのかは、結局わからなかった。風丸が自分のそれでふさいだからだった。豪炎寺は抵抗も拒否もせず寧ろ、身体を預けてきた風丸の身体を支えて、腰に手を置いた。それはどう前向きに解釈しても、
(うわぁ……)
(ひゃあああ……)
(あいつら何でいちゃついてんのさ)
(何考えてんだよ!)
(これまた熱いな)
という感想しか周りからは出なかった。
しかも随分と時間がかかった。風丸は目を閉じ、長身の豪炎寺との身長差を埋める為に足を伸ばしてその行為に専念したし、豪炎寺も目を細めて風丸の何かを見るように探っていた。要するに思い切り二人だけの世界を作っている。
周りのメンバーからは気の遠くなるような時間をかけてやっと唇が離された。すると風丸はまたふふっと笑って豪炎寺を見上げた。
「………いつもと同じ味」
「……………」
すると風丸は急にがくんと豪炎寺の肩に頭を落とした。周りの者は当初風丸が豪炎寺に抱きついたのかと思ったのだが、風丸は頭を垂れたまま微動だにしなかった。
「………………寝た」
豪炎寺の一言と共に風丸の寝息がはっきりと聞き取れるようになった。
相変わらず状況についていけない他メンバーは皆が皆、言葉を発すタイミングを逃して目を丸くしていた。



2に続きます。
作品名:Keep a silence 1 作家名:アンクウ