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ベン・トー~if story~ vol.1

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4部 抗争、そして・・・


佐藤が戻ってきてからしばらく経った。俺は放課後になると部室へと足を運ぶのが日課になっていた。別に部員ではないのだが、先輩に会いたい一心で通い詰めている。

ここ何日かは俺も先輩に着いていって先輩の戦いぶりを見ることが多くなった。相変わらず強い。また見惚れてしまっていた。佐藤も佐藤で猟犬群の所から戻ってきてからは段々と強くなり始めていた。白粉も何やらコツを掴んだのか弁当を手にする機会が多くなっていた。

そんな日々を過ごすうち、いつからか他校の女子が居座るようになっていた。
「佐藤ー、バーチャやろう」
「今日もかよ。まぁ、いいけどさ」
奢莪あやめ。佐藤の従兄弟らしい。イタリア人とのハーフだそうで、けっこう可愛い。
半額弁当争奪戦にも参加してるらしく、『湖の麗人』なんて二つ名を持っているそうだ。
しかし学区が違うのに、よくまあ毎日のように来るなぁと俺は思っていた。
佐藤と格ゲーしてるのを何度か見たが、何か凄く強い。俺は佐藤と対戦したことがあり、佐藤もそれなりに強いことを知っているが、それ以上だった。俺じゃあ勝てる訳もないので誘われてもいつも断っている。
「先輩、やってみませんか?」
「ふむ…やってみるか」
少し考えた後、先輩はそう言ってテレビの前に座る。コントローラを持ち、お互いキャラを選択、試合開始。
すぐに決着は着いた。佐藤が初心者であろう先輩をほぼ手加減無しで滅多うちにしてしまった。奢莪に負けた腹いせか?
「……」
「佐藤、このゲーム機はいくらするんだ?」
先輩が静かに訊く。
「え?えっと中古で数千円くらいです」
「そうか。……」
沈黙。そして先輩はふとゲーム機を持つ。と、何を思ったかゲーム機を窓から投げ捨てた!
「のおぉぉぉぉぉっ!?」
飛んだ。跳んだ。窓から佐藤が跳んだ。そしてゲーム機を抱え、そのまま落下していく。
「せ、先輩…やりすぎじゃ…」
「いや、あとから弁償するつもりだったぞ?」
いやそういう問題じゃないでしょ!そう心でツッコミをかまし、とりあえず救急車を手配してもらうことにした。

結局佐藤は救急車で病院に搬送された。奇跡的に骨折などの外傷が無く、打撲程度で済んでいた。あいつ、すげぇな。

数日後、佐藤は普通に学校に戻ってきていた。
その日の帰り、また訪れていた奢莪に俺は呼び止められた。
「話って何だよ?」
「藤島、アンタさ。氷結の魔女のこと、どう思ってる?」
「どうって…」
「アンタ部室にいる間、魔女のことばっかり見てる。違うかい?」
「そ、それは…」
「好きなんだろ?魔女のこと」
「……だったら何だよ?」
「アンタには先に教えとこうかと思ってさ。近いうちに西区と東区で大きな戦いが起こる」
「それって、半額弁当争奪戦か?だったら俺には関係ないぞ。部員じゃないしな」
「東区の大物に、魔女が狙われてるって言ってもかい?」
「え…?」
「狙われてるんだよ、魔女は。モナークって奴から」
「どうしてだよ?」
「氷結の魔女を倒して、自分が最強だって認めさせたいんじゃないかな。オオカバマダラみたいにさ」
「……それで、いつなんだ?」
「少なく見積もってあと1週間ってとこ」
「……」
「多分、これを知った魔女は一人でモナークと戦おうとすると思うよ。モナークは危険だ。佐藤じゃ足手まといになるかもしれないしね」
「先輩は知ってるのか?」
「まだ知らないと思うよ。もっとも、近いうちにモナークが魔女を東区に呼び込むみたいだからそこで知るかもしれないけどさ」
「そうか…」
「これを知った上でどうするかは藤島、アンタ次第だ。それじゃ、私は行くよ。またね」
「あぁ、じゃあな」
先輩が狙われてる、か。先輩は強いから、それも無理もないな。モナーク…そんなに危険なら、先輩を一人で行かせる訳には…。
全然纏まらない思考のまま、俺は家に帰った。

数日後、事件は起こった。
佐藤がモナークにやられた。先輩達がその日行ったスーパーにモナークが現れて、佐藤をボコボコにしたらしい。
事情を知った先輩は、西区の狼達を集めて西区を守るように伝えて一人東区へ向かったらしい。らしい、というのは西区の狼から聞いた話だからだ。奢莪の言った通りだった。先輩はたった一人でモナークを倒すつもりだ。どんな卑怯な手を使うこともいとわない(と聞いた)モナークを相手に一人で立ち向かうことを先輩は決めたのだ。
俺は無意識に駆け出していた。事前に先輩が向かうスーパーは聞いてあったので、すんなりそこへ向かうことが出来た。

スーパーへ入る。
「先輩!!」
「藤島…どうしてお前がここに…?」
きっとここへ来る途中で何かされたのだろう。ボロボロになって血まで流している先輩とモナークの間に、俺は割って入る。
「何だてめぇは?これから氷結の魔女と戦うんだ。邪魔すんじゃねぇよ」
「うるさい、黙れ」
「あぁ?」
「恥ずかしくないのか。女の子一人に、こんな卑怯な手まで使って勝とうとして」
「いきなり出てきて何を言い出すかと思えば…。だいたい、てめぇと氷結の魔女に何の関係があるってんだ?まさか、何の関係もねえ赤の他人のためにこんな偽善ぶった真似をしてんじゃねぇよなぁ?」
胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる。
「関係ならあるさ。俺は先輩に憧れてる。強くて、綺麗で、いつもはクールに見えるけど…それでいてさみしがりで可愛いとこもあって…そんな先輩が、俺は好きなんだ!!」
「藤、島…」
「俺は、好きな女の子を守りたい。そのために、俺は今ここにいるんだ!」
「けっ、くだらねぇ。寝てろ。その間にお前が大好きな先輩は俺が見る影もねぇくらいボコボコにしておいてやるからよ」
モナークの拳が持ち上がる。
「やめろ、モナーク!藤島は本当に何も関係ない!」
「知るかよ」
「っ…!」
「モナーク!!」
スーパーに新たに入ってきた二つの人影。その突然の闖入者の蹴りがモナークの胴にヒットする。不意を突かれたモナークはバランスを崩し、俺を放す。
見ると、佐藤と奢莪だった。
「佐藤、奢莪…」
「麗人…お前、裏切る気か?」
「あぁ。もうお前にはうんざりだよ、モナーク」
「この間はしてやられたけど、今日は負けない!」
「佐藤、麗人…助かったぞ」
「先輩、いきましょう!」
「藤島、休んでな。後は私たちがやる」
「……いや、俺も戦う。こいつは頭に来た」
「大丈夫なのか?」
「タイマンなら、喧嘩ぐらいしたことはある。何とかなるさ」
「なら、フォローするよ」
そして戦いが始まった。俺は何度か攻撃を喰らいながらも何とかモナークの下っ端達を倒していった。奢莪や佐藤のフォローがなければ厳しかった。先輩はといえば、モナークを相手に圧倒していた。

そして…。

西区の勝利によってこの抗争に決着が着いた。

その帰り道。奢莪が気を利かせてくれたのか、佐藤を半ば強引にどこかへ連れて行ってしまった。先輩と二人きりになる。
「先輩…」
「ん?」
「あー、えっと…さっきの、聞いてましたよね?」
「さっきの?……あぁ、あれか」
「は、はい。そうです」
「ふふ、何だったかな?」
「え…?い、いや…その…お、俺が先輩のこと……」
「私を?」
「す…す、好きだってことです…」
「あぁ、そうだったな」
作品名:ベン・トー~if story~ vol.1 作家名:Dakuto