ベン・トー~if story~ vol.2
8部 夏休み
7月31日。
遂に烏田高校は夏休みを目前に迎えた。今日は終業式だった。
「事故や怪我なく、充実した夏休みを過ごせよ。じゃあ、解散!登校日忘れるなよ」
ホームルームが終わると、皆のテンションが一気に高まった。夏休み、到来。当たり前に誰しもテンションが上がる。俺だってそうだった。
「藤島。お前、夏休みは結局どうすんだ?」
藤澤がやってきた。
「夏休みか?そうだな…槍水先輩とどこか行こうとは考えてる」
「そうか。ほんと、彼女持ちは羨ましいぜ。ま、何かあったら声かけろよ」
「ああ」
こうして俺達は別れた。
「藤島君」
「倉敷…どうした?」
「夏休み…予定とか、ある?」
「ん?いや、今のところは特に」
「そっか…。じゃあ、皆でどこか行かない?藤澤君と他の子も誘ってさ」
「そうだな、良いかもしれないな」
「じゃ、後で連絡するね!」
「わかった」
こうして倉敷とも別れ、俺は部室へ向かう。
「ちはー」
俺が部室に入ると、先輩は何かを見ていた。
「先輩、何見てるんですか?」
「ん?ああ、藤島か。これだ」
先輩はチラシを俺に手渡す。
「これは…?あ、夏祭りの…」
「そうだ」
「一緒に行きましょうか」
「それはもちろんだ」
夏祭りということは先輩の浴衣姿を見られる!そう思いながらチラシを読んでみる。すると、下の方に…
当夏祭り限定半額弁当『サマフェス弁当』争奪戦!集え、飢えた獣達よ!!
と書いてあった。
「何でこんなことが…」
「スポンサーの中に元・狼がいたらしくてな。喧嘩と何とかは祭りの華だ!ということで、半額弁当争奪戦をするという意見を押し通し、自分で費用を賄って夏祭り限定の弁当を作製したらしい」
「凄いですね、その人。色んな意味で…。それで先輩は、これに出たいと?」
「ん…まあ、な」
「はは、やっぱりですか。だと思いましたよ」
「済まないな、いつもいつも」
「いいですよ。俺は戦ってる先輩を見るのも好きですし」
「藤島…」
「先輩…」
見つめ合う俺と先輩。あれ、いい感じなんじゃ…?少しずつ、俺と先輩の顔が近付く。
「あのー…」
「「ッ!?」」
俺と先輩は慌てて顔を逸らす。見れば佐藤と白粉が来ていた。
「…いつから見てた?」
佐藤に聞く。
「戦ってる先輩を~…辺りから」
よりによって一番恥ずかしい辺りじゃないか、くそ。
「お熱いですねー、お二人とも」
白粉がニヤケつつ言ってくる。
「か、からかうな。白粉」
頬を染めつつ先輩が言う。
「からかってなんかいませんよ~?」
「それで藤島。何の話をしてたんだ?」
そんなやり取りを尻目に、佐藤が俺に訊いてくる。
「夏祭り限定半額弁当争奪戦の話だ」
「そうだったのか」
「お前も参加するのか?」
「もちろん。参加しない訳ないだろ」
「そうか、だよな」
大方の予想通りだった。
「藤島、今日はお前はどうするんだ?」
白粉にからかわれていた先輩が俺に訊いてくる。
「んー、今日はいいです」
「そうか…」
入部してこそいないが、俺もあの一件以来、半額弁当争奪戦に参加するようになった。と言っても滅多には参加しない。
「藤島も、中々強いからな。参加しないのは勿体無いぞ?」
「だな。今のとこ、最初とその少し後くらいしか負けてないだろ」
「って言われても、まだ五回しか参加してないからなぁ…」
「それでも初心者で五回中三回勝ててるっていうのは凄いと思うぞ」
佐藤がそう言う。俺は先輩を見る。
「佐藤の言う通りだな。それに私もそう思うぞ」
「あ、ありがとうございます」
そしてその日は普段通り先輩達は半額弁当争奪戦に参加し、俺は先輩と一緒にスーパーへ向かって半額弁当争奪戦を見学していた。先輩は今日も絶好調で華麗に弁当を獲っていた。
その後、弁当を先輩達が食べ終えるまで待ってから俺は先輩と下校する。
「あの、先輩」
「何だ?」
「夏祭りなんですけど…半額弁当争奪戦に参加するとしたら…浴衣、来てこれないですよね?」
「浴衣か…。そうだな、動きづらくなってしまう」
「…ですよね」
わかってはいたが残念だった。
「私の我が儘ばかりでいつも本当に済まない…」
「い、いえ!そんな気にしないでください。先輩が勝つ事の方が大事ですから!」
「藤島。本当に、お前は…」
と、不意に俺は先輩にギュッと抱き締められる。
「せ、先輩…!?」
「ありがとう…」
どぎまぎする俺を抱き締めながら先輩はそう言った。
「と、とりあえず一旦離れてくださ…」
「ふふ…嫌か?」
「いや、決してそんなことは…!ただ、人が来るかもと思うと恥ずかしいというかなんというか…」
もう自分で何言ってるかわからなくなってきた。
「私だって、ドキドキしてるんだぞ?」
「え…?」
「こんなことを自分から他人にするのは初めてだからな」
そう語る先輩の鼓動が伝わって来る気がした。いや、俺の心臓の鼓動かもしれないが。
「先輩…」
俺も自然と抱き返していた。もしかして誰かが見ていたかも知れないのに。そんなのが関係無くなるほど満たされた気持ちで一杯だった。
それから離れて手を繋ぎ、俺は先輩を送ってから家路についた。
家に帰って携帯を見るとメールが一通届いていた。倉敷からだった。
メールの内容は昼に言っていた皆で遊びに行く事についてだった。お盆前くらいか。
続いて先輩にメールする。お盆はどうするのかと訊いてみた。返って来たメールによれば、お盆少し前から実家に帰省するとのことだった。
どうしたのかと聞かれて、実は友達から泊まりがけで旅行に誘われたと答えておいた。それと先輩に、俺達も二人でどこか行きませんかと送っておいた。
次に、藤澤にメールを送る。倉敷から何人か誘っておいてと頼まれたからだ。と言っても男が俺一人じゃ流石に居づらい。という訳で藤澤だ。
返って来たメールには、もちろん行くぜ!と書かれていた。やっぱ女子と遊びたいんだな、あいつ。
さて、さしあたって旅行に必要なのはお金か。……バイトするか。先輩との旅行も、もしかしたらあるしな。
俺はネットで短期で高額なバイトを探した。
結果…建設現場のバイトが一番高額だった。日給8万…それがえーと、5日間か。ってことは、40万か!キツいけど、それだけあれば…!
俺は早速応募した。思えばこれが、地獄の5日間の始まりだった。
バイト初日。
「おい、何チンタラやってんだ!早くしろ!」
「す、すいません!」
初日は怒られてばかりだった。当然だ。今まで土方なんてやったことがない。資材運びが主な仕事だった。が、それでもこんなにキツいとは…!
作業が終了する頃にはヘトヘトだった。
二日目。
今日もまた怒られた。社長さんはまだ慣れてないから仕方ないよと言ってくれた。でも、申し訳ない気持ちの方が強かった。
三日目。
流石に慣れが出始めてきた。だいぶスムーズに仕事をこなせるようになってきた。最初は怖かった先輩方ともようやく打ち解けられた。
四日目。
かなりキツくなってきた。社長さんや先輩も心配して声をかけてくれる。でも、途中で辞めるなんて情けないことは出来なかった。
最終日。
作品名:ベン・トー~if story~ vol.2 作家名:Dakuto