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気まぐれ天使の異世界記録 2

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2話 少年時代 1週目


 ―――夢を見た。


 とても古い、絶望の始まりの日の夢だった。

 自分の名前も碌に書けないような幼い頃の夢だった。

 母親と一緒に風呂に入っていた時に急に頭から垂れる水が真っ黒になった。

 シャンプーを洗い流すと髪に黒い部分は無く全て真っ白だった。

 その時は湿った髪が太陽の光を浴びてうっすらと蒼く反射していて綺麗になったと喜んでいた。しかし何故か母親は驚いていた。

 その後すぐに病院にいった。何故か母親は泣いていた。

 1ヶ月程幼稚園に行かなかった。何故か父親が行かせてくれなかった。

 何故なんだろう?そう思い"僕"は両親に言っていた。



 ―――ねー、どうしてあそばせてくれないの?はやくみんなとあそびたいよ。



 それでも両親は中々頷いてくれなかったが最後には渋々頷いてくれた。

 当時のオレは明日には皆と遊べることに喜んでいた。何故か両親は渋い表情のままだった。


 だが現実はとても非情だった。

 幼稚園に行くと誰もが"僕"を見て驚いていた。



 ―――あー、わかったー。きれーなかみだろー。あはは。



 幼稚園の中でも一際仲の良かった友達に純白の髪を見せ付けた。しかし何故か気味の悪い表情を浮かべられた。

 初めて誰かに害意を見せられた時間だった。



 時が進む。


 卒園の時、もう既にオレの周りには人がいなかった。

 両親は泣きながら卒園式に出た。"僕"の顔には何の感情も映してしなかった。


 更に時が進む。


 始まりは小学校低学年の頃だった。

 クラスの誰かの教科書が無くなったという事があった。


 その子の教科書が何故かオレの机の中に入っていた。

 オレはその子に教科書を渡そうとしたらその子がオレの手に持っているのは僕の教科書だといきなり言ってきた。


 その後先生はオレを職員室に呼び出した。


 ―――違う!僕じゃない、僕はただ渡そうとしただけです!


 しかし先生は何一つ分かってくれなかった。

 "僕"がいくら言ってもお前がやったんだろ、いい加減正直に話せ面倒臭いの一辺張りだった。


 次の日には下駄箱の靴が無くなっていた。先生に靴が無くなったと言っても自業自得だ、と返された。



 その日からそういういじめが続いた。

 勿論、両親が何度も学校に訴えてくれた。


 しかし、数週間もすれば再びいじめは再開していた。



 ある日、リビングで両親が話しているのをオレは見ていた。

 父親は有名な医者で、母親は薬学界に大きな影響を出した論文を発表した天才だった。

 そんな両親が仕事について話しているみたいだったが子供のオレには内容が分からなかった。


 夢の中の時間が進み、オレの状況は全く変わっていなかった。



 ―――そして両親が捕まった。

 罪状は違法で送られた赤ん坊を使った人体実験だった。


 実験内容は色素欠乏症についての発生とその治し方だった。


 明らかにオレの為に行われた実験だった。


 そしてオレは本当の意味で孤独(ひとり)になった。

 もう家にも外にも学校にも味方は居なくなった。



 そしてオレは―――――。





  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 目が覚めると真っ白で綺麗な知らない天井だった。

「はい?」

 え?何この状況。オレこんな天井心当たりありませんが。

 辺りを見回す。天井どころか壁まで白い。茶色にくずんだ色やボロボロではない。
 ベッドは綺麗に洗ってあって清潔に保たれている。ボロボロに穴の開いた布切れに硬いコンクリートではない。
 医療器具の管がオレの腕に刺して液体を流し込んでいる。所謂、点滴という物だ。
 服は淡い青緑色の、所謂病院服という服だ。

 結論、此処は病院である。

 問題は誰が、何故という点だ。

 ……。あ、もしかして廃屋に誰か来たとか?オレ血塗れのまま寝ちゃったし何も知らない人が見たら死んでいるようにしか見えなかっただろう。これなら納得出来る。

 扉のある方でガララと音が聞こえる。


「あら、起きました?」


 その扉の方に目を向けると看護婦の人がこっちを見て微笑んでいる。


「今お医者さん呼んでくるからちょっと待っててね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 そう言って看護婦の人は恐らく主治医の人を呼ぶために去っていった。


 そういえばオレ、今どんな夢見てたっけ―――?


 ―――ズキリと頭が痛くなった、気がした。





  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 今、オレは幾つか質問を受けていた。


「こんにちは、体調は大丈夫かい?」

「あ、こんにちは。体調は特に問題無いです」


 オレの目の前には男性の医者と先程の看護婦の人と、オレを追っていた警察官だった。


「そうかそうか、それは良かったよ。ところでこの指は何本に見える?」

「2本ですが……それが何か?」

「いやぁ、君は車に轢かれたらしいから脳に障害が出ていないか確認しただけだよ。自分では平気なつもりでも大丈夫ではないケースなんてよくある事だからね。本当に大丈夫みたいだね」


 なんていうか…凄いフランクな人だけど医者として大丈夫なんだろうか…。


「はぁ……。あの、一つ良いですか?」

「うん?何ですか?」

「オ…私は何故此処にいるんですか?」


 単刀直入にずっと気になっていた事をオレは聞いた。


「気づいていないのかな?さっきも言ったように此方のお巡りさんが君を此処まで連れてきたんだよ」

「あ、そうなんですか。ありがとうございました」

「いやいや、当然の事をしただけだよ」


 警察官は顔を横に振る。どうやら予想は間違っていたようだった。別にもうどっちでもいいけど。
 そして医者の人がコホンと咳をする。


「それで、幾つか質問しても良いかな?」

「あ、はい。お願いします」

「じゃあ、まず君の名前を教えてくれるかな?」


 看護婦の人が紙とペンを渡してくる。オレはそれに『砂野 莢』と書いて渡す。


「ふむ……。すなの…さや君で合っているかな?」

「はい。それで合ってます」

「では莢君。君はどうしてあそこにいたのかな?」

「あそこ…というのはあの廃屋という意味でいいですか?」


 警察官が頷く。さて、なんて答えようか……。


「帰る家が無いからです」

「…ご家族はどうしているのかな?」

「……家族はもういません」

「……そうか。質問に答えてくれてありがとう。辛い事聞いて申し訳なかった」

「い、いえ!別にいいですから頭を上げてください」


 警察官が頭を下げてくる。こんなに真摯な人だと逆にこっちが申し訳なくなる。


「それでは莢君。帰る所が無いなら今日から暫く入院扱いだけど別に良いかい?」

「はい、よろしくお願いします。…あ!でも私お金持っt」


 一時でもまともな所に住めるならこの気を逃すまい、と思いそこまで言ってからグーーッっと音が聞こえる。音源はオレの腹から。