温度
「……おはよう、紀田君」
聞こえてきたのは、どこか気恥ずかしげなものだった。
昨日しっかりと抱き締めていた存在がまだ腕の中にいるという現実に、胸がじわりと熱くなってしまう。
だから、俺はくすぐったくて笑うんだ。
「なんで、くっついてるの……」
「なんとなく」
顔を覗き込んでにっと笑みを作った俺に、帝人が戸惑う。
まあ、そうだろう。
それが普通の反応。
でも、嫌がる素振りも腕をほどかれる気配もない。
だから。
「もうちょっとだけ、こうしてたい」
真っ黒な髪に頬を寄せる。
「寝ぼけてるんだね、まったく」
しょうがないから、もうちょっとだけだよ。
なんて、小さくなった声が少しだけ熱を持っている気がして、抱きしめる腕にほんの僅かに力を込めた。
ずっと傍にいたい。
帝人の傍にいると安心するんだ。
「二度寝しようぜ、帝人」
「ちょ、紀田君!?」
このぬくもりを手放したくなくて、さっきよりも強く抱きしめていった。