狐甲伝
プロローグ
暗い、暗い森の中。
影は走る。
その影を追う複数の陰も森の木々の合間を掻い潜って影に 迫る。
影は月の光の如く輝く霞になった。
一瞬の輝きに目を塞がれ、後を追っていた陰達は苦渋の顔 をして焦る。
「おい!居たか!?」
「いや・・・、だがまだそんな遠くへは行ってない筈だ」
「あの餓鬼!!門衛をまんまと出し抜きやがって見つけた らタダじゃすまさねえ!!」
憎悪に塗れた般若(はんにゃ)の顔をした陰達は執拗(しつよう)に森の中を飛び回 り影を探す。
そして、森を少し抜けたところにある葦の
長い草原の茂み に隠れていた影は、息を切らしながらも陰達に見つからな い内にと素早く両手で印を組み言を発っす。
「はっ・・・っはぁ・、・・っ・・秘伝:擬態忍法”虫変 化”」
橙色の斑点模様のついた緑の翅(はね)の蝶に転じた影は、ふわり と一度低空飛行するとそのまま上空の闇へと消えて行った 。