狐甲伝
第一話
火の国の北西の果て、滝隠れの里との国境近くの町の一角 を孫と祖父程の歳の差をした二人組は歩いていた。
「なあなあエロ仙人、折角町にこれたんだから宿とろーー てばよっ」
「だまっとれいっ、わしらは観光しにきとるわけじゃない んだぞっ。忍びなら忍びらしく野宿!町による度宿を取っ とったら旅費が底をつくわい」
「既にほぼ底をついてるってばよ、エロ仙人の’女遊び’の せいで」
「ぎくっ」
「’女遊び’のせいで」
「二度も言うでないっ、第一あれは取材だといつも言って おろう!!」
「鼻の下だらだら伸ばしながら金貢ぐのが?」
「聴こえの悪い言い方をするなっっ第一わしがいつ鼻の下 を伸ばしていたっつうんじゃ!!」
「いつも」
「真顔で即答するな!!」
50代ほどの白髪の長髪を結った男は、隣を歩く金髪の少年 の挑発に大人気無く噛みつく。町を練り歩きながら会話を しているので、白髪の男の大声に擦れ違う通行人は皆眉を 顰(しか)めたり、嘲笑(ちょうしょう)したりといった反応をとっている。
「く~~~~っ、もうお前なぞ知らん!!わし師匠なのに !!伝説の三忍なのに!!」
「いい年したおっさんが拗(す)ねんなってばよ全然かわいくね え!」
頬を膨らませそっぽを向いた男に、少年は思いっきり顔を 顰め、首から下げたカエル型の財布を服から取り出しなが ら男の足を蹴った。
「痛~~~!!、って何するんじゃいこのクソガキが!!」
突然の痛みに男は目をかっ開いて叫ぶ。直ぐ様隣の少年の 頭に拳骨を落とそうとしたが、少年はそれをそのまま避け 2、3歩男から離れる。
「俺、ちょっと金稼いでくる。エロ仙人は町ん中で宿探し といてくれってば」
一瞬きょとんとした表情をした男は、先ほどの怒り様が嘘 の様に小芝居臭い哀愁を漂わせながら己の顎を右手の親指 と人差し指で擦りながら小言を漏らす。
「また賭博(とばく)で稼ぐ気か?13・4のガキンチョが不健全に 育ちおって、わしは悲しいのう」
「誰のせいだってばよ、エロ仙人印税で金ある癖に旅費ケ チりまくりやがって。おまけに町による度にキャバクラで 金使いやがるから俺が稼がねーと必要物資も買えねえんだ ぞ」
「別にケチっとるつもりはないがな。それに食料の自給自 足、野宿慣れは忍びとしての最低ラインでの修行じゃぞ」
「んなもん解ってるってば。ただ、服とかは調達しねぇと 修行ですぐボロ切れになるんだぞ。それともなにか?服も 自給自足して腰蓑(こしみの)一丁で生活しろと?」 「ガキの・・・・それも男の腰蓑姿など誰が見たがるかボ ケ、どこぞの変態カマ蛇男と一緒にするでない」
「いや、流石の大蛇丸もそこまで変態な嗜好(しこう)は持ってねぇ だろ・・、変態には違いないけど。ってゆ~かっ!あ~っ !!も~~っ!!エロ仙人とこんなだらだら喧嘩してたら 陽が暮れんだろーがっ!!もう俺行くからな!!」
あまりにもぐだぐだと続くやり取りに、痺れを切らした少 年は半ば自棄になりながら話を中断して両手で素早く印を 結んだ。
「変化!!」
ボフンッという音と共に少年は煙に包まれ、少ししてその 煙が引いてゆくと少年の姿はなく、中からは24・5程の 精悍(せいかん)な顔つきの青年が出てきた。
そしてそのまま青年は足に力を入れ店の屋根に飛び乗ると 、屋根伝いにひゅんひゅんと飛んで行く。
一人町中の往来に取り残された男は、青年の後ろ姿を見な がら今度は真実の哀愁を漂わせ、心の中で一人ごちる。
(本当にミナトとクシナにそっくりじゃのう・・・・・。 生まれながらに因果に縛られ、そのせいでずっと周囲の悪 意に晒されてきたというのに、いい子に育ってくれおった 。なあ、ミナト・・・お前の息子・・・・”ナルト”は立派 に育っておるぞ。)
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