狐甲伝
・・・---ナ---・・・ト---
・・ナル------・・・
「ナルト!!起きんかナルト!!」
「ぎゃあああああぁ!!」
誰かに必死に呼ばれ、肩を揺す振られている感覚がすると 思ったら目の前に自来也の顔。
ナルトの思考と視界は一気に覚醒し、上半身を起こし渾身 の叫びと共に思い切り後ろへと後ずさる。
「人の顔をみて”ぎゃあ”とはなんじゃ!!”ぎゃあ”とは!!」
「いや・・・ごめんってば、起き抜けにエロ仙人のドアッ プが映ったからビビっただけだってばよ」
「失礼な奴じゃのぅ・・・・、来るのが遅いから探しに来 てやったというのに」
「え、マジで?」
「おまえな・・・、路地裏で青い顔しながら気絶しとる弟 子を見付けた時は寿命が縮むかと思ったぞ」
呆れながらもその顔には心配の色が濃く映っている。疲弊 (ひへい)した様子から相当ナルトを心配してくれていたようだ。
「・・・・心配かけてゴメン」
「かまわん、それよりももう大丈夫なのか?」
「あーー・・・うん、たぶん」
微妙な顔をしながらナルトは自身の封印式が描かれている 腹に片手をやる。
「なんじゃ、歯切れ悪いのぅ」
「いや・・・俺も今回みたいな呼び出され方初めてだった から。またないとも限らないし・・・」
呼ばれただの何だのと急に言われても話の確信を省かれて 説明されれば通常の人ならば何を言っているんだと言って くる事だろう。
しかし、ナルトの呼ばれたという言葉と腹に手をやった動 作で何があったのかを大体察した自来也は己の顎に右手を やり難しい顔をする。
「”彼奴(やつ)”か・・・」
「なんか”近くに同胞の気配がしたから呼んだ”つってた」
「”同胞”!?近くに他の尾獣が居るのか・・・っ!?」
目を見開き驚愕 (きょうがく)を浮かべた表情をする自来也。
「でか狐がそう言ってたってば・・」
「そうか・・・」
ナルトの言葉を聞き、自来也はより一層眉間に皺を寄せ気 難しい顔をしながら腕を組んで唸る。
「一度、木ノ葉に連絡をした方が良いかの・・」
「・・・すんの?なんか俺、話したらそのまま木の葉から 出れなくなりそうな気がぷんぷんすんだけど」
「こればかりは仕方あるまい。何かあってからじゃ遅い、 上にはわしから話をつけるから我慢してくれ」
自来也はナルトの頭をくしゃくしゃと撫でながら宥めすか す、ナルトも自来也が自分を気にかけてくれているのを理 解しているので 不貞腐(ふてくさ)れながらも渋々頭を縦に振る。 ナルトはあまり木ノ葉が好きではない、嫌いとまではいか ないが謂れのない差別を小さい頃から受けてきた。 それでも嫌いにならないのはひとえにナルト自身を見て愛 情を懸けてくれた恩師や、周りに感化されずにナルトを受 け入れてくれた仲間達の存在が大きい。 目の前の自来也も、厳しく修行をつけながらも自分を本当 の孫の様に可愛がってくれている。だからあまり気が進ま なくとも無碍(むげ)に断る事はできない。
「すまんの・・、ナルト」
「わかってるから大丈夫だってば」
申し訳なさそうに表情に影を落とした自来也に、ナルトは 苦笑いで返した。
「ところで、ここ何処?」
「おまえの・・・・・今更か」
ふと、辺りを見回すと宿の一室の様な造りの部屋だ。もし かしたら自来也が取りに行っていた宿泊先の宿なのかもし れない。 ナルトがキョロキョロと部屋を見回していると、自来也は 呆れながら此処までの事を話してくれた。
「おまえが路地裏で倒れているのを見つけた後、直ぐに宿 に運んで今まで介抱しておったんじゃ、流石にあんな所に 何時までも寝かせとくわけにもいかなかったからの。しか し骨が折れたわい、二人も抱えて走らされたからな」
「え、二人?」
きょとんとした表情をしたナルトに自来也は付け加えて説 明をしてくれた。
「おまえに寄り添うかの様に隣で倒れておったんじゃよ、 無視も出来んから一緒に連れて来た」
「そうなんだ・・」
「傷が中々酷くての、今医者を呼んで診てもらっておる」
そういうと自来也は自らの顎で壁を指す、隣の部屋に居るらしい。
「その人、・・大丈夫なのか?」
「致命傷は避けておったから大事にはならんだろう、昏睡(こんすい)しとるのは心的疲労が一番の原因だそうだ」
「心的疲労で昏睡って・・・、あまり大丈夫そうじゃない ってば」
「今は安静にさせてやるしかあるまいよ・・」
自来也が壁の向こうを見るように視線を向けながら零すの を見て、ナルトも壁を見つめた。
部屋は静寂(せいじゃく)に包まれ少しずつ時は過ぎていく、歯車が動き出すまで、 あと、”少し”。