たとえばこんな間桐の話
日曜の朝っぱら。
テレビ画面に映るは戦隊物やら魔法少女物やらといった、お子様向けの番組で。
それらが終わって子供達が論じるのはその在り様。そして各々の主張である。
「爆発は男のロマンなんだよ!!お前の見てる魔法少女モノだって、肉弾戦っぽい事やってるじゃないかー」
「さぶみっしょなるのばーりーとぅーどは乙女のたしなみなんだよ、お兄ちゃん!!」
「マジでか!!乙女こええ!!」
「いやそのりくつはおかしい」
「いいじゃないかよ兄貴、夢があって!!」
「夢なのか今の会話が……」
「つーか何でそんな死んだ目してんだよ、もー……」
酒の飲みすぎかよ、いや寝不足だよ、寝ろよ!!そんな遣り取りをする大人二人に子供達が気付き、寄っていく。
そして名乗りとかいいよな!!じゃあ気合入れる為にもやってみようぜ!!そんなどうしてこうなった、的な会話の流れのもとに。
「間桐たるものっ!!」
白髪の男性が、集中線でも出しそうな勢いで拳を握り締める。着物の裾がはためいた。
「くすくす笑ってぇ!!」
その勢いを受け継ぐ様にして、幼い顔に勝気そうな笑みを浮かべながら、実に楽しそうに少年が叫ぶ。同じく着物の裾がふわふわ揺れた。
「ごーごー♪」
締めにくるは少女の可愛らしい声。こちらも楽しそうに微笑みながら、握り込んだ小さな拳を天へ向かって突き上げる。当然の様に着物の裾がリボンと共に跳ね上がった。
「ああっ私の台詞が無いっ!?」
そこで完結し完成してしまったその光景に、嘆きの言葉と共にショックを受ける涙目の中年男性。やはり着物の裾を無駄に翻して。
「こんなんで泣くなよ親父ー」
「酒ばっか飲んでるから情緒不安定になんだよ、兄貴は」
「お父さん、大丈夫?」
「私の味方が義理の娘のみだと……!!」
呆れる他二名とは違い、よしよしと少女に頭を撫でられ慰められ、その事実に戦慄する中年男性。
「そして私はその中にも入れないというのですね……畜生」
更にその後ろで、宙に半身を浮かばせた鎧騎士がぼそりと嘆く。
「ハブにされる駄犬が一匹……ふっ」
「僕の義妹が犬に対して隠す気も無く黒い件」
「間桐は逞しくないとダメなんだぞー」
「ううっ……その優しさが身に染みます……兜脱ぎますから直に頭撫でてくれませんか」
「いや、実に逞しいぞその駄犬」
何だかんだと仲良し家族な面々を遠巻きに。
「……ふ、ふんっ、寂しくなんかないぞ……ワシには蟲達がおるでな……」
見るからに寂しそうな老人が、強がる様に呟いていた。
──現在間桐邸に住む面々は、人間四名と英霊一体、蟲爺一匹。
そんな間桐家は約一匹を除き、随分と楽しそうだった。
作品名:たとえばこんな間桐の話 作家名:柳野 雫