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Black Rose

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街を歩く貴方が好き。一分の隙も無くて、女性の視線を根こそぎ攫って行くような、そんな貴方が好き。
何を考えているのかわからない、わからせない。それでも口元に浮かぶ哂いから、きっと悪巧みだとわかる。そんな貴方が好き。
地上からは決して見ることのできない月の裏と同じように、私には決して見せない顔を持つ貴方に限りなく惹かれる。それがどんな顔であっても、決して見ることが叶わないのなら、私は貴方を見たいと求め続けて貴方の周りを回り続けることだろう。
中毒性のある貴方が好き。私は貴方に嗜癖している。脳の回路が貴方を求めて止まない。この心を繋ぎ止めて、そうして私を恋に狂わせ続けていて欲しい。


アリスが、久し振りに購入した小説の冒頭の部分だ。
「そんな男居ないって・・」
読み始めから突っ込む。恋愛小説は、突っ込みながら読むのが王道だ。アリスは少なくともそう思っている。その世界に浸るというよりも、は?何、夢見ちゃってるわけ!的な視点から見てしまうのだ。まあ、これは初恋失恋後遺症と言っても良いのかも知れない。本人は認めないだろうが。だから買ってまで読む。悔しい思いを本の中の住人にぶつけているのだ。

居ない・・・そう言ったくせに、アリスは頭の中に一人の男の顔を思い浮かべる。
ブラッド=デュプレ
彼は、自分が知る中で一番この表現に当てはまりそうな気がしたのだ。
知る限り、隙が無い。女性には人気がある。マフィアのボスという顔を持つ。
ふむ。居ないことも無いのか・・・そこまで考えて赤面する。自分は何を考えていたのだ。何故、あの男の顔が浮かぶのだと焦る。胸の鼓動が少し速い。読み始めたばかりの本を閉じ、ベッドの上に座り直す。治まれ動悸。

コンコン

タイミング悪くノックの音で、また心拍が跳ね上がる。
もう!誰なのよ。と動揺を隠しながら、羽織物をしてドアを開ければ、こういう時に限って間が悪く本人だった。しかも大きな花束を持っている。

「おや、もうお休みだったかな。」
「ええ、何か御用かしら?」
「君にプレゼントをね。これを受け取ってくれ。それじゃお休み。お嬢さん。」

そう言って花束を押し付け、勝手に立ち去ろうとする男を呼び止める。

「ちょっと! これは何?」
「見てわかるだろう? 薔薇の花束だよ。」
「そんなの見ればわかるわよ。そうじゃなくて、貰う意味がわからない。」
「女性に花を贈るのに、一々意味を説明する必要があるのかい?」
「あるわよ。あるに決まってるじゃない。」

アリスは自分が見当違いの勘違いをしてしまいそうで怖い。たった今、本の中の有り得ない男性像がブラッドになら当て嵌まるかもと思った自分に驚いたところだ。このタイミングでこの花束は、彼女にとって困った贈り物だった。
ブラッドはドアの枠にもたれ、腕組みをして此方を見下ろす。その口の端が持ち上がっている。此方の反応を楽しんでいるのが凄くよくわかる哂いだ。その深い緑色の目を睨み返す。

「お嬢さんには、どんな理由なら受け取ってもらえるのかな?」
「理由は私が訊いてるのよ?」
「ふむ、では、君の顔を見る口実に・・とでもしておいてくれ。お休み、お嬢さん。」

そう言うと彼は行ってしまった。そんな理由は理由になっていない。残されたアリスは、意味を探して立ち尽くす。腕の中に残されたのは、暗い色の五分咲きの薔薇の束。

「どうするのよこれ・・」

これは本当にアリスのためにブラッドが買ってきた薔薇なのだろうか。もしそうならば、理由はなんであれ流石に突っ返すというのも如何かと思う。
(なんでこんな暗い色の薔薇なのよ・・・。女性に贈るならもっと明るい色が常識でしょう!)
何か事情があって自分のところに回ってきただけかもしれない。アリスは理性で、浮ついた考えをねじ伏せる。
とにかくドアを閉めて、バラはテーブルの上に置いた。勤務のためにも寝ておかなくてはいけない。が、電気を消した中で目が冴えて眠れなかった。かといって本を読む気分でもない。ベッドの上で何度も寝返りを打ち、やはり意味を探してしまう。だがアリスの中に答えなどあるわけも無く、持ち上がる期待と、それを打ち消す理性で苦しくなる。その繰り返しの中で、気付かぬうちに眠りに落ちていた。




「これは何だ?」

椅子に座ったブラッドは瓶を持ち上げると、透けて見える中身を見ながらアリスに尋ねた。白い結晶に黒っぽい何かが混じって崩れたような層を成している。一度も見たことが無い物だ。

「随分前に私に薔薇をくれたでしょう。忘れちゃった? あれで作ったの。ほら、良い匂いがするでしょう。モイストポプリっていうのよ。」

アリスは少し得意気に、自分の持つ瓶の蓋を外して見せた。二人の鼻孔をバラの香りが通り抜けて行く。ハートの城で薔薇の手入れに専従する兵士から聞いた通りに作ってみたら、思いの外良い感じに仕上がってご満悦なのだ。
嬉しそうに話し続ける彼女とは対照的に、目の前の男は特に興味もなさそうな顔で聞いている。

「君のと此れと二つ出来たのか?」
「いいえ、私の部屋にそれと同じ物が一つと、籠の中にこれと同じ物があと三つあるから仲の良いメイドさんにあげようと思って。」

ブラッドの持っているビンは男の手で持っても瓶の方がやや大きいが、アリスの持つ方は彼女の手に納まるくらいの小振りな物だった。

「そうか、君の部屋の物以外は全部私が頂くよ。出しなさい。」
「は?」

メイド姿のアリスは上司の命令には逆らえない。足元にある籠に入れたままの残りの瓶もアリスの持っていた分も取り上げられてしまった。
彼女には怒る権利くらいはあるだろう。いきなり意味不明に押し付けられて、扱いに困った綺麗な花を有効活用するために、時間と手間を掛けて作った物なのだ。
(本当、勝手な男だわ。)
アリスは口を尖らせてブラッドに背を向ける。


執務机の前に立ち、瓶の中身と作り方を得意気に説明するアリスを見て、ブラッドは理解した。目の前に立つメイド服の女は、自分の送った花束をどうやら塩漬けにしてしまったらしいと。
(鈍感にも程があるだろう・・)
気に入った女の言う事だからと、仕事がしたいといえば屋敷での仕事を探してやり、本が好きだと言うから部屋にも自由に出入りを許可した。私の部屋にこんなに自由に出入りできるのは彼女だけだというのに、全く感謝もしていない。それどころか当たり前のような顔をしている。好きな本があれば取り寄せると言っているのに、自分で勝手に本屋へ買いに行く。それとなく、お茶の席で、もっと私を頼れと言っているのにその後も何も言っては来ない。可愛く無い事この上ない女だ。
極め付けに、花を贈れば塩漬けにされてしまった。ポプリだか何だか知らないが、元は自分の送った花だ。それを私以外の者にプレゼントするなど到底許せることではない。

一体どうなっているのだ、この女は! まさか、この私の気持ちを弄んでいるとでもいうのか?

ブラッドは席を立つと、扉に向かうアリスを大股で追う。彼女が開いた扉を片手で無理矢理締めると、不満げに文句を言う彼女の唇を塞いだ。慌てて抵抗されるが、構わず続ける。

「なっ、何するのよ馬鹿っ!」

唇を離すと同時に投げつけられた暴言。
作品名:Black Rose 作家名:沙羅紅月