Black Rose
「馬鹿は君だろう。人のプレゼントを塩漬けにして得意気になってる君の方が馬鹿だ。」
「なんですって! ちゃんとはっきり理由も言わなかったくせに、今更なによ。」
「そうか、じゃあゆっくり教えてやる。こっちへ来い!」
そういうとアリスの腕を引っ張ってソファの方へ歩き出した。放せと連呼する彼女は押し倒される。ブラッドは何を考えているのか、怪しげに笑いながら見下ろす。
「ブラックローズの花言葉は、『あなたはあくまで私のもの』だ。わかるか?君は私のものってことだよ、お嬢さん。そして、君はその花を受け取ったんだ。」
「知らないわ!そんなの卑怯よ。」
「今更遅いだろう? 君は私のものだ。」
「無理。絶対無理!」
ブラッドはアリスを組み敷きながら、少し悲しそうな眼をする。声のトーンも低く、彼女を押さえつけている手の力が抜けてゆく。その隙に身体を起こし、ソファの上に座り直した。
「私はそんなに嫌われていたのか? 君は、私に好意を寄せてくれていると思っていたんだ。勘違いだったんだな、すまない。」
「いや、だから嫌いってわけじゃなくて・・その、突然でビックリしたって言うか、何て言ったらいいのかしら・・」
アリスは、ブラッドの豹変振りに驚いた。いつも勝ち誇ったように見下ろす男が、こんなに弱気な態度を取るなんて初めてだ。決してこの男を嫌いではない。その事は解って欲しかった。伝えたいと思った。言葉を尽くして、誤解を解きたい。薔薇だって、ポプリにしたのは長く楽しみたいという気持ちがあったからだ。それをどう言ったら上手く伝えられるのか。
「そうか、そうだな。いやいいんだ、もう行っていい。」
立ち上がり机に向かうブラッドの背中を見る。傷付けてしまったのだ、きっとこの人を。如何したら良いのだろう。そう思いながら、何も言えず、何か行動を起こすことも出来ない。
「ブラッド? その友達として好きだから。」
「ん?ああ。」
居た堪れない空気に、アリスはそれだけをやっと言うと部屋を出た。
恋はもう二度としたくないの。ごめんね、ブラッド。そう思いながら、執務室の扉を閉めた。暫くはその扉に背を預けて、指先で唇に触れてみる。思い出すだけでも恥ずかしい。そして、嬉しい。
塩漬けの薔薇、もといモイストポプリとやらの入った瓶を眺めてブラッドは思う。
(あの鈍感女め、やっとわかったか。仕様が無い、作戦変更だな。まあ、今日は収穫もあった、悪くない。)
彼の指は自分の唇をなぞる。怪しい哂いを浮かべた唇を。
作品名:Black Rose 作家名:沙羅紅月