第0.5Q 黒子は僕です
1―紺野舞
赤い髪の少年は私に言った。
「紺野、君、やってみせてくれ」
彼の言われるがままに、久々にボールを体育以外で弄んだ。
横で、同じマネージャーの子が驚いている。
私はなぜ驚いているのか、分からなかった。そして、あの一言が全ての始まりだった。
帝光バスケ部。部員数は百を越え、全中三連覇を果たす、超強豪校である。
中でも、私たちの学年の五人は、10年に一人の逸材たちであり、彼らは『キセキの世代』と呼ばれた。
そんな中、誰も知らない、しかし『キセキ』全員が認める、謎の選手が一人いたこともここに追記する。
私は、当時マネージャーであったが……。
「はい、ここにクラスと名前書いて。あと、出身校も」
「動機はどうします?」
「書きたかったらでいいわ。あ、うちの学校選んだ理由やこの部を選んだ理由ね」
「はい。でも、すいません、出身は伏せてもいいですか?」
「なにかあるの?」
「いえ、書いたところで信じてもらえないだろうし、他の子にあまり知られたくないんです」
「ふぅん。まぁ、いいわ。名前とクラスだけでも」
「ありがとうございます」
目の前の、先輩らしき女子に言われて、スルスルとペンを走らせた。
『紺野舞』という名前と、動機もだ。
「あら?あなた、選手志望?」
そういうのは、動機の『プレーで〜』という部分からだろう。
「はい」
と、明快に答えた。
「うぅん、まあ、いいわ。あなたでも大歓迎だわ」
先輩さんはカッコで『たぶん』と付きそうな微妙な顔つきで答えた。
まあ、しごく当たり前の反応である。
「じゃあ、明後日、体育館でね」
「ありがとうございました。では、また」
私は、横にいる眼鏡の男子にも礼をして、去っていった。
そこですれ違ったのは、赤い髪の大きな男子だった。
誰かと一緒に、私のいた場所、バスケ部の説明場所に向かっていた。
こっそり、私を誘ってくれた赤髪の少年を思い出しつつ、もう一人、思い出していた。
名前は黒で、髪は水色の少年を。
2―相田リコ
紺野、という女子を見送り、私は横に座っていた日向くんを見やる。
「さっきの子、おもしろそうねぇ」
「そうだなぁ、可愛かったなぁ」
どこからか用意していたハリセンで日向くんを叩き、言った。
「あんた、見方おかしいんじゃないの、日向くん?」
ジト目で見据えると、さすがに彼も苦笑した。
前を見ると、紺色の髪をした彼女はとうにどこかへ行っていた。
何かを抱えている顔つきだった。妙に大人びて見えた。それは錯覚だろうか…。
だが、今気を揉むことではないだろう、と思い直し、「ふう」とため息をつく。
主将である日向くんはまだニヤニヤしているが、放っておくことにする。
と、
ガタンッ
目の前に、同じ部の小金井くんの顔が現われた。なぜか半泣きだ。
「うおぅ、小金井くん!?」
「連れて……きましたぁ」
連れてきた相手がどこにいるのかと目で探すと、上から、
「バスケ部って、ここか?」
野太い声が降ってきた。
私は思った。
(つ、連れてこられとるやんけーーーーーー!!!!!!!?)
赤髪の、連れてきた虎の威をした男子は席に着いた。もちろん、小金井くんは解放されている。
私は咳払いをしてから、話し始めた。
「で、えっと、知ってると思うけど、うちは去年できたばっかりで、」
「そういうのいいよ。紙くれ。書いたら帰る」
人の話もろくに聞かず、水を飲んで、赤髪の男子はサッサと紙に記した。
「火神、大我くん、か。中学はアメリカ?!なるほど、本場仕込みってわけね」
火神くんは聞き流しながら席を立った。
「あれ、動機は、なし?」
火神くんに向かって聞くと、フンッと鼻息をならし、右手で紙コップを崩した。
「別にねぇよ。日本のバスケなんて、」
紙コップを後ろに放る。
「どこも一緒だろ」
紙コップは、言い終わると同時に加熱ゴミの中に入った。
彼は思い詰めた目をして、前へと進んでいった。
小金井くんが横でバァッと両腕を伸ばす。
「こっ、こえぇぇぇぇ。あれで高1!?」
「てゆうか、なんで首根っこ掴まれて来たのよ」
「いや、それは……」
と言いよどむ彼が何かに気づいた。
小金井くんが私に紙を見せる。
「一枚、入部届忘れてるよ」
「あ、うわ、ホントだ」
紙を見る。すべての欄が埋められていた。
「黒子、テツヤくん?」
机番を一緒にしていた日向くんも疑問符のようである。
下を見て、思わず叫んだ。
「って、帝光中バスケ部出身?!!!!!」
「えぇぇぇぇぇ、あの、有名な?!」
「しかも、今年一年ってことは、『キセキの世代』!なんでそんな金の卵を忘れたんだ私?!!!!」
頭をかきむしる私と唖然とする男子二人。
日向くんは言った。
「紺野さんは女子、火神くんはアメリカ出身!今年の一年、ヤバイ!!!」
2日後、バスケ部の仮入部の日だ。
主将である日向くんのかけ声で、一年は集まった。
そこで一年数人が私を見ながら言っていた。
「なぁ、あのマネージャーかわいくねぇ?」
「2年だろ?」
「けどもうちょい…」
そこのあたりで聞こえなくなった。水戸部くんに合図されたからだ。
なぜか頭にげんこつを食らっている1年を一瞥し、私はみんなの前に立った。
「男子バスケ部カントクの、相田リコです。よろしく!」
一年は、絶叫した。
「あの、先生は?!」
「あれは、顧問。見てるだけなの」
それを聞いて、一年は「マジかよ」「ありなのか?」などと口々に言っているが、無視無視。
さぁ、おきまりの言葉を出そう。
「それじゃあみんな、シャツを脱げ!!」
一年は再び絶叫した。
が、やはり先輩たちの圧に負け、すごすごとシャツを脱ぐ男子たち。
私はひとりずつ、見て回った。
「君、瞬発力弱いね。反復横跳び50回/20secくらい?バスケにはもうちょいほしいわ。……君は身体が硬い。風呂上がりに柔軟して。……君は、」
と一人ずつ指摘していく。
お父さんがスポーツトレーナーだったから、毎日その現場を見ていて得た特技、体格を見ることで、その身体能力が数値で分かるためだ。
そして、寒い寒い、とぼやいている火神くんのもとへ来た。
「……なんだよ」
凄んで聞こえるその声を聞き流し、彼の身体を見た。が、
(何これ?!!全部ずば抜けてる?!!こんなの高1男子の数値じゃない!!!しかも、伸びしろが見えないなんて!!!)
私は、よだれを出るがままにした。初めて生で見た、天賦の才能を前にして。
「カントク、いつまでボーっとしてんだよ」
日向くんの声で目を覚まし、よだれを拭く。
「ご、ごめん!で、えっと、……」
「全員見たろ。火神くんでラスト」
「あ、そう。…あれ?黒子くんは?」
「あ、そいや、紺野、っていう女子も」
「来ましたよ」
「うわぅ、紺野さん!?」
紺野さんはいつの間にか、私の隣にいた。
「い、いつから?」
「眼鏡のかたが、誰々がラスト、っていい終えたくらいにドア開けました」
「ホント!!!?」
私は、首をかしげる紺野さんに言った。
「紺野さん、悪いけど、シャツを脱いで!」
「え、ここで、ですか?!」
びっくりする紺野さんが、周りを見渡す。
赤くなっている男子どもを見やり、
「そうね、やっぱり更衣室来て。日向くん、伊月くん、見張ってて。来たら、殺す」
赤い髪の少年は私に言った。
「紺野、君、やってみせてくれ」
彼の言われるがままに、久々にボールを体育以外で弄んだ。
横で、同じマネージャーの子が驚いている。
私はなぜ驚いているのか、分からなかった。そして、あの一言が全ての始まりだった。
帝光バスケ部。部員数は百を越え、全中三連覇を果たす、超強豪校である。
中でも、私たちの学年の五人は、10年に一人の逸材たちであり、彼らは『キセキの世代』と呼ばれた。
そんな中、誰も知らない、しかし『キセキ』全員が認める、謎の選手が一人いたこともここに追記する。
私は、当時マネージャーであったが……。
「はい、ここにクラスと名前書いて。あと、出身校も」
「動機はどうします?」
「書きたかったらでいいわ。あ、うちの学校選んだ理由やこの部を選んだ理由ね」
「はい。でも、すいません、出身は伏せてもいいですか?」
「なにかあるの?」
「いえ、書いたところで信じてもらえないだろうし、他の子にあまり知られたくないんです」
「ふぅん。まぁ、いいわ。名前とクラスだけでも」
「ありがとうございます」
目の前の、先輩らしき女子に言われて、スルスルとペンを走らせた。
『紺野舞』という名前と、動機もだ。
「あら?あなた、選手志望?」
そういうのは、動機の『プレーで〜』という部分からだろう。
「はい」
と、明快に答えた。
「うぅん、まあ、いいわ。あなたでも大歓迎だわ」
先輩さんはカッコで『たぶん』と付きそうな微妙な顔つきで答えた。
まあ、しごく当たり前の反応である。
「じゃあ、明後日、体育館でね」
「ありがとうございました。では、また」
私は、横にいる眼鏡の男子にも礼をして、去っていった。
そこですれ違ったのは、赤い髪の大きな男子だった。
誰かと一緒に、私のいた場所、バスケ部の説明場所に向かっていた。
こっそり、私を誘ってくれた赤髪の少年を思い出しつつ、もう一人、思い出していた。
名前は黒で、髪は水色の少年を。
2―相田リコ
紺野、という女子を見送り、私は横に座っていた日向くんを見やる。
「さっきの子、おもしろそうねぇ」
「そうだなぁ、可愛かったなぁ」
どこからか用意していたハリセンで日向くんを叩き、言った。
「あんた、見方おかしいんじゃないの、日向くん?」
ジト目で見据えると、さすがに彼も苦笑した。
前を見ると、紺色の髪をした彼女はとうにどこかへ行っていた。
何かを抱えている顔つきだった。妙に大人びて見えた。それは錯覚だろうか…。
だが、今気を揉むことではないだろう、と思い直し、「ふう」とため息をつく。
主将である日向くんはまだニヤニヤしているが、放っておくことにする。
と、
ガタンッ
目の前に、同じ部の小金井くんの顔が現われた。なぜか半泣きだ。
「うおぅ、小金井くん!?」
「連れて……きましたぁ」
連れてきた相手がどこにいるのかと目で探すと、上から、
「バスケ部って、ここか?」
野太い声が降ってきた。
私は思った。
(つ、連れてこられとるやんけーーーーーー!!!!!!!?)
赤髪の、連れてきた虎の威をした男子は席に着いた。もちろん、小金井くんは解放されている。
私は咳払いをしてから、話し始めた。
「で、えっと、知ってると思うけど、うちは去年できたばっかりで、」
「そういうのいいよ。紙くれ。書いたら帰る」
人の話もろくに聞かず、水を飲んで、赤髪の男子はサッサと紙に記した。
「火神、大我くん、か。中学はアメリカ?!なるほど、本場仕込みってわけね」
火神くんは聞き流しながら席を立った。
「あれ、動機は、なし?」
火神くんに向かって聞くと、フンッと鼻息をならし、右手で紙コップを崩した。
「別にねぇよ。日本のバスケなんて、」
紙コップを後ろに放る。
「どこも一緒だろ」
紙コップは、言い終わると同時に加熱ゴミの中に入った。
彼は思い詰めた目をして、前へと進んでいった。
小金井くんが横でバァッと両腕を伸ばす。
「こっ、こえぇぇぇぇ。あれで高1!?」
「てゆうか、なんで首根っこ掴まれて来たのよ」
「いや、それは……」
と言いよどむ彼が何かに気づいた。
小金井くんが私に紙を見せる。
「一枚、入部届忘れてるよ」
「あ、うわ、ホントだ」
紙を見る。すべての欄が埋められていた。
「黒子、テツヤくん?」
机番を一緒にしていた日向くんも疑問符のようである。
下を見て、思わず叫んだ。
「って、帝光中バスケ部出身?!!!!!」
「えぇぇぇぇぇ、あの、有名な?!」
「しかも、今年一年ってことは、『キセキの世代』!なんでそんな金の卵を忘れたんだ私?!!!!」
頭をかきむしる私と唖然とする男子二人。
日向くんは言った。
「紺野さんは女子、火神くんはアメリカ出身!今年の一年、ヤバイ!!!」
2日後、バスケ部の仮入部の日だ。
主将である日向くんのかけ声で、一年は集まった。
そこで一年数人が私を見ながら言っていた。
「なぁ、あのマネージャーかわいくねぇ?」
「2年だろ?」
「けどもうちょい…」
そこのあたりで聞こえなくなった。水戸部くんに合図されたからだ。
なぜか頭にげんこつを食らっている1年を一瞥し、私はみんなの前に立った。
「男子バスケ部カントクの、相田リコです。よろしく!」
一年は、絶叫した。
「あの、先生は?!」
「あれは、顧問。見てるだけなの」
それを聞いて、一年は「マジかよ」「ありなのか?」などと口々に言っているが、無視無視。
さぁ、おきまりの言葉を出そう。
「それじゃあみんな、シャツを脱げ!!」
一年は再び絶叫した。
が、やはり先輩たちの圧に負け、すごすごとシャツを脱ぐ男子たち。
私はひとりずつ、見て回った。
「君、瞬発力弱いね。反復横跳び50回/20secくらい?バスケにはもうちょいほしいわ。……君は身体が硬い。風呂上がりに柔軟して。……君は、」
と一人ずつ指摘していく。
お父さんがスポーツトレーナーだったから、毎日その現場を見ていて得た特技、体格を見ることで、その身体能力が数値で分かるためだ。
そして、寒い寒い、とぼやいている火神くんのもとへ来た。
「……なんだよ」
凄んで聞こえるその声を聞き流し、彼の身体を見た。が、
(何これ?!!全部ずば抜けてる?!!こんなの高1男子の数値じゃない!!!しかも、伸びしろが見えないなんて!!!)
私は、よだれを出るがままにした。初めて生で見た、天賦の才能を前にして。
「カントク、いつまでボーっとしてんだよ」
日向くんの声で目を覚まし、よだれを拭く。
「ご、ごめん!で、えっと、……」
「全員見たろ。火神くんでラスト」
「あ、そう。…あれ?黒子くんは?」
「あ、そいや、紺野、っていう女子も」
「来ましたよ」
「うわぅ、紺野さん!?」
紺野さんはいつの間にか、私の隣にいた。
「い、いつから?」
「眼鏡のかたが、誰々がラスト、っていい終えたくらいにドア開けました」
「ホント!!!?」
私は、首をかしげる紺野さんに言った。
「紺野さん、悪いけど、シャツを脱いで!」
「え、ここで、ですか?!」
びっくりする紺野さんが、周りを見渡す。
赤くなっている男子どもを見やり、
「そうね、やっぱり更衣室来て。日向くん、伊月くん、見張ってて。来たら、殺す」
作品名:第0.5Q 黒子は僕です 作家名:氷雲しょういち