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氷雲しょういち
氷雲しょういち
novelistID. 39642
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第0.5Q 黒子は僕です

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笑顔で私は言い、更衣室へ向かった。
更衣室の戸を閉めて、まず、下着が目についた。紺色のスポーツブラジャーなのは今更驚かないが、その下の肌の白さと、
「胸が……D、だと……」
「あ、よくわかりましたね。たしかにDカップです」
「わ、私よりデカイじゃないの!?」
「とにかく、なにするんですか?」
紺野さんの問いでハッと我に帰った。
このままでは、ただのレズっ子である。まあ、この柔らかさに埋まりた、いやいや、とにかく、測らねば。
私は四肢、胴、足首など、隅々まで見た。
そして、見終えると、ギリギリの理性で「服着ていいわ」と言った。
紺野さんは頷いて服を着る。
私は静かに見守りながら、試しに聞いてみた。
「どうして、そんな思い詰めた顔してるの?」
紺野さんはスッと顔を上げ、無表情で答えた。
「そう、見えます?」
「ええ。初めて見たときから。あの説明会の時ね」
「…………すいませんが、今は言えません」
スカートも履き終え、上着に手をかけながら紺野さんは言う。
は踵を返してドアの方を見て言った。
「まぁ、言いたくないなら聞かないわ。ここは男ばっかだから、言いたいことあったら、私通してでもいいから」
紺野さんは苦笑しながらも「はい、そのときは、お願いします」と答えた。
「じゃあ、着替え終わったし、行こうか」
そう言って、私がドアを開けようとしたところで、
「そういえば、さっき、黒子、って名前出しました?」
「え、うん。そうなのよ。なんか、すごいんだけど、今日は来てないのかなぁ」
そこでいきなり、手をかけられた。
振り返ると、
「あのぅ、」
紺野さんのではない声がした。
「黒子は、僕です」
私は閉めっぱなしの戸を見る。目の前の男子を見る。
そして、
「ギャ、ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
叫んだ。
その叫びを聞きつけ、男子どもが走ってくる。
戸は拍子で半開きになっていたので、着替えが済んでいるのは明白だった。
「どうした、って、うおぉぉぉぅ、君、いつから?!!」
「い、い、い、いつからそこに?!」
私が問うと平然と彼は答えた。
「いえ、着替えが済んだようなので。ずっと体育館にはいました」
「まさか、のぞき?!!」
「違います。ちゃんと、着替え終わったと聞いてからです」
その場に普通にいた紺野さんがやっと口を開いた。
「なんだ、やっぱりホクロくんだ」
「だから、黒子です。試合中じゃなくても、ちゃんと呼んでくださいよ」
「いいじゃない。で、奇遇ね。一緒の学校なんて」
「クラスも一緒ですよ。ちなみに、紺野さんの真左にいます」
「え、ホント?!うわぁ、さすがに数ヶ月会ってないだけでここまで見えないとは……」
「紺野さんは、って、聞かないでもいいですよね」
「うん、まぁね」
私は思った。
――なんでフツーに会話できてんの?!!
「まさか、二人とも、知り合い?」
「「はい」」
「え、じゃあ、二人とも帝光?!!」
これは日向くんの声だ。
その声で、皆口々に、騒ぎ始めた。
「でもまさか、二人とも1軍とかじゃないよね」
「試合には出てました」
「私は補欠でしたけど、1軍です。たまに試合に出ました」
「うん、そうだよね。って、え、まじ?!!」
慌てふためく紺野さん、黒子を除く一同。
私は頭を振って、黒子くんに言った。
「とりあえず、黒子くん、服脱いで」
「え、さっき着たのに……」
言いつつ、シャツを脱ぐ。
それを一目見て分かった。
――これは、え?!!!!
その場は、何も言わず、軽い運動やミーティングの後、解散となった。
だが、強い疑問が残った。
――黒子くんなんかが、『キセキの世代』とともにレギュラーを争えるほどの身体能力はない、と。
すべての数値が平均以下、おまけにあの影の薄さだ。
また、紺野さんも同様だ。
女子の平均は確かに凌駕し、男子の平均に届きかけてはいるが、所詮はそんなもの。
女子のバスケットプレーヤーはいないわけではないが、普通の娘たちと遜色ない。
これで、帝光のバスケ部で試合になど、とうてい出られるわけがない。
いったい彼らは、何を隠しているのだろう。

3―紺野舞
私は、久々に右隣のホクロくんと話していた。
「みんな、どこに行ったか知ってる?」
「何人か、ならですが」
「私は知ってる」
「じゃあ、なんで聞いたんですか?」
「なんとなく」
私はフフフッと笑いながら、メロンソーダを飲む。これが好きなの。
そこへ、同じ部にいた赤い髪の青年が来た。
「よう、いたのか」
「こんにちは、えっと、名前は?」
「火神大我だ」
言いつつ、私の斜め前に座る。
「オッケ、バカ神くん」
「んだとっ!?なんでそんなあだ名?!」
「見た目から。で、私は紺野舞。呼びは好きにして」
「てめえ、人の話聞かねぇんだな」
「いい加減、僕にも声掛けてくれないんですか?」
そう言ったのは、バカ神くんの前にいる、ホクロくんだ。
「うおぅ、いたのかよ、てめえも」
「いました。ここにずっと」
「マジかよ……」
「それにしても、よく食べるわね。『キセキ』にもそんな子、いなかったわ」
バカ神はピクッと反応して言った。
「そうだよ、てめえら。話がある」
「愛の告白?いきなり?一目惚れなの?」
「なんで、いや、ちげぇよ!!」
「いつ話すんです?」
「食いおわってでいいだろ」
三人は黙々と完食し、ハンバーガー店を出た。
連れられて来たのは、バスケットコートのある公園だ。
バカ神くんは、私たちと向かい合う態勢で言った。
「なあ、てめえら、『キセキの世代』ってので有名らしいな。そこにてめえらはいたらしいじゃねぇか。だが、てめえらには、特に黒子には、強そうな匂いも弱い匂いも感じねぇ。何を隠してる?」
ホクロくんは静かにバカ神くんと私を見て、言った。
「紺野さんは、事情があるので、動きを見てない君とは、まだできません。でも、」
ホクロくんは上着を私に放った。
「僕、やってみたかったんです。君と、1on1」
バカ神くんはニヤリとして、ボールを手に取った。
私は手近なベンチに腰を下ろし、見守った。
とはいえ、やはりというかなんというか、数分後、ボロ勝ちしたバカ神くんは叫んだ。
「てめえ、死ぬほどよえーじゃねぇか!?」と。
まあ、仕方ない。ホクロくんだもの。
「てめぇ、さっきいい感じに挑んどいて、なんだよ!全然弱いじゃねぇか!!」
「勝てるわけないじゃないですか。僕は勝てる自信なんてなかったです」
「なんだと!?」
「火神くんの強さを見たかったんです。あと、ダンクも」
「ただ弱すぎて匂いもしなかっただけかよ」
バカ神くんはため息をつき、私を見た。
「紺野、あんたは強いのか?」
「まあまあかな。『キセキ』ほどじゃないよ」
「……………… 」
バカ神くんは再びため息をつき、ホクロくんに言った。
「とりあえず、お前、バスケやめたほうがいいぜ」
ホクロくんはボールを拾い、バカ神くんを見据える。
「バスケは努力だなんだでどうかなるスポーツじゃねぇ。才能って壁は歴然としてあるんだ。そして、お前は向いてねぇ。これ以上続けても、無駄なだけだぜ」
ホクロくんは静かにバカ神くんに歩み寄り、言った。
「嫌です」
はっきりと。そして、こう続ける。