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幻の月は空に輝く0・転生の章

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 【出会い】




 誰かが優しく擦ってくれる。
 直接じゃないけど、それでも撫でられてるってわかる感触。
 慈しむように優しく優しく。

 身体の自由はきかないし、目もあかない。けれど、愛されてるって確証だけはあって、その優しい温もりと声に包まれながらも私は、毎日何かの中をたゆたうという日々を過ごしていた。
 声は、女の人の声。
 時々男の人の声も聞こえるけれど、女の人よりも頻度は落ちる。でも、男の人も私が大好きでたまらない。女の人も大好きだっていう気持ちを垂れ流し状態。思わず何処かのバカップルか? って苦笑いを浮かべてしまうけど、こういう雰囲気は嫌いじゃない。
 どのぐらい経ったのかな。
 どうにもこうにも、時間の感覚がすっかりと鈍り果てた私は、今日も温かな中でその温もりと優しい感覚を十分に堪能していた。
 いつもと違ったのは、女の人と男の人以外の存在が近くにいるって事。多分、この気配は前々から感じていたんだけど、気にしてなかったっていうのが正解。
 まだ、あんまり手が動かないんだよね。
 最期の時と違って、あんな管だらけの腕じゃなくて、純粋に動きが鈍いなって感じの動かなさ。不快じゃないから気にしてないんだけど。
 というか、一回死んでみればわかる。
 少しの事じゃ動じないのですよ。
 けれどその小さな気配に心引かれて、私は一生懸命指先を伸ばしてみた。
 例え届かなかったとしても、自分的には大がつく快挙的な事をやってのけている。つもりになってる。
 うーん。しかし、こうしてみると動かないっていう事はやっぱり不便だ。
 ふごふごと間抜けな声をあげながら(つもり)、私は日々小さな気配に近付こうと努力してみた。
 すると、女の人が驚いた気配がした。
 ん? 驚き??


「アナタ。動いたわ。嵐誓(ランセイ)が今動いたのよ」

「あぁ、本当だ。俺たちの可愛い赤ちゃん。元気に育ってくれよ」


 へぇ。赤ちゃんが動いたんだぁ。
 そりゃ良かったぁ。


 ……………………………。


 長い、長い沈黙の後、漸く私は首を傾げるに至った。
 いや、だってさ。
 女の人のその言葉って、超がつく程の重要さを含んでなかった?
 いやいやいやいや。
 決して私が鈍いわけじゃなくてね? 本当に鈍いんじゃなくてね?


 まっさか、記憶持って生まれ変わって胎児をやってるなんて思わないって。


 けれど、そう考えれば全てに納得がいく。
 温かでぬるま湯に浸かっているような安心できる場所。
 私を愛してくれている女の人と男の人。ちなみに、この間も相思相愛と見た。
 で、開けられない目と動かない身体。


 胎児そのものですよねー。

 あっはっは。今更だけど。

 で、漸く自分の置かれている状況に気付いた私だけど、特にやる事に変わりは無かった。あぁ、一応ね。赤ちゃんってどんなかな?なんて思い出してはいたわけよ。
 だって、私の知識を存分に活かしたら異端でしかないし。
 そのぐらいはわかるよ。だって、そういう小説も沢山読んでたし。
 まぁ、せめてもの救いといえば、トリッパーじゃなくて、転生だった事かな?
 トリップなんかしたら行方不明で両親泣かせるし。別の意味で思いっきり泣かしたけど、それにはあえて触れない方向で。
 大人になってからトリップなんてどうしようもないし。
 赤ん坊からだったら、泣いて母乳…という羞恥プレイを強要されるわけだけど、それにも目をつぶってつぶってつぶりまくって、生まれる前から考えるのはやめておく。
 しかし、新たな情報を得た私は改めて、小さな気配を探してみる。
 一瞬双子かな、とも思ったけど、とりあえずそれはすぐさま却下した。双子って感覚じゃなくて、まったく別物の生命を感じたからだ。
 けれどそう考えると疑問もある。
 ここは明らかに羊水の中。まだ目が開けられないから視覚からの情報を得る事は出来ないけど、まず間違いないと思う。
 つまり、そうなると私以外の気配って何だろう?という疑問に到達するわけですよ。やっぱりふごふごーと間抜けな声を上げながら、一生懸命小さな気配に向かって手を伸ばす。
 普段だったらあり得ないと思った瞬間、ひいてた。
 怖いという感情が先行して、きっと見てみぬ振りをした。
 でも、一回死んで生まれ変わってみたりなんかすると、ちょっとの事じゃ動じなくなるっていうかね。
 多分っていうか絶対、あの時の自分のスプラッタの方が怖かったしね!
 
 まぁ、その辺りのちまちまとした逃げない理由は横へポンッと置いといて…。

 ぶっちゃけ、弟か妹がほしかったんだよね。
 残念な事に私は末っ子。多分長女長兄だったら今とは逆な意見だという事もわかってるんだけど、それでも、私は弟や妹という響きに憧れてたのだ。
 そりゃ、勿論従姉弟もいたよ。可愛がりまくって、懐いてくれて可愛いーってなったよ。従姉弟も可愛いけど、なんだろう。そうじゃないんだよね。
 従姉弟が可愛ければ可愛い程、憧れるんだって。
 
 私よりも小さな気配。
 
 絶対に弟か妹だ!

 思い込んでいた私は、来る日も来る日も飽きずに腕を伸ばす。最近では腕だけじゃなくて身体全身を動かしてたんだけど、何でかまったく諦めずにうごうごと動いて小さな気配に少しでも近付こうと頑張ってた。
 どうしてこんなに頑張るのか。
 自分でもまったくわからないけど、心の奥底から頑張って近付くぞー、なんて思ってしまったのが悪かったのかどうか。

「(うぎぃぃぃいいいい!!!)」

 気分的にはジタバタと。
 お母さん、らしい女の人は時々しか感じないらしく、お父さん、らしい男の人と元気な子ねって楽しげに話してる。
 そうだね。このジタバタを常に感じてたらお腹が痛くなるよね。
 ちょっとは自重しようかな。
 流石にお母さん、を苦しませるのは本意じゃないし。

「(でも悔しいぃぃぃいい。遊ぼうよぉぉぉぉおお)」

 声にならない声で、気配に向かってこれ以上ない程念じてみる。
 最後。そう、これで最後。
 でも、駄目だったら諦めようとかそんな事は何も思わなかった。

 最後になる指先を伸ばし、気配に向かって腕を動かす。頭を撫でられるように。可愛い可愛いって頭を撫でて、ギュッと抱きしめられるように。
 私の中では、この小さな気配は私が守るべき対象になってた。
 どうしてこんなふうに思ったのか。
 それは自分でもわからないんだけど。
 まだ生まれてもないのにね、とちょっと笑っちゃった。

 んー、と体力の許す限り手を伸ばしてたんだけど、やっぱり胎児の体力。あっさりと限界が訪れ、蹲るようにして背を丸めてしまう。
 そしてうつらうつらと意識が混濁してくる。もう起きてられない。

「(うぅー…私の弟妹…おやすみー…)」

 それでも、意識が飲み込まれる寸前に、私は小さな気配に向かって微笑みかけた。



《ランセイ…?》

 

 と思ったら覚醒した。 
 だって、小さな子が名前を呼んでくれたんだよ!
 私の名前予定を。

「(うんうんうん。これから貰う名前だけど、ランセイになると思う! はじめまして……えっと…)」